ヒルダ=ニュートン09
アッカーマン本社の五階の……そこにあるリラックスルームと名付けられたベッドやソファが備え付けられた部屋にコテツとヒルダはいた。
コテツはソファに、ヒルダはベッドに自身の体を預けた。
そして言うべきコマンドを言う。
「「ダイレクトダイブ!」」
そうしてコテツとヒルダは0から1のアナログ的世界から0と1のデジタル的世界へと意識を移した。
アッカーマンシステム本社にインストールされているアースクシミュレーションにアクセスする。
ノーチラス社の宣伝が入った後、アースクシミュレーションのシステムへとダイブするコテツとヒルダ。
そしてコテツはヒルダを対戦相手に選択し、百八機のアースクの中からスサノオを選択すると、ゲーム開始のコマンドを意識で選択する。
同時にコテツの意識はデジタルの中の宇宙空間に浮いた。
サブシステムは六○五。
ヒルダの登場を待つ。
しばらくしてヒルダも同じデジタルな宇宙空間に飛び込んできた。
全長十八メートルの女性的なフォルムにダマスカス鋼の模様が全身にはびこる一種神秘的なパワードスーツだった。
それがヒルダのアースク……オベロンだ。
妖精王の名を冠した神がかりな機体である。
そのデータを六○五から引き出しながら、コテツは、
「うげ……」
と毒づく。
相手の……オベロンの装備は二振りのサインソードに二丁のサインガンだった。
アーデルハイトのアースク……オクトパスのサインライフルほどの射程は無いが、オベロンのサインガンは秒間数十発の弾をはじき出すそこそこに連射の効く装備だ。
「サインガンか~。近づきにくいなぁ。六○五……サインガンの射程は?」
「五光秒と言ったところですマイマスター」
「五光秒ねぇ……」
「サインソードの連結を提案します」
「それは却下の方向で」
「でしたら相手に近付くための予想ルートを算出します」
「しなくていい。それらはこっちでやるから。そうだ、六○五はフェルマーの最終定理でも解いてて」
「マイマスターがそう望むのであれば」
六○五は沈黙した。
戦闘までのカウントダウンが始まる。
それがゼロになった瞬間、アースク同士の戦いが始まった。
コテツはスサノオの腰にマウントしてあるサインソードを二振り取り出すと両手に装備する。
ブレインマシンインタフェースに命令を出してサインソードを展開する。
長さにして二光秒という刀身を持つ……緑色に発光するデータ上の剣が現れる。
そしてコテツはスサノオをまっすぐオベロンに向かって加速させた。
間合いは六十光秒。
約十八秒でオベロンのサインガンの射程に入る。
同時にサインガンを撃ってくるヒルダ。
コテツはそれらをサインソードで切り払いながら間合いを詰める。
しかしてヒルダは五光秒圏内に入った瞬間、急ブレーキして急後退した。
どうやら飛び道具を持たないスサノオを相手に飛び道具であるサインガンだけで対処するようにしたのだろう。
「気持ちはわかるけど……!」
そう呟きながらコテツはがむしゃらにオベロンを追う。
途中連射された弾丸を全てサインソードで切り払いながら、コテツの操るスサノオはじわじわとオベロンに近づいていた。
そして、
「しっ……!」
間合いが二光秒を達すると同時にコテツはサインソードを振る。
それは的確にオベロンを捉えたが、
「っ!」
しかして、オベロンには届かなかった。
データ上の情報を見るにオベロン……ヒルダはサインガンの一丁を格納し、サインソード一振りを取り出して展開、スサノオの斬撃を同じサインソードでもって受け止めたらしかった。
そしてもう片方の手でサインガンを連射する。
しかしてそのサインガンの信号弾をコテツのサインソードが切り払う。
同時にさらに距離を詰めるコテツ。
スサノオとオベロンの間合いは一光秒半にまでなっていた。
サインソードを振るうコテツ。
それらは二振りのサインソードを両手に持つオベロンにて切り払われていた。
しかし趨勢は決まっていた。
刀を扱う京八流の免許皆伝者たるコテツと、サインガンとサインソードを併用するヒルダとでは扱う刀の技術に差が出る。
瞬く間にオベロンのダメージは増えていった。
「くっ……このぉ……!」
オベロンも負けじとサインソードを振るうが、それらは全てあっさりとコテツの操るスサノオのサインソードに切り払われた。
そして……ダメージが五十パーセントを超えた辺りから、
「第二フェーズ……《フェアリー》……!」
とヒルダが呻いた。
同時にヒルダのアースク……オベロンの周囲に二十を超えるサインブレット……信号弾が現れた。
「っ?」
唐突にオベロンの周囲に現れた緑色に光る信号弾を確認して、一瞬だけ気後れするコテツ。




