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夜は天にて冴えわたり14

 二人の戦いは要するに間合いの取り方とそれぞれの飛び道具による戦いだった。

 五光秒の射程を持ち連射の効くオベロンのサインガン。

 十光秒の射程を持ち連射の効かないレッドドラゴンのサインビーム。

 間合いを取りビームを吐く純色の赤のドラゴン。

 間合いを詰めサインガンから信号弾を撃ちだすダマスカス鋼の美女。

 そこにコテツの駆るスサノオが加わる。

 ヒルダは木星圏から土星圏方面へとアルファを追い詰める。

 そして土星圏方面からコテツはレッドドラゴンに接近した。

 スサノオとオベロンがレッドドラゴンを挟み撃ちにする形だ。

 それを察してかアルファはアースクの挟み撃ちを避けようと真上へと……とは言っても宇宙空間故に上下も左右もないのだが……軌道を変えた。

 それに合わせてコテツとヒルダもレッドドラゴンを追う。

 十光秒圏内に入ると同時にレッドドラゴンのサインビームが襲い掛かる。

 それを余裕を持って避けるコテツに、よけきれずにかするヒルダ。

 悲鳴のようにアルファが言う。

「ヴォルフガングさんはもうやられたんですの!」

「まーねー」

 あっさりとコテツ。

 そしてコテツとヒルダはサインビームをちょくちょく避けながら着実にレッドドラゴンへと間合いを詰める。

 機動をジグザグに変えながら間合いを取ろうとするアルファだったが二対一では分が悪い。

 ついには間合いを取られてオベロンのサインガンの吐き出す信号弾を何発か受けてダメージを受ける。

 同時にコテツが言った。

「ヒルダ! 散開!」

「了解しましたの」

 間合いを詰めるのを止めてコテツとヒルダはレッドドラゴンの射線軸から遠ざかる。

 同時に先ほどまでスサノオのいた範囲にレッドドラゴンの《コニカルブレス》が放たれた。

「放射角三十度……射程六十光秒……《コニカルブレス》……反則だね」

 思念でそう呟くコテツに、

「けれどもこれであと二秒はアルファは《コニカルブレス》を撃てないだわさ」

 そう答えるコンスタンス。

「じゃあ後二秒でケリをつけるとしましょう……!」

 レッドドラゴンのサインワイヤークローをいなしながら間合いを二光秒まで詰めると同時にコテツがサインソードを振るおうとした瞬間、

「「「「っ!」」」」

 コテツの、ヒルダの、アルファの、ヴォルフガングの、それぞれのアースクのエキゾチッククオーツが新たなアースクを確認した。

 空間波レーダーの視覚化によればそれは全長十五メートルくらいの人型のアースクだった。

 サインソードにサインランスを両手に持っている。

「なんだ? 別のアースクがなんでこの宙域に来るのさ?」

 レッドドラゴンに振るおうとしたサインソードを止めて、コテツは新たなアースクにコンタクトを試みる。

「あーあー。天気晴朗なれど波高し。そちらはどちらさん?」

 空間波通信でそう聞くコテツに、

「…………」

 新しいアースクは何も答えない。

 見ればコテツの視界……無論それはクオリアに直接情報を注入したものだが……の中のコンスタンスが怯えたように言う。

「このパターン……! アースクじゃない……! 何故あいつらが木星圏内に……!」

 さすがにその言葉をコテツは聞き逃せなかった。

「どういうこと? 秒速四十五万キロで機動して空間波を発する存在がアースク以外にいるわけ……」

 とコテツがそこまで言った後、

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 とヴォルフガングの悲鳴が響いた。

「ゲホッ! 何だよこれ。なんで肉体にダメージを受けるんだよ……。誰か助け……!」

 そこまで言った後、ヴォルフガングの空間波通信が切れた。

「え? ヴォルフガングさん? ヴォルフガングさん……! どうしたの!」

 そうヴォルフガングに通信を行なうアルファ。

 コンスタンスはコテツの中で呟いた。

「無駄だわさ。ヴォルフガングは数学分解されたよ」

「数学分解って何?」

「純粋数学で熱力学第一法則を書き換えるフィジカルオールターの話を覚えてるわさ?」

「うん。それは、まぁ」

「その応用。前にも言ったけどアンチドレイクは純粋数学的存在だからフィジカルオールターと同原理でしか現実に干渉できないんだわさ」

「じゃあ空間波レーダーに映っている機影は……!」

「人類を土星圏から先の進出を阻むモノ……人類の天敵……そしてマイ=ナガソネを数学分解した純粋数学的存在……名をアンチドレイクと言うわさ」

「マイの仇……!」

 驚愕に身を震わせるコテツ。

 それからサインソードを意識してコテツは言う。

「しかしこっちにはデータ上でしかダメージを与えられない信号兵器しかないよ。せっかくマイの仇が目の前にいるのに逃げるしかないっていうの?」

「いや、通常の兵器ではアンチドレイクは倒せないんだわさ」

「何で?」

「先も言ったろうに。アンチドレイクは純粋数学的存在だわさ。物理的な攻撃は通用しない」

「じゃあどうしろってのさ!」

「何度も言うけどアンチドレイクは純粋数学的存在だわさ。なら純粋数学的にダメージを与えればいい」

「まさか……」

「そう。アンチドレイクを倒すには信号兵器に頼るしかないわさ」

「まさか先生はそのためにアースクを……!」

「一割くらいはね」

「残りの九割は?」

「興味本位」

 ズリッとコテツのスーツの肩の部分が滑り落ちた。

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