夜は天にて冴えわたり08
「コテツ! あなたは人工知能に愛を語らうんですの!」
「そんなの僕の勝手だろう?」
アルファの反発をコテツは余裕を持って受け止める。
「そんなこと……間違ってますわ!」
アルファの、その頭部にアイアンクローをかますコテツ。
「殺すぞ、お前……!」
ギリギリとアルファの頭蓋を軋ませながら、コテツはなお力を込める。
「ぎい……! ぃぃぃ……!」
そう痛みに呻くアルファを見かねて、アーデルハイトがコテツをなだめる。
「うぇいうぇいうぇい……コテツ。その辺にしておけ」
コテツのアルファをアイアンクローしている手を押さえるアーデルハイト。
「ん……? ああ……すまなんだ……。ごめんなさいアルファ……。わざとじゃないんだけどね……」
「わたくしに暴力を振るったのはあなたで二人目ですわ! 商品に傷がついたらどうするんですの!」
「知ったこっちゃないよ。僕の愛しいマイを侮辱したことに違いはないんだから……」
「兄さんったら……!」
やんやんと両頬に両手をあてて恥ずかしがるマイ。
そしてカルヴァドスを飲み干して、新たにカルヴァドスを自身とアルファのグラスに注ぐコテツ。
「そも……コテツの愛がそちらのマイ=ナガソネに向いているって事は、ヒルダ=ニュートンとはなんの関係もないのでしょう……! ならばわたくしと組んだっていいではないですの……!」
そう反論するアルファに、
「別にどうでもいいことには変わりないけどね。でもそれはアルファ=アストラル……君についても言えることだ。なら僕は先に組もうと言ったヒルダを優先せざるをえまいよ」
サラリと言うコテツ。
それからコテツはカルヴァドスをあおる。
「ま、《竜王の吐息》ことアルファ=アストラルに興味がないことはないんだけどね。でもオベロンの《フェアリー》ほど役に立つとも思えないし」
「そんなことはないだわさ」
ここで初めてコンスタンスが口を開いた。
ピンク色のツインテールに宗教的な服を着た立体映像ことコンスタンス=ミトニックを見て、アルファが問う。
「こちらの人工知能は何ですの?」
「まぁ気にしないでもらえれば幸いというか……」
まさか《電子怪盗デンドロビウム》とも《アースクの発明者たるコンスタンス=ミトニック》とも言えずコテツは言葉を濁した。
「ともあれ射線軸さえ間違えなければレッドドラゴンはツーマンセルで強力な力を発揮するわさ」
「どういうこと?」
「アルファ=アストラルの駆るアースク……レッドドラゴンの第二フェーズは《コニカルブレス》。二秒に一回アースクの口元から発射されるタイプのサインビームで、その放射角は三十度……射程は六十光秒にもいたるんだわさ。ちょうど円錐状に放射されるからコニカル(円錐)なブレス(息)というわけよ」
嬉々として語るコンスタンス。
「ちなみに先生。レッドドラゴンの基本装備は?」
「サインワイヤークローを両手に装備してて……これは三光秒の射程があるだわさ。後は口からサインビームを吐けて……こちらは十光秒だわね」
「へえ……よく勉強されてらっしゃるのね……」
感嘆の声を出すアルファに、
「ま、これくらいは当然だわさ」
無い胸を張るコンスタンス。
「けれども放射角三十度で射程六十光秒って……反則にもほどがないですかしらん?」
コテツがカルヴァドスをあおりながら言う。
「その分二秒に一回しか撃てないのがネックだわさ。それだけ秒間が空けばコテツの結界で十二分に決着つけられるはずよね?」
「まぁ、そりゃそうでしょうけど……」
そんなコテツとコンスタンスの会話を塗りつぶすアルファ。
「そんなことはどうでもいいんですわ……! それよりコテツ……わたくしとツーマンセルを組む決心はつきましたの?」
「ごめんなさい」
「だ・か・ら・何でですの!」
「だーかーらーヒルダともう組んでるんだって……」
「わたくしじゃ駄目ですの?」
「駄目ってわけじゃないけど……筋は通さなきゃいけないでしょ?」
「わたくしみたいな美少女に頼りにされることこそ男の本懐でしょうに……!」
「自分で美少女って言っちゃう人はどうも……」
「ど……どうしても……駄目……なんですの……?」
キッとコテツを睨みつけるアルファの双眸には真珠のような涙が溜まっていた。
そして涙は双眸からあふれ出す。
「イミワンカナイ……イミワンカナイ……」
ポロポロと泣きながら、
「イミワンカナイ」
と呟き続けるアルファ。
コテツはあたふたと焦ったように言う。
「ちょ、そんな泣くほど……?」
「わ、わたくし……あ、アイドルですのに……お、男は皆わたくしの言うこと聞きますのに……なんで……なんで……? い、意味がわからないですわ……」
涙を流しながらカルヴァドスをあおるアルファ。
「わたくしは……無価値なんですの……? 可愛くありませんの……? わたくしなんて……わたくしなんて……うう……」
グイと酒を呑みほしテーブルに突っ伏してすすり泣くアルファ。
「泣き上戸なのか?」
クネリと首を傾げるアーデルハイト。
「そんな悲観なさらないでください。アルファさんはとっても可愛いと思いますよ?」
営業スマイルみたいな笑みを浮かべてアルファをフォローするマイ。
机に突っ伏していたアルファがガバッと起き上がってマイを見る。
「……ほ、本当……?」
ヒックとしゃくりあげてそう聞くアルファ。
「本当ですよ。アルファさん……すごく可愛いです」
アルファの表情がパァっと華やいだ。
「じゃあコテツはわたくしとツーマンセルを組んでくれますの……!」
「だから組まないって」
カルヴァドスを呑みながらあっさりと言うコテツ。
「うう……うう……」
また突っ伏して泣くアルファ。
「兄さん!」
「思わせぶりなこと言って儚い希望を持たせるよりいいでしょ」
責めるようなマイに、コテツは反論する。
「泣き落としもマキャベリズムとしては有効だけど、それで落とされるほど僕はやわじゃない。僕が罪悪感を持つのはいつだってマイのためだけだ」
「しかし言い方というものがあるんじゃないですか?」
「それはそうかもしれないけど……他の言い方なんてわかんないよ……」
「や、やっぱり……わ、わたくしなんて……ううううう……」
ボロボロと涙を流すアルファだった。
そしてアルファが泣き疲れて眠るまでコテツにマイにアーデルハイトにコンスタンスはアルファを持て余した。




