《旅がらす秘話1》奇妙なホテル生活
◇奇妙なホテル生活◇
約3年間年の旅がらす生活の中で特に懐かしく思い出す事柄がある。それは二重生活を初める為の賃貸マンションを探すべく、都心のホテルに家族3人で2週間滞在した事だ。
むくの頭の中でもこのホテル生活は、今でも楽しい思い出として記憶に残っているようだ。
ホテル滞在1週間の初めの3日間は、からすの会社と契約しているシティーホテルに格安料金で宿泊できるのでそのホテルに宿泊した。
契約で安く泊まれるのは1ヶ月に3日間だけなので、4日目以降は続けて同じホテルに、正規料金で4泊したのである。
むくはそのホテルから、まるで自宅から学校へ通学するように中学は登校していた。そのホテルからむくの学校へはすぐだったし、からすも会社が近くなって喜んだが、ツインのトリプル仕様に3人で宿泊したので夜はかなり息苦しくて窮屈だった。
また部屋の中にはキッチンが無かったので、むくの昼食のお弁当をどうするかという問題もあった。中学生なので自分でコンビニで購入していく訳にもいかなかったのである。
そこでかもめは考えた。幸い現代は、何でも必要な物が直ぐに手に入るコビニが至る所にある便利な時代なので、そこで購入しようと。
お弁当やおかずは朝コンビニで購入したが、そのパッケージのままでは可哀想なので、家から持参したお弁当箱に詰め替えてむくに持たせた。頭は使いよう。
夕方むくの学校が終わってホテルへ戻る時間位まで、かもめは不動産屋さんへ行ったりインターネットカフェで賃貸物件を探したりして過ごしていた。
それから滞在中の夕食は殆ど外食に頼り、近くの大戸屋、ガスト、ロイヤルホスト等で食べたり、時にはコンビニで購入する事もあった。
約1週間の高田の馬場のホテル生活が終わる頃、まだ賃貸マンションが見つからなかったので、更にもう1週間ホテル滞在を延長して引き続き探す事にからすと決めた。
それまでのホテルでは高いので、もう少し安い別のホテルを探す事にした。検索に利用したのはよく利用する旅行サイトの『楽天』だった。
なるべく安いホテルを、と探して見つけたホテルは池袋。1泊三人で丁度1万円。
その料金だからレベルの高いホテルではないだろうと、はなから期待していなかったが、実際にそのホテルへ行ってみるとちょっとがっかりするようなホテルだった。
ホテルの建物の入り口は都内によくある怪しげなホテルみたいな感じで、入るのがはばかられた。しかし見かけのわりに室内はまだましで、スペースはまあまあ、古臭かったが清潔感はあった。
ただ室内にはベッド以外はイスもテーブルも置いていない上、照明がちょっと薄暗かったので、むくが学校の宿題をするにはちょっと不便だった。
そのホテルでも高田馬場と同じような変わった生活を続け、何の進展もないまま2週間目が終わろうとしていた。
しかしその週末の金曜日に進展があった。その日もいつものようにインターネットで賃貸物件を探していたら、とうとう希望に近い物件が見つかったのである。
直ぐにからすと不動産屋さんに連絡を取って、夕方にはからすと待ち合わせをしてその物件を見せてもらった。
室内は2DKで狭かったが、むくの学校からは1駅、また駅近だったので結構気に入ってとうとう賃貸契約の運びとなった。
「むく、とってもいいマンションを学校の隣りの駅に見つけたよ!」
「とうとうこのホテル生活におさらばできるんだよ」
「えーっ!ほんと?綺麗なマンションなの?このホテル生活も結構楽しかったのに、おしまいか?!ちょっと残念」
「ホテル生活は楽しかったの?」
「うん、とっても楽しかったよ。いつかまたホテル生活をしてみたいな」
「明日からは一旦自宅に戻って、引っ越しの準備をしなければね」
こうしてこのちょっと不思議なホテル生活にサヨナラする事になったのである。
この2週間のようなホテル生活は多分これからのむくの人生でも多分ないであろうという、とても思い出深い経験として今もむくの心に残っているようである。