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チームプレー

ゴブリン三匹を一瞬のうちに蹴散らしたシロウとソウタはゴブリンの討伐証明として特徴的な耳を切り落としていた。これをギルドに持っていくと討伐数と倒した魔物に応じて報酬が出る。

ゴブリン程度はルーキーのパーティーでも狩れる程度の魔物であるため、当然報酬は非常に安い。

一匹倒すごとに銅貨10枚程度(およそ千円)であろう。


魔物によっては肉を買い取ってくれたり、角や骨など素材を買い取ってくれるがゴブリンは肉は臭いし、素材も役に立たないので一切金にならない魔物である。



チーム五人でゴブリン一匹倒したところで一人頭の稼ぎは銅貨2枚にしかならない

大体ルーキーのチームは一日一人10~20枚程度しか稼げないので、その日暮らしがやっとの報酬しか得られない。



命を懸けてこの程度の報酬しか見込めないのではあまりにもむなしいようにも感じられるがハンターとはそういう世界である。

実力があり、上に登っていければ報酬は青天井である。

それを夢見て、多くの人間がハンターを志すのだ。

しかし、命絶えゆくもの、あまりの過酷さになげだすものなどほとんどが志半ばで散っていく。


金も地位も名誉も持たず生まれた人間が己の才気のみで唯一成り上がるにはこれしかないのだ。

いかに、リスクが高かろうと目指すものは後を絶たなかった。




「シロウどうする?ここを離れて歩き回ってみる?」



ゴブリンの耳を回収した後、ソウタが問いかけた。

というのも、魔物は基本的に血の匂いに引き付けられるものなのでゴブリンの血が流れているこの場所に居ればまず間違いなく他の魔物も寄ってくるのだ。

ソウタが聞きたいのはつまりここで他の魔物を待ち受けるか否かということである。



「いや、ここで待ってる方が楽だろう。

 どう考えても壊滅したチームは魔物のせいなんだし、ここで暴れてたらあっちから来てくれるかも知れないだろ。そっちの方が全然早い」



ソウタの問いにシロウはあっけらかんとした様子で答えた。

慢心ではない、クレタ平原にいる程度の魔物であれば多少数的不利であろうと自分たちの前ではさして不利にはなり得ないと冷静に分析したうえでの答えだった。



「それに、二人で絶対に敵わないような相手であれば、ソウタが気付く範囲にはいったらすぐに逃げれば問題ないだろう」



たしかにシロウの言うとおりだった。

たしかに下手に歩き回るよりも、効率よく魔物が寄ってくるし、もしかしたらその過程でチームが戻ってこない原因もわかるかもしれない。

相手が気付く前にソウタは感知できるのだから、ヤバいと気付いてから逃げるのでも確かに遅くない。



しかし、そうだとしても自ら敵に囲まれるかもしれないというリスクを選択できるだろうか。

どう考えてもソウタにはそのリスクを負うという選択肢はなかった。

ソウタはリスクを冒さずに行動したいタイプの人間だったし、少なくともソウタの知る限りではシロウも三年前はリスクを冒してまで大きな成果を得ようとする人間ではなかった。


そしてあっけらかんとしたシロウの様子を見て、その状況をリスクと考えていないということに気付いた。


ゴブリン二匹を一瞬のもとに蹴散らし、驚嘆させた男はまだまだ俺の実力はこんなものじゃあない、俺は昔の俺ではないとソウタに訴えかけているように感じられた。




「わかったよ。ただし、俺が相手にできるのは同時にゴブリン二匹までだぞ。

 俺だってこんな依頼でケガなんかしたくねーしね。

 オークが出てきたら俺はお前の補助にまわるからな。

 それを頭に入れたうえで戦えよ。無理だと思ったらすぐ言ってな」



シロウが大丈夫といったとはいえそれを鵜呑みにするつもりはない

ソウタ自身がリスクにならない範囲の条件を提示しシロウの言う案を受け入れてやろうとした。



「いや、ソウタはオークだけとかじゃなく基本的に俺の補助でいいから。前みたいに背後からさくっとやる感じでいいよ。俺ができるだけゴブリン引き付けるからさ。そっちのがソウタもやりやすいでしょ」



「まあ、たしかにそうか。じゃあ、前みたいに頼むわ。」



お互いやりやすいように打ち合わせをしていると血の匂いに誘われたゴブリンが四匹やってきた。



先ほどのようにナイフを投げつけ塊を分裂させることはしない。

シロウにむかって四つの緑色の塊が突っ込んできた。


正面にたつ錆びた剣を持ったゴブリンが一番早くシロウに到達し剣を振り下ろした。

シロウは剣を切り結ぼうとはせずに、一歩後ろに下がり剣をかわした。

すると必然的に剣を振り下ろし体勢を崩した無防備なゴブリンがシロウの壁になり、すぐ後ろのゴブリン三匹の突撃の勢いを殺した。 



ゴブリン複数を相手にするうえで一番厄介なのは最初の突撃である。

二匹程度なら先ほどのように一瞬でかたをつけられるが、さすがに四匹の突撃を一度に受けきるのは難しい。

そのため、シロウは無防備なゴブリンをすぐさま殺そうとはせず突撃を止める壁として利用した。



壁としての利用価値がなくなればこいつにようはない、体勢たてなおそうとしたところを大剣で一撃だった。


のこり三匹のゴブリンの動きは完全に止まっていて、シロウを取り囲むようにして距離をとり立っていた。

しかし、シロウは止まらない。

ゴブリンの屍を越え、猛然と目の前のゴブリンに襲い掛かった。

その姿を見た他のゴブリンは仲間を守ろうとしたのか、シロウの背後を狙おうとしたのか、その真意はわからないが、シロウの後を追うようにして無警戒に動き出した。




そのゴブリンの隙を見逃すはずもなく、息を潜めていたソウタがするりと歩み寄り命をかすめ取った。

シロウに猛然と襲い掛かられたゴブリンは言わずもがな攻撃を受けに行った棍棒ごと鮮やかに一刀両断されていた。



さきほどの三匹のゴブリンを相手にしたのがシロウとソウタの個人技であるならば、今回の四匹のゴブリンとの戦いは二人が自分の役割を果たしたチームプレーだった。



ゴブリン四匹の注意を引き自ら二匹を葬ったシロウと、シロウの作った隙に乗じて残りの二匹を葬ったソウタの見事な連携であった。


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