《43》私立中から転校?
中二の一学期に鬱病と診断されて、二学期いっぱい休学したむくは、三学期が近づいた頃、学校をどうするのか、考えなければいけなくなった。
中学へ復学するのか引き続き休学か、また三年生になる時に、むくが公立への転向を希望するなら準備が必要なので、それについても検討する必要があった。
むくは約半年間、学校から完全に遠ざかっていたので、鬱病の初期に比べるとイライラが減り、精神的にも多少落ち着いたので、若干でもが鬱病が、回復に向かっているように見えなくもなかった。
しかし、まだまだ表情は暗く、人前に出るのをとても嫌がっていた。
むくは鬱病の初期には弱い精神安定剤を服用していた。しかし、
「多少時間がかかっても、子どもだからできるだけ薬に頼らないで治したほうがいいかもしれませんね」
そういう精神科医の意見や、むくの考えもあって、四ヶ月経過した頃からは抗鬱剤は服用しなくなっていた。
だからかもめは鬱病の完治には、今少し、時間が必要なのではないか、と感じていた。
(学校を長期で休んだら、むくの将来はどうなるのか?)
学校を休学する前、かもめはそのことがとても気になっていたが、実際に休学してみると諦めがついたというか、あまり気にならなくなった。
(人生は長いんだから、今半年や一年休んだとしてもどうってことないし、本人にやる気があれば勉強の遅れは直ぐに取り返せる。それよりも今はまず、病気を完全に治すことが大事だ!)
そう考えるようになっていたからだ。
だから更にもう少し休学することになったとしても、もそれほど抵抗はなかっただろう。
物事は悪い方へ考えればきりがない。悪い状態が続いてもいつか必ずその状態から抜け出して、良い状況へ向かう時が来る、かもめはそう信じていた。いや、信じようとしていた。
かもめがポジティブに考えなければ、ただでさえネガティブなむくが前に進めなくなってしまうと思い、未来に向かって頑張っているむくの姿をイメージして、前向きに頑張るしかない、と決心したのである。
「三学期は学校どうするの?それから三年生になるときに転向を考えているの?よっては準備をしないといけないから、そろそろカウウンセラーの先生にも相談してみようね」
むくにとっては大事な時期。予約を取って久しぶりに家族三人で、むくのカウンセリングへ出かけた。
カウンセリングでは、むくの復学と転校問題を中心に話し合った。
「今の中学は嫌いだけど、あと一年しかないのに三年生から地元の公立に転校するのは嫌です。一年の二学期だったら転校したかったけど、今から転校したって絶対に馴染めない。それに不登校になった奴ってバカにされるに決まってるから、元の家にも戻って公立に通うぐらいなら、死んだほうがましです!」
そうむくは、カウンセラーに言った。
「今賃貸している地区の公立だったら、転校したいと思ってるの?」
「その中学のほうがまだましだけど、友達が全くいないのに転校しても教室へ通えるかなんてわかりません」
「お嬢さんは転校については決心がついていないみたいなので、今すぐに決めるのは無理なようですね。それから、今の中学を止めてご自宅へ戻って、地域の公立に行くのは嫌みたいですから、お引っ越しをされるのかも含めて、よく考えなければいけませんね」
むくは通ってる中学は嫌いだったが、その他の中学に転校しても、はたして友人を作って普通に登校できるのかは、全く自信がないようだった。
「しかし、来年の学費を払う時期が迫っているので、時間がないんです」
切羽詰まったように、からすが言った。
「そうなんですか。でもまずはお嬢さんの気持ちを理解してあげることも大事だと思います。学費のお支払いについては、期限までにまだ多少時間があるようなら、近日中に考えてもよいのではないかと思いますが、如何ですか?」
「今日決めなくても大丈夫ですけど、支払いには期限があるんですよ」
からすは同じことを、繰り返し言った。
「これから三学期を迎えるところですから、あと一週間か二週間、次回のカウンセリングまでに考えていただいて、それから結論を出されてはどうでしょう?」
「それでも大丈夫です。ただ、私立中に通っていて不登校になった場合、他の人達は中学はどうしているんですか?」
からすは質問した。
「それはご家庭それぞれで、同じ中学で卒業される方も、公立に転校される方もいらっしゃいます。ご本人やご両親のご意見が違う場合もありますので、ご家族で話し合われて、決められています」
「もし今後も休学していても、私立中学は卒業できるんですか」
それについては、かもめも気になるところだった。
「私立でも中学は義務教育なので、卒業はできると思います。でも、もしご心配でしたら、一度学校に確かめられては如何でしょうか?」
毎度のことだが、からすは人の話しの内容がすぐには理解できず、また人の気持ちを察することが苦手だったので、むくの為に一緒にカウンセリングに来たという意識はなさそうだった。
それより期限が近づいている学費のほうが、気に掛かっているという感じだった。
実際、学費以外に賃貸料とカウンセリング代も支払っていたので、それらが家計を逼迫していたことは事実だった。
むくが今の中学へ今後も通うのなら、賃貸を止めて元の自宅へ帰ってそこから通学するか、むくが納得すれば地元の公立へ転校してもらって、以前のような落ち着いた生活を取り戻したい、とかもめは強く思っていた。
まして、今後も休学するなら外には出ないのだから、自宅へ戻るのが普通なのでは、と考えたくもなった。しかし現実には、そんなに簡単にいくわけもなかった。
むくの生活はといえば、この時期になっても相変わらず昼過ぎまで寝ていることが多く、覇気も無かった。
その後、中学に関しては家族三人でむくと話し合った。(といっても殆どはむくとかもめの二人でだったが……)
「まだ保健室しか無理だと思うけど、三学期から学校へ登校してみるよ」
そうむくが言うので、復学する事には決まった。しかし転校に関しては、依然として結論は出なかった。
次のカウンセリングでも、復学について結論づけただけに留まった。