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《46》むくが詐欺師に

 むくの芸能人の追いかけは二学期には更に活発化し、それまで以上に活動費がかかるようになった。

 しかしむくは貯金していた自分のお年玉は、コンサート代などに殆ど使ってしまったし、中学生だからバイトもできないので捻出できなくなった。

「出かけるからお金をちょうだい!」

むくはかもめに要求したが、安易にお金を渡すと更に出歩くようになると思ったので、最低限しか渡さないようにしていた。

 ある日ポストに、むく宛ての手紙が入っているのを、かもめは見つけた。

 封筒を取り出すと中は紙だけでなく、五百円玉ぐらいの大きさの、平たくて硬いものが入っている感じだった。

 その手紙の差出人や住所はかもめの見覚えがないもので、とある新潟の住所が記されていた。

「何の手紙だろう?」

かもめはそう思った程度で、始めの一、二回はそれ程気にしなかったが、それからも頻繁にむく宛ての手紙が届いたので気になり始めた。

 差出人も毎回違い、かもめの知らない名前ばかり。その上むくは郵便物の配達の配達にやけに敏感になったので、可笑しいと思ってむくに聞いた。

「最近、コインみたいなものが入った変な手紙がよく来るけど、いったい何が入ってるの?もしかしたらお金?」

「違うよ、芸能人のメダルだよ、要らない人から貰ったり、売ってるだけだよ」

「本当?変なことはしてないって信じていいよね?」

かもめは半信半疑だったが、むくの言葉を信じたいと思った。

 それからも手紙は届いたが、ある日のはずしりと重かった。

「コインにしては入りすぎ!」 

 封筒を触ると百円玉ぐらいの大きさ、形のものが沢山、動かないよう並べて貼り付けてあるみたいだった。

(絶対これはお金だ、開けるしかない!)

直感的にそう思ったかもめは、その手紙を開封した。すると案の定お金が入っていて、百円玉が五つずつ三列に、千五百円分並べられていた。それをセロテープでしっかり留めてあった。

(やっぱり!)

 封筒の中の手紙を読むと、そのお金はむくが芸能人の情報を手紙の相手に売った代金で、そのお礼とこれからも情報をお願いします、と書いてあった。

 そんなことをしてまでお金を得ようとするなんて、ちょっといかれてる、とかもめは思った。

 むくを問いただすと、地方在住の子に何度か情報を売った事実を認めた。

「でも。嘘を教えた訳じゃないよ」

むくは言った。

「そうだとしても、中学生がこういう取引は良くないよ。これからはやめなさいね」

 しかしそれでもむくは反省せず、その後もこっそりと続けたので仕方なくむく宛ての手紙が届いたのを見つけたら、開封して確かめていた。

 たまたま開封した手紙の中に、お札で三千円が入っていた。

「なんでこんなに沢山お金がはいってるの、今度は何を売ったの?悪いことはしてないよね?」

かもめが厳しく追求すると、

「芸能人の情報はネタ切れした。だから相手の人の好きな芸能人の知り合いだって嘘ついて、今度会わせるし、サインも貰ってあげるよって言ってお金を貰った」

「本当にサインなんか貰えるの?」

「そんなの嘘だよ、知り合いの訳ないよ」

「でもお金を受け取ったんでしょ、お金持だけ取って実行しなかったら、それは全くの詐欺だよ!いつからそんな詐欺師になったの?」

「郵便配達の人だって、いつも同じ人にお金の入った封筒を配達してたら、絶対に可笑しと思うよ。詐欺か何かしてるんじゃないかと疑われて、警察に通報されるかもしれないし、相手からも訴えられて逮捕されるからね。覚悟しときなさいよ!」

 かもめが「逮捕される」といったその言葉に異常に反応し、初めて自分のしていた事を認識し、悪いことをしたと理解したようだった。そして逮捕されると聞いて急に怖くなったのか、それからは詐欺まがいの事をしなくなった。

「そういう事をやってる時に、自分自身で悪い事じゃないのかとか、可笑しいとか考えないの?」

「自分じゃ考えられない」

 中一の時の携帯電話事件を振り返っても、物事の善悪の判断が出来ずにクラスメートに変なメールを送り続け、危うく警察沙汰になるところだった。

 そして次はこの詐欺まがい事件。やはり自分自身で行動の善悪が判断できずにやってしまったこのである。

 かもめは呆れるというよりも、自分自身で物事を常識的に判断ができないむくに、怖さと不安を感じた。これから先も、いったいどんな事をやらかすのか?

 やはりどこか脳の機能の一部が欠落していて、その為にこういう事をしてしまうのではないのか……と。




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