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別次元

ゴブリンを四匹葬った後も、血の匂いに引き付けられてくる魔物は後を絶たなかったが、ゴブリン程度では二人の相手にはならなかった。


なんどかオークが単体で現れることもあったが、力が強いだけのスピードがない魔物などシロウの格好の的でしかなかった。ソウタが参戦するまでもなくこれまた一撃で葬ってしまった。



そんなこんなで二時間ほど、同じ場所にとどまり集まってくる魔物を狩りつづけた。

その数、ゴブリンが20匹、オークが4匹だった。

新人のチームで無理なく一日狩ってゴブリン20匹程度である。

二時間程度で、しかも二人での成果としては充分なものだった。



ソウタはもっぱら情報収集のギルド依頼が多い為ここまで戦い続けることが普段ない為、疲労の色が

見え隠れしてきた。そんなソウタを尻目にシロウは依然として息切れすら見せなかった。



「そろそろ街に戻ろう。俺もうそろそろきついわ」



「もうそんな時間かー。そんなことより、お前随分と体力落ちたんじゃないか?」



剣にまとわりついた血のりをぬぐいながらひょうひょうとした様子でシロウは言った。



「あほか。たしかに前より前線でやることは減ったけど体力なんか落ちちゃいねーよ。お前がおかしいだけだって」



シロウは基本的にソロで活動していたので比較対象が全然いなかった。

そのため、三年前に同程度の体力を持っていたソウタは勝手に今も自分と変わらないくらいできると思っていたのだ。

ソウタからしたらたまったものではない。シロウが三年間何をしていたかはわからないがすでに二人の間には明らかな体力の差があった。




「シロウはいつもこんな感じでやってるのか?」


「まあ、1人の時もこんなもんかなー。でも、今日はソウタがいるから周りに気を遣わなくてもいい分、いつもより全然疲れてないけどね」



そりゃ体力も嫌でもつくだろうなと思い呆れてなにも言えなかった。



「結局、なんも現れなかったな。予想した通りリリィさんの思い過ごしかもな」


「まあ、いつもとそんなに変わらなかったし原因はわからずじまいかね

 ただただ、運悪くゴブリンやらオークに囲まれたのが立て続けに起きただけかもな」



クレタ平原は広い。一日中歩き回っても原因の魔物を見つけられるかはわからないだろう。

そもそも、そんなやつがいるかいないのすらわかっていないので今回の依頼は何ともめんどうなものである。



「あんまり長居するとまた魔物が来るし引き上げようか」


「・・・・待て、何か来た。ゴブリンじゃない、オークでもない」



シロウがその場を立ち去ろうとすると、ソウタの感知範囲にいままでとは違う魔物が入り、緊張が走った。

シロウはソウタの目線に合わせ同じ方向を見た。

先ほどまでの雰囲気とは明らかに違う。もしかしたらそれだけやばい魔物なのかもしれない。



「・・・・・・まじかよ、ミノタウロスかよ」



二人の視線の先に現れたのは普段クレタ平原に現れることはないミノタウロスだった。




ミノタウロスは二足歩行の牛の魔物で全長3mはある。

頭には巨大な角が二つ生えていて、これが大きければ大きいほど強い。

いわば強さの象徴であった。


全身茶色の体毛に覆われ、その上からでもはちきれんばかりの筋肉がうかがえる。

手には柄から刃の先まで含めれば2mはゆうにある片刃の斧が握られてあった。

やつはこの獲物を自由自在に振り回すのである。

並みのハンターであればこの斧を受けることもできず、武器ものとも両断される。

その上、オークやゴブリンなどとは比べ物にならないくらい好戦的でタフである。

多少のキズを負わせられようと逆に怒り狂い、なりふり構わず襲い掛かってくる化物だ。



ハンターの間ではこのミノタウロスを討伐できるか否かで一人前の線引きがなされている。

チームを組んで数年間経験を積んでもミノタウロスに全滅させられるものも少なくない。

何年も訓練を積んで倒すチームもあれば、結成して一年たたずにあっさりと倒すチームも稀にある。



シロウとソウタのチームがそうだった。

そして、ミノタウロスを倒したあたりから期待のルーキーと呼ばれ始めた。

今考えるとこのあたりからチームの歯車が狂っていたのかもしれない。




「・・・もちろん、逃げるよな?」



ソウタは恐る恐るシロウに尋ねた。

三年前チームでやっと倒した相手に二人で挑むなんて馬鹿なことしないよな?

俺はやりたくないぞと必死に目で訴えかけていた。


「…やらせてくれ。

 大丈夫、ミノタウロスとは相性も悪くないから」



一刻も早くこの場を離れてしまいたいソウタには目もくれず、なにかを決意したように言い放った。



「は!?お前バカじゃねえの。俺の剣じゃあいつに碌なダメージ与えられないって知ってんだろ」



そう言ってシロウに自分の短剣を見せた。

たしかに、ソウタの短剣では相当深く突き刺すか急所にでも叩き込まない限り有効打は厳しそうである。


「いや、俺一人でやるから。

 ソウタは他の魔物が来ないか警戒しててくれればいいからさ。

 それに、今回のチームの壊滅の原因かもしれない奴を見つけたんだ。

 ここで始末しておいた方が後々楽だろう?俺に任せてくれないか?」


決意のにじんだ瞳がソウタをジッと見つめた。



ここでミノタウロスを残してギルドに戻って報告してもソウタにはなんのお咎めもないが、後日再び討伐チームを組み来なければいけないことは間違いない。

そうなれば、今度は討伐できるまで何度もここに来なければならない。

ソウタは発見者であるのに加えて、捜索におあつらえ向きの能力なので同行させられる可能性は高い。

たしかに、今ここでミノタウロスを葬れるのであれば手間は省けるうえに、報酬もたんまりもらえるだろう。



しかし、ミノタウロスにソロで挑むというのが如何せん問題である。

前例がないというわけではないがまず普通の人間はそんなことはしない。



何故、ここでシロウがミノタウロスを仕留めたがるか理解できなかった。

後々楽だからとか、自分の力を誇示したいとかくだらない理由で挑もうとしているのではないとシロウの性格を考えればわかる。



ソウタには何故かわからないが、シロウはなにか先ほどまでとは明らかに様子が違った。

強敵を前にした故の緊張ではない。

ソウタはそんなただならぬ様子を感じて止めるに止めれなくなった。



「わかったよ。でも俺がヤバいと思ったらお前を引きずってでも逃げるからな。

 目の前で仲間が死ぬのなんてもう見たくない・・・・・」


「・・・大丈夫。見ててくれ」




ミノタウロスは二人を発見すると『ブモォォォォォ』と威嚇するように叫び声をあげて向かってきた。

デカい図体にデカい武器を持っているせいか非常に遅い。

徐々に大きくなっていくその影はソウタに恐怖を覚えさせた。



いざ対峙してミノタウロスと比べてしまうとシロウは子供のようだった。

シロウは動じることなく、正面に立ち、大剣を両手で強く握りしめた。


先に動き出したのはミノタウロスだった。

大きな斧を袈裟切りに振り下ろした。

単純な振り下ろしが圧倒的な力によって死をまとった。


しかし、斧がシロウに届くことはない。

ガキンという鈍い金属音と共に自らの力で死をはじき返した。

普通の人間ならばミノタウロスに正面から力勝負を挑もうとはしない。

そんな常識などシロウには通用しない。


ミノタウロスは自分の半分ほどしかない小さきものに斧がはじかれたことに同様の色は見せない。

瞳を真紅に染め、鼻息をフンと鳴らしながら第二撃、第三撃と次々と斧を叩き込んだ。

シロウはそれを苦も無くはじき返した。


ミノタウロスの攻撃の手が止まろうともシロウは攻撃に転じようとはしない。

お前の攻撃はそんなものか?もっとこいよと言わんばかりに相手を挑発する。

そんなようすを見て勘にさわったのかその場でバンバンと足を踏み鳴らし、シロウに対する明確な怒りを露わした。

大地を揺るがすような叫びと共に先ほどとは比にならないほどの攻撃の嵐が始まった。


右に左に攻撃は絶え間なく続く。シロウはさながら嵐に晒される大木のようにじっとその攻撃を受け続けた。


これがミノタウロスの正面に立つということなのか・・・ソウタは背後から茫然と見守るしかなかった。



やがて、嵐はやみそこには変わらず大木が立っていた。

およそ10分に及ぶミノタウルスの攻撃はシロウに届くことはなかった。

直撃すればただではすまない一撃を躱し、はじき返し続けたのだ。


「ふぅ」と一息ついたやいなや、ついにシロウが攻撃に転じた。


ミノタウロスのように怒りに身を任せて剣をふるうことはない。

たしかに怒りは絶大な力を生むがむだが多い。もろ刃の剣である。

シロウにはそんな鈍など必要なかった。


息を切らしこちらをにらむ黒く濁った瞳にむけ一歩踏み出した。

シロウの初撃はミノタウロスの腕をとらえいとも簡単に深手を負わせた。

真っ赤な血があふれ出し、苦悶の表情をにじませ、せめてもの反撃に斧を振るった。



無駄だ。そんなラッキーパンチを食らうはずがない。

初撃を打ち込んだあと、シロウは深追いをせずに次に備えていた。



右腕に深手を負ったミノタウロスは憎らしそうにシロウを睨んだ。

シロウが今一度踏み込もうとするとそれを嫌がり斧を振り回す。

しかし、右腕のせいか先ほどのような勢いはなりを潜めた。



そんな斧がシロウに届くはずはなかった。



いとも簡単に懐まで接近し、丸太のような右足を剣で深々と切りつけた。

苦悶の表情を見せ、必死の抵抗として斧を手放した左手でシロウを殴りつける。


今度はシロウは止まらなかった。

左からやってくる一撃を右手の手甲を使い受け流しのだ。

そして、今度は左足を剣で切り付けた。


ミノタウロスは巨体を支えている両足を深々と傷つけられ、とめどなく血が流れた。

そして、ついに立ていられなくなり崩れ落ちた。



武器を持つ腕をやられ、両足をやられ、もう勝負がついていることは明らかだった。

それでも、殺意の衰えない瞳でギロッとシロウを睨みつけたのは敗者なりの意地だろう。


シロウはせめてもの計らいとして、無駄に苦しめることなく一撃で終わらせた。




「ほら、相性いいって言ったろ」


シロウの言葉でソウタは我に返った。

いつからか呼吸をするのを忘れて戦いに引き込まれていた。

ただ見ていただけなのに手のひらは汗でぬれ、赤い爪痕が点在していた。

心臓がドクドクと脈打つのを感じる。



「・・・・・・そ、そうだな」


ソウタの眼の前で何かが吹っ切れたような様子で微笑む男はもう自分が知っている三年前の男とは完全に別次元の男だった。



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