期待のルーキーと呼ばれていたのはもう三年前です
この世界は人間の他にもエルフだったりドワーフだったり多種多様な生物が共存している。
もちろん、すべての種族が仲良しで同じ環境で生活しているわけではない。
魔族と呼ばれる種族はあまり人間を快く思っていないので、ともに生活しているケースはそこまで多くない。
昔は魔族との戦争や人間同士での戦争などあったらしい。
幸いなことに今では魔族との和解も進んでいて戦争なんて雰囲気でもない。
人間同士の争いも賢明な王たちが現れたおかげで過去の話である。
とはいっても戦争が起きないからと言って武器をおいて鍛錬やる必要がなくなるということにはならなかった。
この世界には魔物とばれる生物がいて、こいつらは言葉の通じるやつらではない。
本能かどうかは知らないがこいつらがたびたび人間の村や街にきて大暴れするのである。
そんな魔物たちから村や街を守る為にできたのがギルドという組織である。
ギルドはあくまで仲介業者だと思ってくれればいい。
魔物を狩っても、その素材やら肉やら売る場所がなければ金にはならないので誰もそんなことを進んでやるやつはいないだろう。
魔物のせいで被害を受けていてもどこに依頼していいかわからないだろう。
そこで、ギルドの登場である。
素材やら肉やらはギルドで買い取ってくれ、金さえ払えばギルドで依頼書を出せる。
ギルドの存在のおかげで、魔物を狩って金を稼ぎたいという人間と魔物のおかげで困っているという人間の橋渡しになったのだ。
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ある、ギルドの建物の中に全身漆黒のプレートアーマーを着込んだ見るからに不気味な男が立っていた。
背中には自分の背丈に迫ろうかというほどの幅広の両刃の大剣を担いでいる。
プレートアーマーは傷だらけで大剣の柄は見るからに使い込まれていて赤黒かった。
その不気味な男は目の前の木の板を覗き込んだ。
ごちゃごちゃに張り付けられた依頼書に一枚一枚に目を通していたが、結局条件の良いものが見つからず手に取ることはなかった。
いつみても自分に合う条件の依頼など見つからず、自分は必要とされていないのかと思うほどだった。
この男の名は、シロウ。ギルド専属ではない、つまりフリーのハンターである。
身長は180㎝ほどでプレートアーマーの隙間からうっすらとのぞかせる体が相当鍛えていることを容易に想像させる。
黒髪短髪で精悍な顔立ちをしている。
よく見ると十分かっこいい部類の男ではあるのだが目つきが悪く、機嫌の悪そうな近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
実際は、見た目のような怖い人間ではなく、どちらかというと優しい部類の人間であった。
「はぁ、ソロで受けられる依頼もろくなの見つからないし。また、いつものでも狩りに行くしかないか・・・」
誰に話しかけるでもなく落胆の声が思わずシロウから漏れた。
そして、とぼとぼと木の板の前から立ち去っていった。
三年前にチームが解散して以来固定のチームは組んでいない。
つまり、ソロでハンターをしていることになる。
解散したのはチーム結成から一年のことだった。
いろいろと原因はあるがチームで活動をしていく中で、シロウを含めて数人が急激に力をつけていって、そのせいでいろいろ歯車が狂っていったのだ。
お互いに譲れないものがあって、チームから一人また一人と抜けていった。
上手くいき始めたころはよかった。いや最高だった。
シロウ達は期待のルーキーと呼ばれ他のチームやギルド専属のハンター達にも一目置かれていた。
稼ぎも良かったし、魔物との戦いも危険なくスムーズにこなせていた。
でもそんなことはどうでもよくて、チームみんなでいられるだけで楽しかったのかもしれない。
それが解散してからというものほんとにシロウは悲惨だった。
チームを解散したのち他のメンバーは続々と自分の新たな道を決めていった。
次の所属チームやら、ギルド専属のハンターになるものなどそれぞれが自分の気持ちに折り合いをつけていた。
だがシロウはというと新たなチームが決まるでもなく、ギルド専属ハンターになるでもなく、ただただソロで魔物に挑んでいた。
特に決まったチームを組むことなくソロでハンターをしている人間はシロウ以外にももちろんいた。
だがそーいう人はシロウより格上の実力者か命知らずのバカのどちらかだった。
もちろん前者のような人間はごくごく少数で、そして後者のような人間はすぐに魔物にやられて死んでいった。
シロウは望んでソロでやっているわけではもちろんない。
人が嫌いで孤独が好きなんてことはまったくない。
むしろ早いとこ固定のパーティーを組んでしまいたいと常々思っていた。
実際、チームが解散した直後に何回かチームに入れてもらって狩りに行ったがどうもしっくりこなくて本格的にチームに参加ということにはならなかった。
わがままかもしれないけどしっくりこないチームでこの先ずっと活動していくのはつらい。
それに、どうしても解散したパーティーと比較してしまっていっこうに決まらないのである。
二年前くらいからはパーティーに誘われることなんてなくなっていた。
常にソロでやっているのでチームに所属する気はないんだろうなと周りに思われていた。
加えて、シロウの他人を寄せ付けないような風貌のせいで気軽にパーティーに誘われることはなくなっていた。
結局シロウはチームを解散したにもかかわらず、まだ気持ちは前のチームから離れていなかった。
他のみんなのように折り合いをつけて前に進むことはできなかのだ。
シロウは三年前に期待のルーキーと呼ばれていた頃から、一歩も進めていなかった。