楓、リア充になる
こんにちは、楓です。
もといキモオタです。夏希お姉ちゃんが思い浮かべる私の人間像を率直に表現されて、こんな肩書きを載せられたのは言うまでもありません。
オタクっていうのは――まぁ認めます。私はエロリンが大好きだし、アニメだってグッズだってこよなく隙間なく愛しています。
でも……キモ。
キモいのでしょうか。私は。
エロリンを愛し、敬い、慕う私は――そんな私のこんな姿は、キモいのでしょうか。
――認められません。認められる理由が見当たりませんし、そんなの最初から無いと思います。
エロリンを愛しているからこそ、エロリンのすべてにこの身を捧げているからこそ、私は出会えたんだと思います。
良き親友に――尾田殿に、出会えたんだと思います。
「あ、あの……尾田くん?」
「ふごふごっ……何でござるふご楓殿」
改めましてこんにちは、楓です。
もとい青春女です。
そう、青春女。
今私が現在進行形で行っている――陥っている状況は、学生時代を色鮮やかに飾ってくれる最高の一ページ――青春と呼ばずして何と呼ぶのでしょう。
リア充……。とも言うのでしょうか。
だってほら、普通に生きてたらあり得ないじゃないですか、こんなのって。
“まさか放課後に友達と一緒にマックに来れるなんて!”
普通じゃないです。異常です。
だって、放課後ですよ? 放課後と言ったらもう家に帰らなきゃいけないという絶対的な意味を持っているんですよ?
それなのにほら、私の目には、尾田殿の大きな口へと、まるで掃除機に吸い込まれるかの如きスピードでエルサイズのマックポテトが消えていくような――。そんな光景が写ってるんですよ。
「私たちって……今物凄く、リア充だよね~」
「ブヒィーッ!!」
尾田くんの口からマックポテトが顔を出しました。描写できない感じのあれです。
「ど、どうしたの尾田くん!?」
「せ……拙者と楓殿が……リ、リア充! ブヒィー!」
「え、え? 違う?」
「ブンブン!」
ブンブンと言いながら、ブンブンと首を振る尾田くん。ほう、これが表現技法か……レベル高いなぁ。
「じゃあ……その……せ、拙者は今、楓殿と……その、付き合ってるでござるか?」
「それは違う」
「………………」
わわ、俯き黙る尾田くんから負のオーラがすごい。
私そんなに傷付くこと言いましたかね。だってほら、尾田くんと私はそういう関係じゃないし……。私男の人と付き合うとか……その、無理だし。
別にレズってわけじゃないですよ!
「楓殿の――」
「ん?」
尾田くんが小声で何か呟きました。とても小さな声で、俯きながら言いました。私はそれを良く聞き取れず思わず顔を尾田くんのほうに寄せます。
――次の瞬間、強烈な破裂音が私の鼓膜を打ち鳴らしました。
無意識に顔を引き寄せ、何かと思いそこを見ると、尾田くんが机の上を両の手のひらで思い切り叩いていました。
目は鬼のように充血し、獲物を狙う虎のような形相です。
「楓殿の――ばかぁ~ん!」
「待って尾田くん!」
椅子から立ち上がり、その場から逃げる尾田くん。それを追いかける私。
――尾田くん、私何か悪いことしたかな。
もししたとしたら、謝らなくちゃ。
だってほら、私たち、友達だもんね。
友達、だもんね。
逃げる尾田くん、追いかける私。
気がつけばここにはもうあの、ほのかな匂いはしとおらず、ただ淡々と風の匂いが立ち込めています。
いつの間にかマックから出てしまったようです。
辺りに並ぶのは車――ここはマックの駐車場です。
その中に相対する二人。互いに正面から向き合い、冷静な眼差しで見つめあう二人が居ました。
その距離、約十メートル。
「尾田くん、話があるの」
「な、なんでござるか」
私はそこで、打ち明けました。
ずっと思っていたことです。
尾田くんと出会い、遊び――そして今に至ったとき、打ち明けなければいけない言葉。
私がそれを打ち明けたとき、尾田くんは受け入れてくれました。
本当に――優しい。優しい人だと思います。
「会計払おうよ」
「ふぁい」