ヒルダ=ニュートン06
そんな二人をなだめてコテツは言った。
「まぁまぁ、二人ともよくやってくれたよ。引き分けでいいんじゃない?」
そんな日和見なコテツの発言に、
「コテツ、お前は甘い! この負け犬が立ち直れないほど徹底的に叩くのが正しい選択だろう!」
「お兄様、考えが甘いです。この泥棒猫が立ち直れないほど徹底的に拒絶するのが正しい選択でしょう!」
そんな二人の言葉に、
「やっぱり仲良いでしょ……君達」
うんざりとコテツ。
そこに、
「まぁどちらも切り捨てられないコテツの心情をくむのも良い女の条件じゃないだわさ? アーデルハイトとヒルダ?」
そう呟くコンスタンス。
「う……」
「それを言われると……」
黙ってしまうアーデルハイトにヒルダ。
そしてコテツが宣言する。
「じゃあこの勝負が引き分けということで。ハイトもヒルダもここにいていいよ」
「むう……」
「んぐ……」
喉を鳴らして不満げな吐息をつくアーデルハイトとヒルダ。
そうして二人分のカレーを食べ終えた後、コテツはマイが入れてくれた湯船に浸かるのだった。
そこでもコテツの背中を流そうとするヒルダと、それを止めようとするアーデルハイトの一悶着があった。
無論コテツは扉にロックをかけて誰も入れないようにしたが。
その後、
「なんでこうなるの……」
うんざりとしてそう呟くコテツだった。
地球時間は午後十一時。
場所はコテツの寝室。
ダブルベッドに寝ているコテツはその左右を確認した。
ダブルベッドの中央で寝転んでいるコテツの左腕にアーデルハイトが、右腕にはヒルダが体を絡みつかせている。
まるでコテツとアーデルハイトとヒルダがこれから十八禁に流れ込むかのような光景だった。
ちなみに寝巻を着ているコテツを余所に、アーデルハイトは下着姿、ヒルダに至ってはベビードールという有様だ。
コテツは疲労の溜め息をつく。
「あのね、二人とも……僕も一応男なんですけど……」
「知ってるぜ。そんなこと」
「そうでもなければヒルダはお兄様に惚れはしませなんだ」
「そんな男相手に挑発的な出で立ちをすることの意味……わかってるの?」
「お前の好きにしていいぜ?」
「お兄様のお好きなように……」
「駄目だこいつら……早くなんとかしないと……」
うんざりと右手を額に当てようとして、ヒルダが絡みついているのを再確認するコテツ。
その微妙な右腕の振動に、
「やん、お兄様……。そんなところを……」
照れながらヒルダ。
そしてコテツの左腕に絡みついているアーデルハイトがギュウとコテツの左腕を締めつける。
「お前……右腕で負け犬に何してんだ……!」
「何もしてないよ……」
「やん。お兄様……そこはいけませんわ……」
「誤解をうむようなこと言わないでくれない! 嫌いになるよコノヤロウ!」
「ちょっとからかっただけですのに~。お兄様、そんな寂しいこと言わないでくださいな」
「だいたい何でお前がここにいるんだ負け犬!」
「そういう泥棒猫こそ何故お兄様のベッドにいるんです?」
「俺はコテツが悪夢にうなされた時に助けられるように一年前からこうやってコテツと一緒に寝てるんだ!」
「ならその役目はヒルダが引き受けますから自身の寝室で寝てくださいな」
「なんだと負け犬……!」
「なんです泥棒猫……!」
「……本当に仲良いね君達」
再度うんざりとそう呟くコテツだった。
それからコテツはふと思いついて聞いた。
「マイ……」
「はい。ここに」
真っ暗な寝室に立体映像が投影されるとマイが現れた。
「僕とヒルダが戦うのは七日後だよね?」
「そうです」
マイは頷く。
「ヒルダ……」
「なんでしょう?」
「なんで七日前からここにいるの? ノーチラス社でアースクのデータを提供しなくていいの?」
「一応イオラニ支社もありますのでその心配は杞憂ですよお兄様」
ニコリと笑ってヒルダ。
「……なるほどね」
「無論、お兄様と戦った後はブレナムに戻らなければなりませんが……」
「とっとと帰れ負け犬。コテツは俺のモノだ!」
「いやいや、まだそうと決まったわけじゃ……。だいたい僕の心の中には依然としてマイがいるしね……。死者にたいする最高の手向けは悲しみではなく感謝だ……って言葉もあるし……何より僕とマイは両想いだしね」
「兄さんったら……」
頬を朱に染めてマイが恥ずかしげに手を振る。
「でもマイはもう亡くなったのでしょう? お兄様がこだわることもありませんのに!」
「マイは……僕の妹はそんな簡単に忘れられるほど簡易な存在じゃないよ。僕とて……忘れられるものなら忘れたい」
「……お兄様」
「ま、僕のことはいいんだ。それよりハイトかヒルダ。僕としてはどっちかにベッドから降りてもらいたいんだけど……」
コテツがそう言うとアーデルハイトとヒルダはコテツの左腕と右腕をギュッと強く抱きしめた。
「なら負け犬が降りるべきだな」
「なら泥棒猫が降りるべきですね」
仲良く喧嘩する二人にコテツは溜め息をついた。
「はいはい。じゃあ三人で仲良く寝ましょうね」
両腕に美少女を抱きつかせたままコテツは目を閉じた。
悪夢は……見なかった。




