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《42》芸能人の追いかけ

 鬱病になってからのむくは、外に出たがらなくなっていた。しかしコンサートに続いて、今度は芸能人の追いかけもやり始めた。

 芸能人は好きでも、そういうこと全くしそうにはない性格だったので、何故なのかとても不思議だった。

 休学して暇になり、携帯ばかり見るようになったことが原因の一つかもしれない、とかもめは思った。

 追いかけの活動が始まると、それは殆ど夕方から夜にかけてだったので、またしてもむくと揉め始めた。

「ちょっとコンビニでお菓子を買ってくる」

「駅の近くの本屋さんで本を買ってくる」

始めのうち近所へ行くふりをして、騙して出かけようとした。

 正直に行き先を言うと、夜だから出かけさせてもらえないと思ったのだろう。そういうことには、むくは妙に悪知恵が働いた。

 しかし何だかそわそわして態度が怪しいので、(これはきっと嘘だ!)と、かもめにはすぐピンときた。

 だが、問い詰めても本当の事は言わずに出かけてしまい、出たら最後何時間も帰らなかった。

 ある日「ちょっと駅前の本屋さんへ」、とまたむくが言うのでこっそり後付けて出た。

 そうしたらコンビニや本屋さんの前をサッサと通り過ぎ、駅前へ向かうではないか?そして改札へ入ろうとしていた。

(いったいどういうこと?)とにかく捕まえなければ、とかもめは間一髪のところでむくに駆け寄った。

「ちょっと!本屋さん過ぎたけど、いったいどこへいくつもり?」

むくを問い詰めた。

「隣の駅の本屋さんのほうが大きいから、そこで本を買おうと思っんだ。買ったらすぐ帰るから」

そう言って誤魔化そうとした。

(大した、たぬきだ!)かもめは呆れた。

「今から行くのはやめなさい!」

だがむくは、地団駄を踏んで怒鳴りちらした挙げ句、かもめを振り切って行ってしまった。

 それからもむくの追いかけは長期に渡って続いたが、ずっと同じような行動をとり続けた。

 やはり行き先もろくに告げずに出かけ、勝手な行動をとったのでかもめは心配してむくとの衝突が絶えなかった。

「何かあった時に居場所が解らないと困るから、行き先ぐらいは言って行きなさい!」

何十回も注意した後、やっとかもめの気持ちが通じたのか、「渋谷の方へ」と方面だけは渋々伝えるようになった。本当に世話がやけるが、多少の進歩ではある。

 追いかけに限らず、小さい頃からむくは人の気持ちや相手の迷惑を考えられず、あまりにも常識外れな行動を取り続けてきた。以前の携帯電話で友人に変なメールを送ってしまった事件のような……

 むくのそういった行動は、同年代の子どもと比べるとかなりズレていてかなり異常なのでは、という思いがこの頃から非常に強くなった。

 かもめは常識や規則を教えなかったわけではなく、むしろどんな小さな事でも解るまで、根気よく説明して理解を促した。

 しかしいくら教えても、何故そうなのか、またどうして自分が規則などに従わなければいけないのかがむくには理解できず、結局反抗的になって身に着かなかった。

 漠然とだが、むくがただ単にわがままで反抗的な子どもというのとは違い、何かしら脳の中に問題があって、正常な判断や行動をしたくてもできないのでは?……その考えもかもめの頭を強く支配していった。

 追いかけについての問題は、行き先や時間だけではなかった。

 むくは週三ぐらいのペースで追いかけに行っていたので、交通費や飲食代が結構嵩んだ。

 自分のお小遣いで払ってはいたが、三千円のお小遣いでは足りるわけないので、かもめにそれを要求した。行き先もろくに言わないのにである。

 また追いかけ仲間との待ち合わせなどの連絡に、携帯と固定電話の両方を使用したので当然通話料も嵩んだ。

 携帯の通話料だけでもひと月一万円以上に跳ね上がり、固定や携帯の通話料を全て合わせると三万円以上にもなった。

「ちょっといい加減にして、電話代が滅茶苦茶高くなってるよ!学費や賃貸料がかかる上に、カウンセリング代だって払ってるんだよ。余分なお金なんてないのにどういうつもり?いったい電話代は誰が払うの?来月も高かったら貯金から払ってもらうしかないよ!」

 しかしそれは前月分の通話料だったので、翌月分も同じような額の電話代の請求書が届いた。

 その時はかなり厳しく注意したので、それ以降はそこまで電話代が高くなることはなかったが、暫くは通常より高い状態が続いた。

 それでもむくは、まだましなほうだったのかもしれない。

 むくの追いかけ仲間の一人で、都心まで二時間以上かけて来ていた友人は、まず電車賃だけでも一往復で約三千円、それを親から貰っていた。

 そして追いかけに行く時にはお父さんから携帯を借りていたのだが、何も気にせずむくや他の友人の携帯や固定電話に連絡をしていたので、大変なことになった。

 その友人宅に届いた携帯の請求書は、な、なんと通話料が一ヶ月で十万円近くにもなった。しかもそれはひと月では済まず、ご両親が気づいたのが遅かったので、翌月分も同様の状態になってしまったのである。

 その友人は両親にこっぴどく叱られて追いかけは当分禁止、お父さんの携帯は解約されてしまった。

 それでもその友人は性懲りなく、公衆電話や時には親の目を盗んで、固定電話からむくや友人に電話を掛けていた。

 もしその友人が、携帯から固定に電話しているのがわかったなら「電話代が高くなるよ」、と注意ができたと思うのだが、かもめもいつも家にいるわけではないのでそこまでは把握できなかった。

 さて、むく達の追いかけのやり方だが、仕事が終わった芸能人(といっても有名人ではなく、殆ど知られていないか、デビュー前の少年達)の出てきそうな場所に仲間で陣取る。

 そして現れるまで何時間でも気長に待つのだか、時には交代で近くのマックで休憩をした。

 少年達は有名人ではないので電車で帰宅するので、現れた時に遠くから眺めるだかで、写真撮影をしたり後を付けていったりすることは禁止されている。

 だがむく達は、シャッター音が出ないようにした携帯を用意し、いざ実物が現れると規則を無視して携帯で写真を撮影し、走って後を追いかけ回して一緒の電車に乗り込んだりしていたらしい。

 追いかけられるほうからすれば、甚だ迷惑な行為だ。

 追いかけをやっているのは中高生から二十歳前後が多く、どちらかというと自分達の事以外は考えられない、自己中心的かつ自己顕示欲の強い人達が多かったようだ。

「私でもびっくりするぐらいマナーが悪くて、常識外れな人が沢山いるんだよ。ケバいし怖い人が多いし」

とむく。

「だったら追いかけ止めればいいじゃん」

 そうはいっても一旦追いかけのスリルを味わうと、なかなか抜け出せないようだった。

 追いかけの世界は非現実的、普通の感覚では計りしれないものなのかもしれない。

 この後むくの追いかけは三年以上続き、その間には様々な事があった。書きたいことは他にも沢山あるのだが、後日、追いかけ第二弾で改めて書こうと思う。


 

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