《48》おんボロ屋敷は最悪!
お正月が過ぎて冬休みが終わりに近づいたが、からす一家は賃貸のおんボロ屋敷で生活することは、あまり気が進まなかった。
しかし引越してしまっているので仕方なく、再び沢山の荷物を持って本宅から賃貸へ民族大移動した。
十二月に引越した時はわりと暖かい日で室内の寒さを感じなかったが、この時はやけに寒く感じたし、暖房器具としては、取りあえずエアコン一が台しかなかった。
この古いマンションで実際に生活を始めてみると、次から次へと事件が起こった。
始めは洗面所に置いた洗濯機だった。洗濯の水を排水すると、排水口から水が流れずに溢れ出てきた。
すぐに気がついたので大事には至らなかったが、危うく水浸しになるところだった。
そうなればこちらの責任じゃなくても、下の階から(からす一家の部屋は三階)怒鳴り込まれていたかもしれないので助かった。
これは排水パイプが古い上に細く、詰まっていたのが原因だったので、すぐに業者を手配して治してもらった。
(賃貸って、嫌だ!)
かもめはその時思った。
次の事件はそれから数日後に起きた。洗面台の下に水たまりができているのにかもめは気がついた。それが洗面台と水道管の接触するあたりからの水漏れであるとわかったので、その下に慌ててバケツを置いて不動産会社に連絡し、すぐに直しに来てもらった。
しかし洗面台が古いので完全には直らなかったようで、数日後には更に沢山の水漏れが起こり、今度は下の階の住人からの知らせで発覚した。
すぐ不動産会社に連絡しようと思ったが、その日は生憎定休日で連絡が取れず、また大家さんの番号は知らなかったので困っていると、
「この前治しに来た業者の人から、大家さんに連絡してもらったらどうですか?」
と下の階の人がアドバイスしてくれた。
それで何とか大家さんとは連絡が着取れたが、業者が来るのを夜遅くまで待たなければならなかった。本当に呆れた住まいだ!
しかしこれでも終わらず、今度はトイレでびっくり事件が起きた。
かもめは古い建物は排水管が細く、詰まりやすいと思っていたので、トイレットペーパーはシングルを使用し、ペーパーの使用量もできるだけ少なくするよう、皆に注意していた。しかしなぜか突然詰まって溢れ出したのだ。
水回り専門の業者に直しにし来て見てもらうと、
(排水管からスポンジが出てきましたよ!)
(な、なに、ペーパーじゃなくスポンジ?なんでこんな所からスポンジが出てくるの???)
かもめはそのスポンジを見て、目が点になった。
恐らく以前の住人が、掃除か何かで洗物に使うような薄手のスポンジを使っていて誤って流してしまい、それが詰まったのでは、という話しだったが甚だ迷惑な事件だった。
(賃貸で、しかも古いマンションでの生活は最低だ!)
かもめはできることならすぐにでもそこを逃げ出し、本宅へ帰るか別のマンションへ引越したかったが、どちらも選択できない状態にあったので、泣きたい気持ちだった。
これらの事件だけでなく、キッチンや洗面所の蛇口からお湯が出ないことも、想像以上に応えた。マンションなのに一軒家と同じぐらい水が冷たく、洗い物や洗面がとても苦痛だった。
自腹を切ってで湯沸かし器を取り付けようかと考えたりもしたが、結構湯沸かし器の値段が高い上、取り付け工事代もかかるので仕方なく諦めて、洗い物はゴム手袋を購入して行った。そして洗面はお風呂場の給湯を利用するしかなかった。
始めから不都合ばかりが生じたので、そのマンションだけでなく、賃貸生活自体にもかなり嫌気が差した。実はその前のマンションでも様々な事件に遭遇していたからだ。
その頃むくはといえば、おんボロマンションへ移動して環境が変化したので再び鬱状態、一週間以上寝たきりで保健室へも登校できずにいたが、その後また登校し始めた。
保健室にはむくと同じような、『芸能おたく』のクラスメートが登校していたので話しが弾み、三学期は比較的楽しく登校していた。といっても相変わらず教室へ行くのは難しく、三学期の終わりまで保健室登校のままだったが……。
(学期の途中から教室へ行くのはむくの性格では難しいだろう。しかし三年生になる時にはクラス替えをするので、多分教室へ行きやすくなるし、三年生の一学期からは教室へ登校しないと、内部進学ができなくなる事をむくも知ってるから、きっと教室へ行くだろう)
かもめはそう考えていた。
一方からすは、冬になって寒くなったので、毎年のことながら筋肉が硬く萎縮したようで、
「身体が硬くて痛いし、痺れが酷い。自分の身体じゃないみたいだよ」
と毎日嘆き、辛い日々を送っていたのである。