ヒルダ=ニュートン05
「ヒルダ、落ち着いて」
「マイとヒルダ以外の人間に唇を許してよくもお兄様は平然とされていますね!」
「キスくらいならもう慣れたよ。マイと幾度もしたからね」
「兄さんったら……」
立体映像のマイが頬を赤らめて照れる。
その横でコテツから離れたコンスタンスが指折り数えていた。
「マイにアーデルハイトにあたしにヒルダ。コテツも罪な男だねぇ」
「決してこちらの本意ではないけどね……」
うんざりと言って煙草を吸うコテツ。
コンスタンスが話題を転換する。
「しっかしヒルダ、あんたの経歴見たけど化け物ね。オベロンの第二フェーズを十分に使いこなしている。親としては鼻が高いだわさ」
「あなたに褒められても嬉しくありません!」
細かく切った材料をフライパンで炒めながらヒルダ。
そこでコテツが首を傾げて問う。
「あれ? 先生にヒルダの事を紹介しましたっけ?」
「してないけど知ってるわよ。あたしの子供達とその奏者のデータくらい」
「それもそうですね」
煙草を吸うコテツ。
今度はヒルダが首を傾げた。
「子供? 奏者?」
「ああ、紹介してなかったね。こちら……」
とピンクのツインテールに宗教的に衣服を着て背中に小さな羽を持つ立体映像……コンスタンスを示してコテツが言う。
「……コンスタンス=ミトニック。……アースクの製作者にして電子怪盗デンドロビウムその人です」
「……は?」
フライパンで食材を炒めながらポカンとするという器用な行動をとるヒルダ。
「電子怪盗デンドロビウムについては知ってるよね?」
「アースクを扱っている国や企業を狙ってデータ泥棒をする犯罪者……ですよね。クラッキングをかけた後『デンドロビウム参上』と書置きを残していく、あの……」
「そう。それ」
「それとコンスタンス=ミトニックがどう関連しますの?」
「あー、つまり……」
と言ってコテツはコンスタンスの思惑をヒルダに話した。
コンスタンスが自殺する前に人格を人工知能に変換したこと。
そしてアースクの監視をしていること。
全てはアースクを悪用させないための行動であること。
全てを話し終えて、
「できればこの事は秘密にしておいてもらいたいね」
コテツはそう締めくくった。
「はあ……お兄様がそう言うのなら。狐に包まれた感覚は抜けませんがお兄様がそんな嘘をつく理由もありませんものね」
「助かる」
一礼するコテツ。
「いえいえ、貴重な情報です。命にかけてこの情報は秘密にします。それで……電子怪盗デンドロビウムにしてアースクの創造者であるコンスタンス=ミトニック……あなたは何故アースクなんてものを創ったのです?」
フライパンに水とスパイスを混ぜながら食材を炒め続けるヒルダ。
「まぁそこに可能性があれば創りたくなるのが職人ってもんでしょ?」
あっさりとコンスタンス。
「どうせなら武力としてのアースクを創ればよかったですのに……」
そう反論するヒルダに、
「そんなことして太陽同盟に反対するテロリストの手に渡ったらどうするんだわさ。光速の一・五倍の速度まで加速するのよ? 特攻されるだけで惑星を破壊できるわさ」
「まぁそれもそうですね」
細かく切って炒めた食材をカレールーごと白飯にかけるヒルダ。
同時にアーデルハイトのキッチンからアーデルハイトが現れた。
アーデルハイトの手にはドライカレーの皿が二つ、握られていた。
「コテツ……! 出来たぞ!」
アーデルハイトはコテツと自身の席にドライカレーの盛られた皿を置いた。
同時に、
「こちらも出来ましたわ」
ヒルダはコテツと自身の席にキーマカレーが盛られた皿を置いた。
「どうだ。さっさと食え。負け犬のより美味いぞ」
「どうぞお兄様。泥棒猫のより美味しいはずですよ」
そして、
「ガルル……」
「グルル……」
と牽制しあうアーデルハイトとヒルダ。
コテツは恐る恐るアーデルハイトのドライカレーを食べる。
「おお、美味っ!」
そう驚くコテツ。
アーデルハイトは大きな胸を張って、
「ふんす」
と鼻息も荒くドライカレーを自慢した。
「スパイスも絶妙だろう? 俺独自のドライカレーだ……!」
「これは……空腹の僕の胃を刺激するね」
コテツはドライカレーを食べた。
そこに、
「お兄様、泥棒猫のカレーなんて食べないでいいです。ヒルダのキーマカレーは大したものですよ?」
「おおう。じゃあこっちも……おお、これも美味い!」
コテツはヒルダの作ったキーマカレーを食す。
「それで……」
「それで……」
アーデルハイトとヒルダが言う。
「どちらのカレーが美味しかったんだぜ?」
「ヒルダのカレーの方が美味しかったですよね?」
迫る美少女二人にコテツは二人のカレーをモグモグムシャムシャと食べて感想を言った。
「二人のカレーはそれぞれ美味しいよ」
そんな玉虫色の回答に、
「だっははは!」
とコンスタンスが笑う。
しかして、
「それじゃ決着がつかないじゃないかコテツ!」
「お兄様! それでは泥棒猫を追い出せませんわ!」
そう言って、
「グルル……!」
「ガルル……!」
と牽制しあうアーデルハイトとヒルダ。




