楓、友達を作る・中編
こんにちは、楓です。今日もまた天城南中学に来ています。
昨日、夏希お姉ちゃんから尾田くんを私の家に招くよう頼まれたわけでして、今日の私はいつにも増して気合いが入っています。ちなみに尾田くんとは私の新しくできた友達のことで、とっても優しくて良い人です。気になるところがあるとすれば、よく涎を垂らしてしまうことぐらいですね。でもそういう体質かもしれないので、しょうがないですよね。そこは。
「――よし、今日はここまでだ!」
「うへ~やっと昼休みかよ~」
「まだ午後もあるぜぇ~」
チャイムの音が学校じゅうに鳴り響きました。給食の時間です。教室の皆は友達と机をくっ付け始め、給食当番の人は皆に給食を配っています。
私は勿論の如く一緒に食べれるような友達が居ないので、給食が配られるのを一人で待っていました。
ん、尾田くんと食べろって? 実は昨日勇気を出して尾田くんに一緒に食べるようお願いしたんですが、
――楓殿と給食ですと!? 拙者には荷が重すぎるでござるー!
と、言われてしまいまして……。お互い一人で食べることになってしまったんです。――うーむ、もしかしたらこれは「お前と食べるなんて俺には無理だからさっさと失せな、このハゲ」ということでしょうか。もしそうだとしたら、私完全に嫌われてますよね……。どうしよう、このままじゃ企てた作戦が全て終わりに終わります。終わりに終わりって……なんだろ。バカでごめんなさい……。
「楓ちゃん、はい」
と、ここで給食が運ばれてきました。
「あ、ありがと……」
どなたか存じ上げない方から受け取り、その給食の内容を確認しました。中学生特有の、この給食の献立に対する毎日のワクワク感、癖になりますよね!
今日の給食は――も、もやし炒め……。こ、困りました。私野菜って食べられないんです。もう完璧肉食系でして――あ、肉食系女子って意味じゃないですよ!
でも、給食のおばさんがせっかく作ってくれたのに残すわけには――。
山田楓、ここは男になります!
「い、いただきま――」
「楓殿!!」
「すぃあ!?」
突然の呼びかけに私の心臓が大きく高鳴り、我ながら情けない声を出してしまいました。なんかこれ二回目のような気が……。
そして、勿論私を呼んだのは尾田くんでした。
「お、尾田くん……どうしたの?」
「拙者、決めたでござる」
「な、何を?」
尾田くんの様子がみるみるうちにおかしくなっていきます。なんかこう、怒っているかのような――フンガフンガ! とかそういう奇声を発しています。
私はビクビクして、じっと尾田くんを見上げます。
「楓殿と一緒に、ご飯を食べたいでござる!」
そう叫んだ尾田くんの口元には、涎が垂れてました。
***
「いや~もやしは美味しいでござるなぁ~」
「え、あ、そうだね……」
私は今、友達と一緒にご飯を食べています。中学に入ってから一度もできたことのない友達と、今一緒にご飯を食べていました。
「およ? 楓殿はもやしを食べないでござるか?」
「私は……その、野菜嫌いでござる」
「ブハー! ロリ系の発言萌えー!」
もやしを口に含んだまま意気揚々と尾田くんは叫び続けます。しかも大声で。私は尾田くんの口元を見ないよう気をつけました。きっと今頃は大惨事になっています。
でも、しょうがないですよね。お喋りな人なんですから、どんなときでも喋りたい気持ちは抑えきれません。うちの夏希お姉ちゃんもお喋りなのでよく知ってます。
「デュフフ~では拙者が食べちゃうぞよ~」
「ありがとうでござる! もやし大王!」
「何だかそれ安っぽい王でござるなぁ~」
「じゃあ豚大王!」
「バカにしてるでござるな!?」
こんな感じに会話が盛り上がってきたところで、私は大事なことを思い出しました。そう、アレです。アレ。
そろそろ実行する頃合いじゃないでしょうか。
「あ、あの……尾田くん?」
「ブヒヒ、何でござるか楓殿!」
「あの、今度の土曜私の家来ませんか?」
思わず敬語になってしまったー。
「――ブヒィィィーーッ!!!」
尾田くんは大きな唸り声を上げ、胸を握り拳で叩き始めました。
「ウホッ! ウホウホウホウホウホウホ!!!」
「あ、あの尾田くん……?」
クラスの皆がこちらを振り向きます。皆尾田くんの突然の雄叫びとドラミングに驚きが隠せない様子です。中には尾田くんをスケッチする人まで居ます。
尾田くんはひとしきり暴れた後いきなりドラミングを止め、こう呟きました。
「My perfect body」
どうやらオッケーのようです。
***
――そして土曜日。
我が家のリビングでは、山田家三姉妹が勢揃いして丸いテーブルを囲みながらソファーに座っていました。
「夏希、それは尾田くんに用意したお茶菓子よ。食べないで」
「うっせぇなぁ。豚に菓子なんて与えんなよ~」
「豚じゃないよ。尾田くんだよ」
「豚も尾田も大して変わらん!」
「夏希はいいから黙りなさい」
こんなんで大丈夫なんでしょうか……。せっかくできた友達なのに、夏希お姉ちゃんのせいで嫌われるかもしれません。
「ていうか楓、尾田くんはこの家知ってるの?」
穂香お姉ちゃんが聞いてきます。
「うん、なぜか偶然にも知ってるらしいよ」
「……」
穂香お姉ちゃんはそれ以上何も言おうとはしませんでした。
――と、そのとき、
「こんにちはー」
聞き覚えのある声が玄関から響きました。
「私が出陣しよう!」
「あ、待って夏希お姉ちゃん!」
夏希お姉ちゃんが即座に反応して、玄関まで駆け寄ります。私もそれの後に続きました。
そしてお姉ちゃんがドアをゆっくり開きました。
「あ、尾田くん!」
するとそこには、学校でよく見る私の友達の姿がそこに立っています。良かった! ほんとに来てくれた!
「デュフフ、お邪魔しちゃうでござる」
尾田くんが陽気に挨拶すると、夏希お姉ちゃんが鼻を押さえ始めました。
「はがっ……ぬ、ぬぐぐ……」
「ど、どうしたの? 夏希お姉ちゃん」
「――こ、こいつくせええええ!!!」