楓、友達を作る・後編
楓、友達を作る・中編にて夏希のイメージ図を更新しました
あと、楓、友達を作る・前編にて穂香のイメージ図がありましたが、あれを書き直しました
よかったらぜひご覧ください
あわわ……どうもこんにちは、楓です。きゃぴきゃぴッ。
……嘘だよ。
私の名前は山田夏希、塩原南高校に通う麗しき乙女さ。山田家の特攻隊長なんて呼ばれてるぜ。自分にな。
ん、楓がタイトルなのになんで私が語り部なのかって? まったく失礼しちゃうぜ……。
いいか。考えてもみろよ。一話二話で穂香と楓と来て、三話目に私が居ないってどういうこっちゃねーん!
三話目まで楓に取られたし! 「こんにちは、楓です」じゃねーよ!
四話目まであんな奴に取られるわけにはいかないからな。今回は私が出陣するぜ!
――さて、じゃあ前回までのあらすじだな。
いつも通り平凡な毎日を送るちょっとおちゃめな山田夏希ちゃん、そんな彼女の日常生活にとんでもない異変が起きたんだ!
「ブヒヒ、尾田展夫って言います。どうぞよろひく! ブ、ブヒッ! 噛んじゃった。やっぱり美少女ヒロイン達に囲まれるのは緊張しますなぁーーお、拙者としたことが取り乱しすぎて標準語を喋ってしまったでござる! てへぺろ」
その異変の張本人、全ての黒幕がこいつ――尾田展夫。楓からは゛てんお゛って聞いてたけど゛のぶお゛じゃねーか。
しかしそんなことはどうでもいい。問題はこいつの特殊能力についてだ。そう――特殊能力。
原理がどうなっているのか分からないが、こいつの体からは人間のものとは思えない異臭が出ている。豚とかバカにしてたけどそんなレベルじゃない。言ってしまえば、こいつ何か漏らしてんじゃねーのと疑いの眼差しを向けたくなるほどだ。
しかし当の本人はそれに気づいていない様子。――いやもしくは、気づいてはいるがその臭いに慣れてしまったか……。
どちらにせよこのまま奴を放っておけばいずれ私の家は崩壊する。何か辺り一帯が茶色く変色してる幻覚まで見始めてきたし。出会って二十分も経ってないけどそろそろ私やばいかも。
「あ、あのぉ――」
「喋るな」
「ブヒッ!?」
「鳴くな」
「!?」
――とりあえずこいつが入ってきた直前に換気はしといた。ていうか。穂香姉ちゃんがした。どうやら姉ちゃんもこの禍々しいオーラを感じ取ったらしい。
しかし不覚だ。どんなキモオタが楓の友達になったかと楽しみにしてみれば、こんな毒ガス製造所が出てくるなんて。もっとこう、楓の友達なんだからさ、穏やかな奴が出てくるのかと思ったよ。いじりがいのある、生真面目で根暗でニートみたいな奴。
――私の想像から一変して、何だこいつ。髪もチリチリだし伊達メガネだしタラコ唇だし太ってるし豚だし。この麗しき乙女に対してなんたる態度! 恥を知れ恥を! ていうか人間性を知れよ!
「あ、えーと……尾田くんは何か趣味とかあるのかな?」
スモッグがたち混む中、先手を出たのは穂香姉ちゃんだった。鼻を手で押さえ、喋るのさえ苦しいだろうに……。よく働く姉だぜ。私はそんなアンタに涙さえ出るよ。
するとスモッグは持ってきた迷彩柄のバッグをあさり始め、息を荒くしながら、
「勿論! 『ビリビリ魔法ガールエロリン』グッズを採集することでござる!」
一体のフィギュアをテーブルの上に置いた。
――な、なんじゃこりゃ。
『エロリン』というロゴが入ったそのフィギュアは、一言で表すと――きもかった。ていうかその言葉以外で表すことができない。一言で表さなくてもきもい。
金髪ロングの、小学生くらいの女の子が杖を持ちながら派手に電撃を出しているフィギュア。つーかエロリンほぼ全裸だった。電撃のおかげで隠れていると言っても過言ではない。
さすがの穂香姉ちゃんもこれには一歩退いてしまう。
「あ……はは……可愛いね」
「おお、エロリンの良さを分かってくれるとは! もしやお姉様もエロリンファンでは!?」
「ごめん。それはない」
しかしこのフィギュア、所々色が剥げている。隠れたとこにはシミさえできてるし。一体こいつはこのフィギュアをどう扱ってるんだ。お前絶対エロリン大切にしてないだろ。
するとスモッグが上機嫌にエロリンのテーマソングなるものを歌い出した。
「今日も~ビリビリ~エロリンたん~! 野原でビリビリ~ 山頂でビリビリ~! お空でビリビリ~! トイレでビリーー」
「うるせえ」
――と、私はそのエロリンフィギュアの左腕をへし折った。
「え」
さりげなく。迅速に。完璧に。へし折った。
ぐにゃりとゴムのような抵抗はあったものの、案外ポキッといってしまった。
感度の良い音だけが響き渡る。
「え、え……え」
困惑するスモッグ。その隙を狙い今度は右足をへし折った。すると右足と繋がっていたらしき電撃も一緒に折れて、エロリンは全裸になってしまった。
隠れていた大事な部分を解放してやったものの、最終的にそこには何も描かれてなかったけど。
「……」
「どうだ。これがエロリンの真の姿だぞ~」
へし折った手足をスモッグの顔面に投げつけ私はドヤ顔をかました。
静かに落ちていくエロリンの手足――部屋中には時が止まったかのような静けさが広がる。
「……私を」
「ん?」
不意に、スモッグが呟くような声で私に話しかけた。
「――私を、怒らせてしまったようだな」
突然、このリビングに異変が起きた。
最初は私も何が起こったのか分からなかったが、辺りに立ち込めるこの異変に恐怖と共にその感覚が頭を過る。
――く、臭い!
「う……ぷっ……」
そう、臭かった。とてつもない異臭がこの部屋に蔓延したのだ。
確かにこいつは元から臭い。それだけでも十分だ。しかし今は違う。臭いのも段々と酷くなっていく。底知れない臭さが増していくのだ。言葉では表現しきれない――まさに腐るような臭さが。
口呼吸にしても感覚的にその臭いが伝わってくる。こいつガチで超能力者か!
「プスゥ…プスゥ……ッ」
あの口の動き……。この臭いの元はあそこか。だったらあれを防げば――。
私は立ち上がろうとした。いや駄目だ。足が動かない。あまりの異臭に足の感覚も麻痺していた。
「あ、あぁ……」
「大丈夫か穂香姉ちゃん!」
穂香姉ちゃんの容態も危ない。
そうだ、楓は無事か!?
「う……」
見るとそこに、楓の姿は見当たらなかった。
楓の野郎、逃げやがった!
「ぷしゅぅーっ!!」
「うああーっ!!」
「うぅ……っ!」
部屋中に蔓延し、みるみるうちに酷くなっていく異臭。悶えていた私も、いつしか抵抗することが難しくなっていた。
そのまま体に力が入らなくなり、バタンと床に倒れる。
やばいぜ。意識が遠退いてきやがった……。はは……桃源郷が見えやがる……。これまでの人生、短い間だったが……た、楽しかったぜ……。
――じゃあな、お前ら。
「――あの」
ふぬけたような楓の声が聞こえた。しかしここはもう下界ではない。
楓なんて、居るはずが――、
「私のエロリンフィギュアあげるよ!」
「えぇーっ!!?」
思わず飛び起きた。
するとそこには、エロリンのフィギュアを持って部屋から出てくる楓の姿があるではないか。。
「えへへ。これお店のくじで二個も当たっちゃったの。だから一個あげるね」
「こ……これはドエロスフォルムのエロリン! 定価二万は安い程の限定版!」
「そっちのとは全然違うけど……ごめんね」
……。
隣を見て、穂香姉ちゃんが既に起き上がっていたことを確認した私は、虚ろな目で安否を確認する。
「……穂香姉ちゃん、生きてる?」
「いや、あの状況からしてここってやっぱり地獄なんじゃない?」
嬉しそうにエロリンのフィギュアを抱き抱える楓を見て、
「……だよな」
と、私は呟いた。
***
その後、あの光化学スモッグはそそくさと帰っていった――どでかいエロリンフィギュアを抱き抱えて。すぐに私たちは部屋を大掃除し、あの臭いをできるだけ取り除いた。
そしてその後夕食となる。今夜は両親が二人とも残業で居ないので三人での食事となった。
「えへへ~」
楓が妙に気持ち悪くニヤついている。
見るに耐えなくなった私は口を開いた。
「――楓、お前のことはもうこれからできる限り無視するようにする」
「え! ひ、酷いよ~お姉ちゃん!」
その夜は悪夢を見た。