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ヒルダ=ニュートン04

 プククと含み笑いをするコンスタンス。

「楽しそうですね……先生」

 うんざりと煙草の火を灰皿に押し付けて消して新たな煙草に火をつけコテツ。

「あいつばかりが何故もてる……ってね。春爛漫でいい光景じゃないか……」

 だっはっはと笑うコンスタンス。

 コテツは煙草をスーッと吸って紫煙をフーッと吐いて、それから血走った目のアーデルハイトとヒルダを見た。

「じゃあコテツ、お題を出せ!」

「お兄様、何か食べたいものはございますか?」

 コテツは煙草をスーッと吸って紫煙をフーッと吐いて、それからポクポクと脳内で木魚を鳴らして、それから言った。

「じゃ、カレーで」

 そんなコテツの言葉に、

「あいわかった!」

「了解しました、お兄様……」

 頷く二人。

「ああ、それから……」

 と、コテツが言葉を付属する。

「ヒルダはまだこのマンションのキッチンに慣れてないだろうからこっちの……僕の方のキッチンを。ハイトはハイトの部屋のキッチンを使ってね?」

「む……まぁコテツがそう言うのなら……」

 いそいそと自身の部屋のキッチンへと向かうアーデルハイト。

 コテツの住んでいる一号室とアーデルハイトの住んでいる二号室は隔てる壁が取っ払われているため外回りをすることも無くアーデルハイトは自身のキッチンに向かった。

 そんなアーデルハイトの背中を見た後、ヒルダはボーっとしながら煙草を吸うコテツの方を見て、言った。

「最高のカレーを作ってみせますからね」

 ニコリととろけそうな笑顔を見せるヒルダ。

「がんばれー……」

 他に言うことも無くコテツ。

 それらを見ながらくつくつと意地の悪い笑みを見せるコンスタンス。

「先生、何がおかしいの……?」

「いやいや、おんしは幸せ者だなぁと……ね」

「まぁ、それはそうですが……」

 憮然とするコテツに、

「ヒルダはお兄様を幸せにする淑女たらんと修業を積んできました。そんなヒルダを差し置いてあの泥棒猫は……!」

 自身のアピールをしているはずが言葉の途中から呪詛になっているヒルダだった。

「けどねぇ」

 とコテツは反論する。

「マイがいなくなって、もう死ぬしかないって時にハイトは僕を支えてくれたんだよ? そういう意味では僕は誰よりハイトに感謝しなきゃいけないよ?」

「マイが亡くなったことは今日聞きました。ヒルダがその情報を持っていればすぐにでもお兄様の力添えになったものを……!」

「言葉だけでもありがとう……」

 ニコリと笑うコテツ。

 それはありふれた笑顔だったが、恋する乙女には効果は抜群だった。

「ま、まぁこれからはヒルダがいますので泥棒猫は必要ありませんよね……。ですよね、お兄様?」

「まぁその件はおいおい考えるとして……」

 話題をずらすコテツ。

「それより先生……」

 とコテツはコンスタンスに水を向けた。

「なんだわさ?」

「アッカーマンシステム攻略はどうなっているの?」

「もう九割のデータは取れているわさ」

「もうそんなに……!」

 驚愕するコテツ。

「ま、真正面からクラッキングするとコテツやアーデルハイトに迷惑がかかるから気取られないようにじわじわと攻略したわさ。痕跡も残ってないから安心していいわよ」

「じゃあ全部データを取り終えたらここから出ていくの?」

「うーん。その件なんだけどね……。ここを拠点にするわけにはいかない?」

「どういうことでしょう?」

「どうもあたしはコテツが気に入ったみたいだわさ。だからここを拠点にするわけにはいかないかって聞いてるの。ここは面白そうだし。無論、他のシェルコロニーにクラッキングするために遠征することもあるけど、ここを『帰ってくる場所』にしちゃ駄目?」

「大丈夫ですよ」

 コテツは素直に頷いた。

「兄さん? それは犯罪者を匿うということですよ?」

 マイがそう忠告する。

 しかしてコテツはあっさりと言った。

「いいさ。こっちに迷惑がかかるでなし。好きなだけいればいいよ」

「さっすがコテツ! よくわかってるわさ!」

 コテツに抱きつくコンスタンス。

 しかしてそれにコテツは不思議な感触を持った。

 抱きついてくるコンスタンスは立体映像のはずなのに実際に抱きつかれているような感触を覚えたのだ。

「あれ、視覚負荷現象が起きてる。マイ、その手のソフト入れた?」

「いえ、入れておりません。しかしてコンスタンス先生が色々と我が家のハードやソフトを弄っていたのでそれではないかと」

「先生。何のためにこんなことを?」

「そりゃコテツと触れ合いたいからさ。好きって百万の言葉より一回の抱擁の方が勝る場合もあるからね」

 コテツに抱きついてケラケラ笑うコンスタンス。

「この! 人工知能の分際でヒルダのお兄様に近付かないでください!」

 フォークをコンスタンス目掛けて投げるヒルダ。

 しかしてフォークは立体映像のコンスタンスを当たり前だがすり抜けた。

「視覚負荷現象はあくまで視覚を通して相手の脳に架空情報を誤認させるためのものだわさ。フォーク投げたって無駄だわよ」

「そんなこと知ってます! 早くお兄様から離れてください!」

 そんなヒルダを挑発するように、

「ん~、ちゅ」

 と、コンスタンスはコテツにキスをした。

「はぁ……」

 と溜め息をついて、キスの感触を得た唇を拭うコテツ。

「この人工知能は~! フォーマットしますよ!」

 そしてヒルダが黒い長髪で怒髪天をついて怒る。

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