《39》からすの身体に異変が
からすは脳梗塞になってから初めての夏を過ごしたのだが、夏になることに、とある期待をしていたようだった。
冬の間は寒さのせいで筋肉が更に硬直してしまい、麻痺や痺れの後遺症もかなり強くなってとても辛かった。だから夏になれば筋肉がほぐれて、後遺症が多少でも軽減されるのではないか?と思っていたのだ。
かもめも夏になれば、からすの体調が少しは良くなるかもしれない、と思っていた。
実際に夏になると、筋肉は柔らかくなったが、違った面でからすの体調に異変が現れた。
特に顕著だったのは温感麻痺による体温調節の不具合。それにより暑くてもあまり汗が出なくなり、脱水症状に陥り、しばしば体温が異常に高くなった。
特に麻痺している左半身は、右半身に比べて身体が熱くなっていた為、筋肉が異常に加熱され、焼き過ぎて縮んだ肉のように、筋肉が萎縮してしまった。
「なんか、左側の内臓の辺りが盛り上がってきて、しかも硬くなってる」
「えっ、本当?ちょっと見せて」
びっくりしてかもめがからすの身体を見ると、確かに左側の横隔膜の辺りが盛り上がっていた。
「これって変形?」
驚いたことに萎縮は手足だけでなく、左側の胃や腸など内臓やその付近の筋肉にまで起こり、縮んで硬くなり、更には骨まで変形させて盛り上がってしまった。
そして食べ物を食べると胃の辺りで支えたようになのってしまい、腸捻転にでもなったのかと慌てたからすは病院へ駆け込んだ。
これには本当にからすもかもめもびっくりした。
病院で診察してもらうと、それは筋肉の硬直によるものだったのだが、脳梗塞を患って半年以上も経過してから、再び後遺症として、そのような症状が現れるとは二人とも想像していなかったので、ちょっと信じられない気がした。
また、暑さによって血圧が上昇した為、頻繁に鼻血も出していた。
脳梗塞に罹る以前はからすの血圧は、正常値の中でも低い部類だったのが、病気になって神経や血管が破壊されてから、こちらも正常には働らかなくなってしまった。
脳梗塞患者にとっては冬が特に危険といわれているが、実際は夏場も脱水症状による脳梗塞の危険や、血圧の変動等、冬場と同じぐらい、脳梗塞発症の危険とは隣り合わせなのである。