《7》からすの入院生活始まる
からすが都内の病院に夜緊急入院して、翌日の10月26日から本格的な入院生活が始まった。といっても何故からすが入院しなければならなくなったのか、また本宅からも賃貸マンションからも遠い病院に入院したこと、それらが現実なのかもまだこの時点ではよく認識出来ていなかった。
一つにはからすはそれまでとても健康で、入社以来20年以上殆ど病気で会社を休んだ事が無く、あったとしてもせいぜい1、2度だけだった。勿論会社で受診する健康診断の結果も、ずっと異常がなく良好だったことがある。
それまで健康そのものだったのに、まさか脳梗塞になるとは考えていなかったしいなかったし、それはかなり信じ難い事だった。
そして脳梗塞を発症してからも一応歩いたり話す事も出来ていたので、脳梗塞としては比較的症状が軽く、入院はしたけれど短期間(1~2週間)で退院できるだろうとかもめからすは考えていたし、多分からすもそうだったと思う。
入院の翌日は再度入院に必要な下着、パジャマ、タオル等の身の回り品を用意して、病院へ向かおうとしていた矢先、からすから電話があった。
「今日個室が空くから、午後そっちに移動するよ」という内容だった。
個室を希望していたのだが、昨夜の病院の話しでは直ぐには空きが出ないので、空室が出しだい移動させてくれると言っていた。だからこのタイミングがの良さにはちょっとびっくりした。
からすは食べ物を殆ど飲み込めなくなっていで、殆ど吐き出していたのでお金がかかっても個室に入るのはやむを得ないと思っていたが、初めての事だし入院費については結構気掛かりだった。
高額医療は健康保険で大体は賄えると聞いていたし、医療保険や三大成人病保険にも加入してあったので多少の安心感はあったが、何しろ経験のない事なので一抹の不安はあった。
午後病院へ行くとからすは既に個室へ移動していてた。部屋は意外と広く清潔で、バスやシャワー付きではなかったが、トイレは室内にあってまあま快適そうだった。
「結構いいお部屋じゃない?」
「まあまあかな」
「いったい、個室代はいくらなの?」
「8500円ぐらいだったかな」
「そうなんだ、もっと安い個室もあるの?」
「あるけどそっちは空くかわからないみたい」
実はからすは医療保険として2つの保険会社に加入していて、入院給付金が日額で8000円給付されることになっていたので、個室に入るとしたらだいたいその入院給付金でカバーできるぐらいの個室を希望していたのだ。
だから、からすの入った個室が約8500円位だったので、若干はオーバーしたもののだいたい保険で間に合いそうなのでかもめはホッとしたのである。
かもめはからすが入院するまでは保険を掛けていても、多分利用する事は無いだろうけれど、やはり万が一という事があるかも知れないし、その時の安心料だと思って掛け続けていた。
だがこの時は保険を掛けておいて本当に良かったー!と思った。そして(本当に万が一の時というのは誰にでも訪れるのだな~!)と実感したし、三大成人病保険にまで加入していたのはある種、運命の糸的だなと思った。(こんな赤い糸だったら御免被りたいところだが…)
やはり保険は掛けておくべきものだなとおおいに実感した。
その日はからすの夕食の時間まで病院にいたのだが、出された食事はご飯やおかずは全てペースト状で、多少の色の違いはあるものの、見かけはどれも同じような食べ物みたいに見えた。
普通の水は飲めないので、水分としてはゼリー状にした水をチューブ入りにした物が出され、デザートはゼリーだった。
からすはそれらを懸命に、一口ずつ口に入れていたがやはり殆ど飲み込めず、その都度食べ物をその洗面所に吐き出していた。
相変わらず食べられないでいる可哀想なからす、いったいこれからどうなるの?それから数日間も結局食べ物はろくに食べられず、体内には極微量しか入っていかなかったので、1日に2回の点滴は欠かせず、殆どそれで命を繋いでいるような状態だった。