プロローグ
試合が終わった。
カメラマンや記者の人たちは、片づけをしている。
…ただ、あの人だけは違った。
初めは女性記者、それかカメラマンだと思っていた。
けれど、そうだとしたらあんな場所に立ち入ることはできない。
関係者以外立ち入り禁止のロッカールームには。
「ねぇ、なんであの人だけ中に入れるの?」
「きっと関係者の人だよ」
「関係者?女の人で入れるのって、記者の人だけじゃないの?」
「うん。あの人は広報の人かな」
「広報?」
初めて聞く仕事。
父は、ピッチを眺めながら言った。
「選手の情報を、正確に、いち早く発信する仕事だよ」
「へぇ…」
いまいち理解はしていなかった。
ただ、選手に近い仕事だってことは分かった。
関係者に笑顔で話しかけている姿。
それに答える選手や監督は、いつになく穏やかな笑顔だった。
「ねぇ、広報って仕事をすれば、選手と話せる?」
「話せるだけじゃないよ。いつでも会える」
「ホントに?!」
「あぁ、本当だ。興味があるのかい?」
「うん!私、広報って仕事がしたいっ」
「そうか、それはいいことだ。じゃぁ、そのためにはちゃんと勉強しなきゃな」
「うんっ、頑張る!」
子供の頃、ただその場のノリで言った言葉。
その仕事に就くなんて、思ってなかった。
保育士だったり、教師だったり。
その時になりたかった職業は、たくさんあった。
そんな中で選んだ仕事。
自分を最大限に発揮できる仕事。
ずっと続けていく自信がある仕事。
ただ言ってみただけの言葉が今、現実となった。