《44》第二保健室は隔離部屋?
三学期が始まってからむくは、週に二日ぐらいだったが再び学校へ通い始めた。
登校、とはいっても「いきなり教室にいくのは無理」とむくは言うし、学校も始めから無理しなくてもいいと言ってくれたので、まずは保健室からの登校となった。
それから二週間ぐらい経っても登校のペースは上がらず、ずっと保健室へ登校していた。
学校はむくが少しでも教室へ行きやすいように、席を教室の入口付近に決めたり、一年から同じクラスの生徒をむくの近くの席にするなど、何かと配慮をしてくれていた。
「自分の好きな教科の時に、週一時間でも教室で授業を受けてみたらどう」
むくが少し学校に慣れた頃、担任や学年主任からそう勧められた。しかし、
「まだ教室には行く勇気はありません」
そう言って、なかなか教室へは行こうとしなかった。
この頃もまだ、むくの鬱病はまだ完治していなかったので、かもめは教室へ行く事を無理強いはせず、むくのペースにまかせていた。いつかは教室へ登校するだろうと思いながら……
むくの学校には何故か保健室が二つあり、一つはどこの学校にもある普通の保健室、もう一つは第二保健室というものだった。
いったい第二保健室ってどういう部屋?
それは完全に不登校の生徒や、特別な事情のある生徒が登校する保健室だった。
どうにか教室へ登校し、たまに保健室へ行く程度だと通常の保健室、長期的な病気に掛かって正式な診断書を提出し、許可を受けた場合は第二保健室を利用することが可能だった。
むくは鬱病と診断されて休学する時に診断書を提出したので、その時からこの第二保健室へ登校していた。
実はこの保健室、校内や対外的にも公にされていない秘密の存在で、通常の保健室の更に奥にある小部屋がそうだった。
校庭に面した窓は外から見えないようにマジックミラーが配されていて、明らかに隔離部屋といった感じだ。
「なんで外から見えないようしてるの?」
かもめは疑問に感じた、と同時に学校の本質を垣間見た気がした。
私立なので不登校の生徒がいるということが対外的に知れるとマイナスイメージに繋がる恐れがある。学校側にとっては不都合な存在の、不登校の生徒達は隔離しておきたかったのだろう。その為の部屋が第二保健室だったのである。
そうやって表向きは、校内に不登校の生徒はいないということにしていた。
しかしむくのように、教室に登校できない生徒にしてみれば、第二保健室は唯一通える、ありがたい存在だったといえるのかもしれない。
同じような状況は、恐らく他の私立でもあったのではないだろうか?
三学期が始まって約一ヶ月が経過した頃、第二保健室に新たに数人の生徒が登校し始めた。
「最近どんどん保健室登校の人がどんどん増えてるよ」
その中の一人は一年生の時にむくが変なメールを送りつけてしまった『メール事件(《22》携帯電話事件・参照)』の相手で、むくと同じクラスの生徒や高校生も一人いた。
保健室登校の理由は様々だが、むくが観察したところでは友人関係や、それが原因で精神的な病にかかったり、集団に馴染めないなどの理由が多かったようだ。
一年生の時の『メール事件』の相手は、むくが酷いことをしたにも関わらずむくを許し、保健室会えばいつも挨拶をしてくれた。
「わざとじゃないけど、あんな酷いことしちゃったのに私を許して、しかも挨拶までしてくれるなんて、あの人は本当に心の広い、いい人だよ。悪いことしたって反省してるよ」
むくは心から、そう言った。
同じクラスの友人は、たまたまむくと趣味が似ていて、追いかけをやっていた。だから話しが合ってすぐ親しくなり、時々一緒に追いかけへも行くようになった。
同じ学校の中に仲間を見つけたので、かもめはそのうち教室へ登校できるのではないかと期待し始めた。
一方、むくの活動はますますエスカレートし、ハイテンションを通り越し、超ハイテンション、クレージーへと変わっていった。