コテツとハイト05
「ほっ……よっ……はっ……と」
0と1だけのデジタルの世界でコテツは愛機であるスサノオを操っていた。
撃たれたサインガンの弾丸をサインソードで蹴散らしていく。
『バーサスアースク』
その試験稼働中である。
人類がまだ宇宙に進出していない頃にも脳の機能は既に解明されていた。
そしてダイレクトダイブと呼ばれる技術も発達した。
今、0と1の世界に意識を持っていっているコテツの認識がそれである。
ダイレクトダイブと呼ばれる仮想空間に意識を移す技術の発達。
そして空間波という最速の通信手段。
これをもって人類はこの仮想空間での活動を可能にした。
実際のコテツの肉体は備え付けられたソファの上で眠っている。
ただコテツの意識だけがデジタル世界に没頭しているのだ。
このダイレクトダイブによって仮想空間内でのエンターテイメントは爆発的に普及した。
その一つとしてアッカーマンシステムの売り出したゲーム……『バーサスアースク』がある。
百八機にのぼるアースクのデータを登録し、アースクの奏者でなくともアースクの操縦を可能とする体感型ハイスピードアクションと銘打たれたそのゲームは発売当時から注文が殺到した。
他社でも似たゲームが発売されたが、その先見性の低さ故にアッカーマンシステムの『バーサスアースク』を超えることはできなかった。
そういうわけでアッカーマンシステムの『バーサスアースク』のバージョンアップ版の試験稼働にコテツは度々付き合わされることになったのだった。
「ほっ……よっと」
そう呟きつつコテツは相手側のノンプレイヤーキャラクターであるメタトロン相手に決定的な一撃を放った。
その距離一音秒半に及ぶ距離にて正確にサインソードをメタトロンに斬りつけたのだった。
そして勝利条件を満たしたコテツに勝利のサインが送られた。
六戦目が終わると、
「ふう……」
とコテツは溜め息をついた。
「サブシステムの調子はどうでした?」
そう聞いてくるのはサブシステム技術者のアビエルだった。
「うん。いいと思いますよ。六○五の指示に従えば僕でもノーマルモードをクリアできましたし」
「そうですか。できればスサノオ以外の機体も使ってほしいところですけど……」
「下手に射撃を覚えると今後に支障がでるのでそれは勘弁してください」
「それは……そうですね。無茶を言ってすみません。ではこれで最後です」
アビエルの言葉とともに七戦目が始まる。
相手はオクトパスだった。
センサーを通して肉眼で確認するコテツ。
データ上とはいえ『肉眼で』である。
すなわちそれは肉眼で確認できる範囲にアースクの一つ、アーデルハイトの駆るオクトパスがいるということだった。
体感型ハイスピードアクションゲーム……バーサスアースクは超光速を体感するゲームではない。
その速度は体感としては亜音速である。
何故かと言われれば、それは超光速戦闘では娯楽に欠けるからである。
超光速戦闘は空間波レーダーによって相手の位置がわかるとはいえ、その距離はデータ状のものでしかなく結局相手を見ることも無く相手へと攻撃を加えなければならない。
何もない宇宙に攻撃を加え相手へとダメージを与える。
しかも信号兵器であるが故に相手に攻撃を加えた感触もない。
つまり超光速戦闘とは実質一人舞台なのである。
さすがにそれではユーザーは振り向いてくれず……無論本当のアースク体感ゲームもいくつか出たがそれらは全て爆死している……アースクの能力を小規模化し、亜音速にて攻防を行なうゲームになっている。
閑話休題。
ともあれコテツはノンプレイヤーキャラクターであるところのオクトパスに意識を向けた。
カウントダウンが行なわれ、そしてゲームが開始される。
「っ!」
先手必勝とばかりにコテツは飛びだす。
そして背中の金属突起から八つのサインワイヤーを発現させたオクトパス目掛けて間合いを詰める。
サインソードの距離は約六百八十メートルだ。
センサーの視界補完を通してオクトパスを視界に捉えるコテツ。
サブシステムが警告を鳴らす。
「警告。右上および左下からサインワイヤー来ます!」
「アイアイサー」
素直に六○五の言うことを聞いて右上及び左下から迫りくるワイヤーをサインソードで叩き切るコテツ。
「推奨。サインソードを直列させてください」
「それは無しの方向で」
「それではサインワイヤーに対して有効な戦術がとれません」
「それでいいから」
「了承。ではこちらの導き出したルートにてオクトパスへ肉薄してください」
「アイアイサー」
コテツはサブシステムの言うコースをなぞるようにしてオクトパスに肉薄した。
同時にサブシステムの警告通りにサインワイヤーを叩き切りながら……しかして再生したワイヤーに絡めとられる。
「っ?」
わけもわからず絡めとろうとしてくるワイヤーを断ち切るコテツ。
「警告。サインワイヤーを断ち切ってください」
「もう断ち切って……ってアレ? なにゆえバーサスアースクでサブシステムの命令より先にワイヤーが絡んでくるんだ?」
疑問に思うコテツに、ノンプレイヤーキャラクターであるはずのオクトパスから声が聞こえた。
「そりゃこれは俺が演じてるからに決まってるだろう?」
それはアーデルハイトの思念だった。




