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《5》突然からすに異変が

 賃貸二重生活が始まってからはあっという間に一ヶ月が経ち、十月下旬になった。

 その頃にはかもめは慣れない生活と部屋の狭さからのストレスで毎日イライラし、いつ爆発しても可笑しくないような精神状態になっていた。

 人にもよって様々だと思うが、かもめは特に狭い場所が苦手で息苦しくなる。

 新しくて狭い家と、築30年位も経っていても広い家のどちらを選ぶか、と聞かれたら多分迷わずに築30年のほうを選ぶだろう。そのぐらい狭いのは苦手だったのである。

 だから少しでもパーソナルスペースを確保して息抜きをしないと、可笑しくなりそうな気がしていた。そんなわけで時々は息抜きの為に本宅に一時帰宅してもらい休養をとる事に決めた。

 早速10月下旬のとある金曜日には、からすに本宅に帰宅してもらい、金曜土曜と別々にゆっくり過ごした。

 狭いスペースから人間が一人減っただけなのに、不思議なくらい息苦しさを感じ無くなって、かもめは生き返った思いがした。こうまで違うとは思っていなかったのだ。

(ずっとこのまま別々だったら良いのになー!)かもめは本当にそう思った。

 実際極端に狭い場所で生活して、ストレスで病気になる人もいる、と聞いた事があったので、それは有り得ると感じた。

 その週末はむくとかもめ、母子水入らずでのんびりした週末を過ごして、日曜日の朝を迎えた。

 気持ち良い微睡みの中、早朝突然携帯電話のベルが鳴った。と言っても、マナーバイブだったのだが…

(誰、こんな朝早く?!)マナーにしていたので、一、二回目は無視。しかしその後もしつこく電話が鳴ったので出てみると、な、なんとそれはからすだった。

 電話口に出ると、恐ろしく呂律の回らないからすの大声が。

「大変だよー、体が可笑しくなっちゃったみたいだよー。きっと白血病が悪くなったんだ!」

(なんだそれ……?なんでいきなり白血病なんだ?)

「なんで白血病なの?鼻血でも出たの?!」

かもめは驚いて問い返した。

 以前から仕事柄コンピューターを使う事が多く、白血球が減少していてそれが数年続くという事実はあった。

「大変だよ!ご飯食べようとしたら飲み込めないんだよ!!」

「どういう風に?風邪でも引いて扁桃腺が腫れてるの?」

「解らない。とにかく全然飲み込めなくなっちゃった」

いくら聞いてもそれしか言わないし、説明不足なので意味が解らなかった。

 おまけに支離滅裂で、その上呂律も回っていなかったので尚更状況の把握が難しかった。だから、てっきり風邪で高熱が出て、喉が痛くて飲み込めなくなったのだと、かもめは勝手に解釈をした。

「車に乗れるなら、直ぐに休日診療を行っている病院に行ってみてよ、私も後からそっちに行くから」

「そうだよね、医者行ったほうがいいよね。解ったよ、とにかく病院に行ってみるから、後でこっちに来てね」

という事で一旦電話を切った。

 数時間後にからからすの受診した病院に行くと、からすは点滴を受けていたので、暫く待合室で待った。

 30分ぐらいすると点滴が終わり、からすが待合室へ出て来た。その足取りは何だかふらついているみたいだったし、やけに顔が青ざめていて血の気がなかった。

「風邪だったの?熱があるの?」

「風邪みたい。喉も見て貰ったよ」

「じゃあ、もう大丈夫なの?」

「あと薬を出してくれるから、受け取ればね」

(なーんだ、それなら良かった。普通の風邪で)

取り敢えず、かもめは安心した。

 薬局で薬を受け取り、会計を済ませてからすの所へ戻ると、早速薬を飲みたいと言った。それで、看護師さんにお水を頂いてからすに渡すと、薬を口に入れて水と一緒にゴクン!普通に飲み込んだ、と思ったら下を向いて、水と薬を全部床に吐き出してしまった。

「どうしたの?!!!」

かもめはびっくりした。

「やっぱり飲み込めないみたいだよ」

 何故飲み込めないのかかもめは訳が解らず、不思議には思ったが、よっぽど喉が腫れているんだろうと、かもめはその時は思った。

 ずっと以前にかもめは扁桃腺がかなり腫れて高熱を出し、痛さで食べ物や、つばさえも飲み込みなくなった事があったのでそれを思い出して、からすも同じような状態になったのだ、と思い込んでしまったのだ。

 まあ1日も経てば腫れが引いて、少しは良くなるだろうと思ったので、取り敢えず病院から本宅へ帰る事にした。

 実はその時、前を歩くからすを見ていたら、何だか左の方へ左の方名へと曲がってフラフラと進んでいったので、ちょっと変だなとは思ったがその様子を見ても、よっぽど高熱があってフラフラしているのだな、と思ったぐらいで何か別の病気なのではとの疑いは特に持なかった。

 二人別々に車を運転して病院に来たので、そんな妖しげな状態ではあったが仕方なく、また別々に車で本宅へ戻った。

「本当に風邪かな?」

かもめは不思議に思いからすに聞いた。

「もしかしたら、神経かも知れないって」

「神経って何?喉の神経がどうかなったの?」

 からすは普段から、言葉や説明が少なくて単語だけをボソッと言う事が多かったので、事情がかもめにはよく理解出来ない事が多かった。この時もからすの言う事があまりに断片的なので、やはりからすの病状についてはあまり把握できなかったがもしもう少し解りやすく説明してくれたらと後から思った。

 翌日からすがもう一度、本宅近くの同じ病院で検査してもらうかもしれないと言ったので、とにかく翌日になれば病状についてはっきりするだろうと思い、それ以上は考えなかった。

 からすを一人置いて帰るのはとても不安だったが、むくが帰りを待っているので戻らない訳にはいかない。だから可哀想なからすを一人残して、その日は賃貸のほうへ帰宅した。

 そしてその日も、からすは全く食事が出来ず、水も飲み込めなかったが、どうにか水だを舐めて、一人寂しく不安な一夜を過ごしたのであった。




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