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悪いが三年前の俺とは違う

クレタ平原は短い草が生い茂っており、ぽつりぽつりと果物のなった木も目に入る。

その果物や草をエサとする動物がここには生息している

そして、この動物たちを狙って、クサゴブリンやらオークやらがクレタ平原にはでる。



ゴブリンとは人間と同じ二足歩行の魔物である。

体長は大きくても120㎝程度で貧弱な体つきをしている。

皮膚は緑色で悪魔のようなひしゃげた醜い顔をしていて長い耳が特徴である。

手先が器用で、ある種は弓を使ったり罠をしかけたりすることもある。

基本的に複数のゴブリンでかたまって行動するが、単独で行動するゴブリンも見かけられる。

多少すばしっこいが動きに慣れてしまえば力もないし、体力もないので新人でも狩ることは難しくない。

住んでいる土地によって種類は違うがクレタ平原にいるのは基本的にクサゴブリンという種類である。



オークもゴブリン同様二足歩行の魔物である。

人間と同等もしくはそれ以上に大きく、見るからに筋骨隆々である。皮膚は緑色で下顎に口から突き出すようにして立派な牙が生えている。

ゴブリンとは違い単独で行動するところをよく見かけるが、地域によっては人間のように集落を形成している場所もあるらしい。

スピードはないが非常に好戦的で力がつよく、皮膚も強靭であり力なきものの剣ならばろくな傷も負わせられない。

オークになると単体でも新人では厳しいだろう。ある程度訓練と経験を積んだパーティーであれば単体であれば狩ることは難しくない。これが複数になると新人は絶望的で、ある程度のパーティーでも苦戦は必至である。



シロウとソウタは周りを見渡し魔物がいないか注意しながら平原を進んでいった。

いくら慣れた狩場とはいえ油断は禁物である。状況判断をしそこない魔物に囲まれてしまえばひとたまりもない。

注意していればこのような見晴らしの良い場所で魔物を見落とすことなど考えられないが、不思議なもので油断していたり、他の魔物と戦っていたりすると視野が狭くなり気づいたら囲まれているなどということも起きる。





「まだ、来て10分くらいだけど今のところ普段と様子は変らないな」



「普段こないからわからないけどシロウが言うならそうなのかもな。

 まあ、進んだらゴブリンとか出てくると思うしもう少し歩いてみよう」




そこから10分ほど進み農村からだいぶ離れたあたりでソウタの足取りが遅くなり周りをきょろきょろと見渡しだし。


「お、いたいた。シロウあっちにゴブリンがいる」



そういってソウタは指をさすが、その方角を見てもゴブリンはおろか魔物も動物見当たらなかった。

シロウは首を傾け、“またいつものが始まったか”と思い一つ息を吐いた。

いつものというのはソウタの特殊なスキルのようなもので魔物が一定距離まで近づくと感知できるのである。



ゴブリンやオークなどよく戦ってきた魔物になると今回のように種類までわかる。

この能力は非常に重宝するものでチームにソウタがいれば不意打ちや囲まれる危険性は激減するのである。

この力を使ってソウタはギルド専属のハンターの座をつかんだと言っても過言ではない。



シロウの指した指の方に歩みを進めると、たしかにそこにはゴブリンが三匹それぞれ木でできた棍棒を持ってフラフラといた。

シロウはソウタの能力に慣れていたのでもうそんなことでは驚かない。


チームを組んだ当初はなんでそんなことができるのかよく話になったがソウタに聞いても、びびっとくるからわかるとよく理解できないことを言うもんでみんな自分には関係ないものと考えていた。



ある程度までゴブリンに近づくとやつらも気づいたようで奇声をあげて近づいてきた。




「じゃあ、俺が見つけたからシロウがゴブリン二匹お願いなー」



人が全力で走っている程度の速さで近づいてくるゴブリンに焦ることもなく、ソウタは腰辺りに装備していた投げナイフを向かってくるゴブリンに投げつけた。


すると投げナイフをよけるためにゴブリンが飛び跳ねた。

三匹でまとまって襲いかかってきたゴブリンが投擲されたナイフを境にむかって右に一匹、左に二匹に塊が分裂した。

狙い通りと言わんばかりにそれを見て、シロウが左に、ソウタが右に動き出した。


ゴブリンはそこまで知能が髙くないのでまとまってどちらかを攻撃しようとかはできない。

眼の前にいる獲物に向ってただただがむしゃらに突っ込むのみである。



新人はそのゴブリンの様子を見て恐れて足がすくんでしまうが、二人はそんな感情は、遥か昔に捨てた。

恐れは動きを鈍らせ死に直結することを痛いほど知っていた。

二人は猛然と向ってくるゴブリンを見据えながら自分の武器に手をかけた。




ソウタは細く力もないがスピードはシロウよりも速い。

腰にぶら下げた刃の長さが30㎝ほどのきれいな光沢のある短剣を右手に握りしめた。

棒立ちはしない、膝を軽く曲げ脱力しゴブリンの一挙手一投足に気を配った。

ゴブリンが目と鼻の先まで接近したというのにソウタは足を動かす素振りを見せなかった。

そして、ゴブリンが奇声をあげて棍棒を振り上げた瞬間にソウタはついに動いた。

全力で走ってきてその勢いのまま棍棒を振り上げたゴブリンは自分と同等以上のスピードで向かってくるソウタに気づきながらもなんの対応もできなかった。

ゴブリンが振り下ろした棍棒がとらえたのは先ほどまでソウタが立っていた場所で、ソウタ自身は振り下ろされる棍棒の軌跡をあらかじめすべてわかっていたかのようにギリギリのところでかわしてゴブリンの背後を取った。

そして無慈悲に背後からゴブリンの首のあたりを短剣で深く突き刺し、すぐさま距離を取った。

首のあたりから血が大量に流れ、その場で崩れ落ちるようにして倒れて、やがて動かなくなった。



ソウタが短剣で相手と切り結ぶことはない。

自分が非力であることをだれよりも知っているので短剣を使っているのだ。

それにもかかわらず力勝負を挑んだのではただの愚か者である。

自分の武器であるスピードを最大限に生かし、背後をとり勝負を決めるのがソウタのやり方だった。




シロウは向かってくる二匹のゴブリンを目の前にしても臆することはない。

普段からソロでやっている以上複数の魔物を相手にするのは慣れているし、これより遥かにやばい魔物を複数相手にしたこともあったのでこれくらいでは全く動じなかった。



ゴブリンは正面からシロウに挑んだ。

せめて、シロウを取り囲むようにすれば多少揺さぶれたかもしれないがゴブリンに戦略などなく正面から全力で棍棒を振り下ろすしかのうがなかった。

振り下ろされる棍棒をあざ笑うかのようにバックステップでかわし、向かって左側のゴブリンを右足で蹴り飛ばした。

するとゴブリンはまるでゴムまりのように地面を何度もバウンドし10m近くふっとんだ。

シロウはゴブリンを蹴とばしたかとおもったら、手をかけていた背中の剣を振りぬきもう一匹のゴブリンを肩から股にかけ両断した。

骨など関係ない。シロウの圧倒的な力のうえではゴブリン程度では抗う術はなかった。



吹っ飛ばされたゴブリンは目の前で仲間が見るも無残な姿になったのを見て、さすがに命の危険を悟ったのか、シロウに背中をむけ全力で逃げ出そうとした。

ゴブリンのスピードを考えればばかでかい剣を使うシロウでは走っては追いつけないので悪くない選択である。

シロウは逃げるゴブリンにむけて、腰につけていた棒手裏剣を右手で握りしめ投げつけた。

すさまじいスピードで放たれた棒手裏剣はゴブリンが逃げ始めて10歩も進まないうちに後頭部に深く突き刺さった。

そしてなにが起きたかわからないまま断末魔もあげられぬまま絶命した。



シロウとゴブリン二匹の戦いはほんの一瞬だった。

数的有利などゴブリンとシロウとの明白な力の差の前ではなんの意味も持たなかったのである。




「シロウ、なんかずいぶん強くなってない?

 そんな飛び道具なんか使わなかったし、前みたいに力一辺倒のやり方じゃないし」



ソウタはシロウの戦いのようすを見て唖然としていた。

いくら三年ぶりにシロウの戦いを見たとはいえ、あまりにも昔の姿とは違っていたのだ。



「ふっ、そういうソウタは相変わらずだな」



もちろんシロウから見たソウタも成長はしていたが、三年前に見た姿からすれば十分予測範囲内のものだった。



「いや、俺も多少なりとも成長はしたと自負してるけどさ・・・・

 なんか、今の見せられるとなんも言えないわ」



なんだか呆れた様子でシロウを見ると首を何度も横に振った。



「まあ、三年前の俺とはちょっと違うってわけさ」



そんなソウタをみてシロウはニヤリと微笑んだ。


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