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ヒルダ=ニュートン02

「無論、あなたのことです。ええと……Aクラスのアッカーマンさん……?」

「なんで俺にはお茶を運ばない!」

「むしろなんであなた如きがこんなところにいるんです? お兄様の傍にいていいのはヒルダと……それからマイだけです。あなたは何を持ってお兄様の傍にいるのです?」

「俺は無償の愛をコテツに注ぐためにいるんだよ!」

「それならもう用無しです。お兄様はヒルダが面倒を見ますので」

 きっぱりとしたヒルダに、アーデルハイトはコテツに詰め寄る。

「どういうことだコテツ……!」

「いや、僕に話を振られても……」

 茶を飲みながらコテツが言う。

「お前は俺に愛を注いでほしかったんじゃないのか!」

「それは事実だよ?」

 あっさりと言うコテツに、

「あ……う……」

 言葉を失うアーデルハイト。

 それからアーデルハイトは顔を赤らめて、

「あーでもない。こーでもない」

 と悩んだ後、

「じゃあここにいるヒルダ=ニュートンはなんだ!」

 疑問を呈した。

「何だと言われてもねぇ……。僕自身も良くわかんない」

「お前とヒルダが……け、け、結婚とか……言ってなかったか!」

「だからそれは僕が言ったわけじゃないって」

 そう弁解するコテツに、今度はヒルダがショックを受けた。

「そんな……! お兄様……過去の契約を反故にする気ですの!」

「僕とヒルダは何か契約していたっけ?」

「だってこの世界では……この宇宙では……好き合っている者同士が結婚するのは常識以前の問題です!」

「昔ヒルダのことを好きだって言っただけの事が何で結婚まで飛躍されるのさ!」

「それが結婚の前提でしょう……?」

「いや、それはそうだけど……」

 しどろもどろになるコテツに、

「何を押されているコテツ! お前は俺のモノだろうが!」

 アーデルハイトがそう叫んだ。

「落ち着いてハイト。君のモノでもないから。とりあえずお茶でももらったら?」

「む……それもそうだな……」

 コテツの対面に座っているアーデルハイトは立ち上がって小型量子変換機から茶を一人分取り出すと、それをダイニングテーブルに置いてコテツの対面に座り直す。

「それで?」

 ズズズと茶をすするアーデルハイト。

 それから、

「どうするつもりだコテツ?」

「どうしますのお兄様?」

「あ、アイドル奏者アルファ=アストラルがBクラスで二連勝だって。今度のステージではアースクで飛びながら歌うらしいよ……」

 ニュースに逃げ込むコテツ。

「いやぁ、やっぱりアイドルでアースク奏者なんてすごいね。ほら、とっても可愛い」

 コテツは今日のニュースを、ブレインユビキタスネットワークを通して、アーデルハイトとヒルダに配る。

 そのニュースには、

「アイドル奏者、またも快勝」

 と銘打たれた見出しと、茶髪のパーマでウィンクしている美少女のバストアップ画像が写っていた。

 アイドルでもありアースク奏者でもあるアルファ=アストラルは今現在太陽系のニュースを席巻していた。

 アルファ=アストラルが負ければ相手側の企業が大勢のファンから叩かれるくらいである。

「いやぁ……顔良し歌良し性格良し。良し良し三昧のスターだねぇ」

 うんうんと頷くコテツに、しかして、

「お前は何を呑気なことを!」

 アーデルハイトはコテツの左足を踏んだ。

「お兄様。話を逸らさないでください」

 ヒルダがコテツの右足を踏んだ。

「いっつ……!」

 唐突な痛みに耐えながら、抗議する。

「何するの二人とも……」

「いいから早くこいつを追い出せ」

「お兄様、この泥棒猫をこの部屋から追い出してくださいな」

「どっちも断る。好きな奴が出ていって、好きな奴がここにいればいいさ」

 茶をすすりながらコテツ。

 ヒルダはコテツの右腕に自身の左腕を絡ませながら右手で茶を飲み、それから言った。

「お兄様、それではこの泥棒猫はいつまでも居座り続けますよ?」

「いいんだよ。僕にはハイトが必要なんだ」

 鬱陶しそうにヒルダの腕が絡んでいる右腕を動かして煙草をとり、くわえると、左手で火をつけるコテツ。

 コテツはスーッと紫煙を吸って、フーッと紫煙を吐く。

 そして言った。

「それよりヒルダが僕と結婚する気満々なことに疑問を呈したい」

「だってお兄様はヒルダが好きなんでしょう。ヒルダもお兄様が好きですから。なら結論は一つでしょう?」

「友達から始めよう」

「何でです!」

「いや、だってねぇ……」

 そうとだけ言ってフーッと紫煙を吐くコテツ。

 むむむ、と唸るヒルダ。

「ヒルダはお兄様に好きと言われた日から異性として見てもらえるように、距離を離しました」

「いきなり僕らの近所からいなくなったのはそのためか」

「それからイギリスのお嬢様学校に通って淑女の嗜みも学びました」

「そう言えばお嬢様学校に通っていたって言ってたね」

「お兄様とマイがアースク奏者になったとの遠くの便りを見たときには、ヒルダもお兄様と肩を並べるために地球のアースク訓練学校に通って、遂には木星圏のシェルコロニーたるブレナムのノーチラス本社にて《オベロン》の奏者になりました!」

「その根性はかうけどさ……」

「全てお兄様のためですのよ?」

「だからと言って僕と結婚なんて理屈は通らないんじゃないかな?」

「そんな……! お兄様はヒルダを行かず後家にするおつもりですの!」

「なんで僕と結婚か行かず後家かの二択なんだよ! 他にも選択肢あるでしょ!」

「ありません!」

「即答?」

 うんざりとしながら煙草を吸うコテツ。

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