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《55》むくの卒業式

 中二になってすぐに不登校になり、休学や保健室登校で二年近く教室へ行かなかったむくだったが、通っていた私立中学で、無事に卒業できることになった。

 むくは卒業式には出ないだろう、とかもめは思っていたのだが、校長先生の特別な計らいと担任の先生の勧めもあって、意外にも卒業式に参加することになった。(といっても他の生徒と一緒に、参列する訳ではなかったが)

 卒業式当日は、会場である体育館の式台正面の二階に特別に席を設けてもらえ、式が始まって少し経ってから案内され、かもめはむくと席に着いた。

 近くの席には、同じく不登校の生徒が一人とその母親が着席していた。その生徒は初めてかもめが見る顔わだった。

 既に卒業証書授与式は始まっていたが、むく達のクラスの番はまだだった。やがてむく達のクラスの番になり、クラスメート全員が起立した。

 そして一人づつ名順番に名前が呼ばれ、式台に上がって卒業証書を手渡されている様子が見えた。

 むくの番になった時、かもめはまさか、むくが呼ばれるとは思っていなかった。しかし、ハッキリとむくの名前が呼ばれた。

(信じられない〜?!)

 むくもかもめは一瞬耳を疑ったが、それは空耳ではなかった。二人ともそのことはとても嬉しかった。

 そのあと先生方や来賓の方々の挨拶、更に卒業生や在校生の挨拶へと続き、最後に合唱部の歌で幕を閉じた。

 むくの学校の合唱部はコンクールに参加するなど、合唱が上手なことでは定評があるのだが、やはりとても上手だった。

(卒業式で合唱が聞けるなんてラッキー!いい思い出になるわ)

 かもめはちょっぴり感激した。

 そしてこのあと、更にかもめを感激させる出来事が待ち受けていた。

「このあと校長先生が、校長室出卒業式をやってくださるそうです」

 卒業式終了後、帰ろうとしていたむく達のところに、担任が近寄ってきて言った。

 そのあと、もう一人の生徒と一緒に案内されて校長室へ行くと、校長先生だけでなく、教頭や学年主任もむく達のことを待っていてくれた。

「卒業おめでとう!今日はあなた達二人が卒業式に参加してくれたことを、先生はとても嬉しく思っています。あなた達は三年間この学校で頑張って、苦しい時にも乗り越え、今日立派に卒業することができました。ですから自信を持って未来に向かって進んで行ってください。もしこれから先、辛いことや苦しいことがあった時には、この学校でのことを思い出してください。ご両親は勿論、担任の先生や学校に相談に来てもいいのですよ。出来る限りお手伝いします」

 校長先生はそう話しのあと、むく達に卒業証書を手渡してくれた。

「今日は凄い感動したね~!二人の為だけに卒業式をやってくれるなんて、全然思ってなかったからちょっとびっくりしたけど、とっても嬉しかったよ。この学校に入学して卒業できて良かったね。途中で転校してたら、きっと自分がどこの学校に通ってたのかわからくなるところだったよ。休学もしてたしね」

「うん。卒業式を校長室でやってくれたのには、びっくりだった。一年の時の担任は嫌な奴だったけど、悪い学校じゃなかった」

 かもめもむくも、その学校についての評価を高くしたのだった。

 春休みに入ってすぐ、かもめは秘かに決めておいた引越し計画をむくに伝えた。するとむくは案の定、

「あんな所に帰ったら、もう終わりだー!恥ずかしくて外を歩けないから、もう死ぬしかない!」

 いつもの捨て台詞を吐いた。しかしかもめは、それ以上賃貸生活をするつ気は毛頭なかったので、むくのことは無視して計画を実行に写すしかなかった。

 本宅への引越しは三月下旬に決行した。

 当初半年ぐらいの予定で、身の回り品だけを持参して始めた賃貸生活だったが、約二年半にも及んだので、いつの間にか荷物が増え、手配した二トン車ロングでもやっとだった。

「運んだ荷物が随分部屋に溢れたね、ぞっとするよ!」

 引越しをし終わってみると、運び込んだ荷物で想像以上にごった返したので、かもめは悲鳴を上げた。それでも本宅は6SLDKのスペースがあったので何とかなった。

 しばらくその整理と処分に追われる日々が続いたが、二週間も経つと若干落ち着いた。一方むくは、サポート校へ入学する日が近づくにつれ、入学後の学校生活や友人とのコミュニケーションについて、再び気になり始めたのだった。      

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