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一歩踏み出すのに三年かかりました



「・・・・・・・というわけだったんですよ」



「クレタ平原にミノタウロスがねー。それにしてもソウタくんは幸運だったわね」



シロウとミノタウロスの戦いが終わっておよそ三時間後、二人はオドバルの中にいた。

そして、ソウタは今回の依頼の報告をリリィと呼ばれる女性にしていた。



リリィはギルド『オドバル』のギルドマスターを務める女性である。

人を包み込むような優しい瞳にメガネをかけ、肩甲骨あたりまできれいなブロンドの髪を伸ばしている。

非常に若々しく見えるがギルドマスターになっていることから、ハンターとして相当な経験を積んでいるだろうし、ということは年齢もそれなりにはいっているだろう。


以前、いつまでたっても老けないリリィさんを不思議に思ってそれとなく年齢を聞いた勇者がいたらしいが般若のようになったという情報が出回っていて結局わからずじまいであった。




「ほんと幸運でした。ミノタウロスと戦うって言い出した時はぶん殴ってでも連れて帰ろうと思いましたけどね。まあ、いつもの奴と二人でしたら即効逃げましたけどね」


「まあ、普通の人は二人でミノタウロスとやろうなんて思わないからね。でも、シロウくんなら納得かな」



先ほどの戦いを思い出し興奮しているソウタとはうらはらにリリィは落ち着いた様子で優しいまなざしをシロウに向けた。



「納得ですか?シロウは俺といないときもミノタウロスとやりあうような無茶してたんですか?」


「そういう意味じゃないんだけどね。まあ、たしかに無茶はしてたかもしれないけどね。なんていうかシロウくんは自分の力だけで一人前に成りたがっていたのかな。だから、いつかはこんな日が来るだろうなって」



リリィはシロウに確認するように優しい視線を向けた



「リリィさんは俺の考えなんて全部お見通しなんですかね?

ソウタわかってないみたいなんてなんか自分の口から言うのもなさけないのでリリィさん説明してもらっていいですか?」



シロウはフーと息を吐いて両手で顔を覆った。



「私は別に情けないことなんかじゃないと思うけどなー。まあ、いいか。

ソウタくんはシロウくんが前のチームがあんな形で解散になってから今もずっと悩んでるって知ってるわよね?」



「はい、でもあれは…あれは別にシロウのせいってわけじゃないです。

 誰が悪いとかないですし、そんなこといっちゃあいつに失礼です」



あまり思い出したくない話なのか、グッと唇を噛みしめ目をそむけた。



「シロウくんもねそれはわかってるの。痛いほどわかっているんだけどね。

まあそれで、チームは解散したけどみんな自分の道を見つけたわけでしょ。

自分もいつまでも落ち込んでちゃいけないって思って新たなチームに入れてもらったりしたのはわかるよね?」


「はい。聞きました。でも、あわなかったみたいですぐにソロになってここにきたんですよね?」



「そう。ここにきたのは前みたいにチームで一人前のハンターとして認められるんじゃなくて、個人で一人前のハンターになるためにここにきたの」



一人前のハンターとはミノタウロスのような危険度が高い魔物を倒すことや依頼を一定数こなすことでギルドに認定されるものである。

認定されると公認したギルドの名前が掘ってある銀のプレートがもらえる。


これを持っていないうちは一人前とは認められず半人前扱いされたり、ギルドで受託できる依頼にも制限があったりする。



一人前のハンターとして認められるとは言ってもほとんどはチーム単位の認定である。

だから、チームが解散するとシルバープレートは没収される。

これはチームで一人前と認めているのであって個人で一人前と言っているわけではないともとれた。

もちろんそんなことを気にする奴なんてほとんどいないが。




「俺は、ちゃんと自分の足で踏み出すために一人前になりたかったんだ。

自分なりに受け入れて前に進むにはそうするしか思いつかなかった。

今度は誰も死なないように俺が誰よりも強くならないといけないと思ったんだ」



リリィが最後の言葉を言う前に、意を決してシロウは口を開いた。

一言一言にシロウの覚悟がにじんでいた。



「…水くせえな。相談ぐらいしろよ。…まあでも、よかった。みんな心配してたぞ」



ソウタは呆れたような顔をした後、少し笑ってシロウの肩をポンポンと叩いた。




「まあでも、三年もかかちゃったけどね。私、シロウくんぐらいの時にはもう個人でシルバープレートとっくに持ってたよ?」


リリィさんはしんみりとした雰囲気などお構いなしに、ににこにこしながら毒を吐いた。



「いや、さすがにリリィさんとシロウを比べるのはかわいそうじゃないですか?

今でもバリバリ現役の最強のチームの人と比べてあげるのは流石に…」



リリィはギルドマスターを務めるだけあって実力はこの世界ではトップクラスだった。

そのリリィとシロウを比較するのはシロウの言うとおりあまりにも酷だった。


「でも、シロウくんは私たちのチームを超えたいみたいだし、比べられるのはしかたないんじゃないかな?」



「え、シロウこの化物達を超えようとしてるの?

 …まあ、なんつーか、希望を捨てずにがんばれ」



ソウタはリリィさんとシロウを見比べるようにして何度も見た後、なんだか慰めるようにしてシロウをジッと見た。

なんだか無理だと言われているようだったが、現時点でそう思われて当然なのでシロウは何も言えなかった。



「シロウくんは私たちを超えたいならまずはチームを作らないとね。あてはあるの?」


「いや、今のとこは…。三年間もソロでやってたんで気難しい奴と思われているのか、全然誘われてないんですよね。知り合いも少ないし」



シロウが苦笑いしていると。リリィさんは「やっぱり」と言って不敵な笑みを浮かべた。



「シロウくんにピッタリな子たち何人かリストアップしてるの」



リリィさんに手助けしてもらいありがたい気持ちと、なんだか嫌な予感がいりまじり、シロウは乾いた笑いがこぼれた。



シロウはチーム解散から三年たち、他のチームメイトからは遅れたがやっと自分の足で動き出した。

そして、この一歩がリリィたちのギルド最強のチームを脅かすチームの最初の一歩だった。




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