《50》内部進学は不可能に
面談当日、学校に着くと担任の先生が校長室へ案内してくれ、そこには既に校長先生と学年主任が待っていた。
校長先生は、始業式等の行事では毎回人生についての為になるお話をして下さるのだが、この日も校長先生の話しから始まった。
その中の一つの話しに、かもめはとても感動させられた。
「あなたが病気で長期間休んで、悩んだり辛かった時期や困っていた時に、お父さんやお母さんはあなたのことをずっと見守って、一生懸命支えていてくれたよね。自分が本当に大変な時に支えてくれる人が、あなたにとって最も大事な人であり、理解者なんだよ」
そんな内容の話しで、それを聞いたかもめは、
(私たちはむくに、大した手助けはできなかったけど、理解して支えることがむくの手助けになり、再起する為の原動力になっていたのだ)
何だかむくとの絆が強くなった気がして、かもめはちょっぴり嬉しくなった。
その後校長先生の話しは本題である、むくの進路に関する話題へと移った。
まず校長先生はむくに、現在の様子や、教室へ行けない理由等を聞き、そのあと高校進学も含めて、今後の進路をどういうふうにしようと考えているのかを質問した。
「今もまだ教室へは行けていないので、このまま高校へ内部進学するのは、とても無理な気がしています。どこか通信制の高校とか、別の学校を探してそういうガ学校へ行ったほうがいいのかな、と考えています」
「それは高校は別の新しい環境で、頑張ってみようと考えている、ということでいいのかな?具体的にこの学校へ行きたいという希望はありますか?」
「それはまだ、全然考えていません」
「時間はまだ十分あるから、ゆっくり考えれば大丈夫ですよ。できる限り、学校のほうでも協力します」
「それでは新しい人生のために、頑張っていきましょう」
「はい、頑張ります」
「担任の先生もそれでいいですか?」
「それで結構です」
担任は何か言いたげだったが、あえて何も言わなかった。
面談の最後には、むくは校長先生から封筒に入った手紙を渡された。それはむくの出席や成績状況が、内部進学の基準に満たないので、進学を許可できない旨の通知だった。
本当は面談するまでもなく、むくが高校に内部進学できないことは決定していたのだが、校長先生は一応むくの意向を聞き、ワンクッションを置くという形を、取ってくれたのである。
「校長先生には学期の途中でなく、一学期の終わりまで進学についての結論を待ってくれるようにお願いしたのですが、『内部進学ができないなら早い時期に本人に伝えて、別の進路へ進む方に気持ちを切り替えてもらったほうが、本人の為になります』と校長先生がおっしゃったので、学期末より早くなってしまってしまったのす。申し訳ありません」
ありがたいことに担任の先生は、まだむくが教室へ登校する可能性があると考えて希望を捨てず、とても気を使ってくれていたのである。しかしむくやかもめは、面談で話されることについて大体想像がついて、どう転んでも内部進学ができるとは考えていなかったので、この決定についてはそれ程ショックを受けなかった。
それからは何ごともなく平穏に過ぎたが、夏休みが近づいた頃かもめは、むくが自分では、高校受験について考えて行動しようとは全くしないので、少しむくに協力して、一緒に考えなければいけないと思った。
「このまま何もしないでいると、受験できる高校がないよ。どこか個人塾にでも行ったほうがいいんじゃない?またカウンセラーの先生に相談してみる?」
かもめはむくに聞いた。
「そうだね。カウンセラーの人に相談しようよ」
その結果、高校受験をするならやはりどこか個別指導の塾へ通ったほうが良いということになり、そういう塾を探すことになった。
むくの高校受験を控えて、色々と準備しなければいけないことはあったが、前年に比べて鬱病がだいぶ良くなっていたので、かもめはむくの新しい人生の幕開けと、むくとからすの快気祝いに、思い切って久々に海外旅行へ出かけるのも悪くないと考え、その計画も立てることに決めた。