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《38》からす一家の夏休み

 夏休み中の本宅でのむくの生活は、賃貸マンションでの生活とそれほど変わらなかった。

 相変わらず午後の2時か3時、また、遅い時は夕方近くまで寝ていて、朝昼兼用のご飯を食べた後は、深夜までずっと携帯をして過ごすという生活だった。

 生活場所が変わって、かもめにはむくの鬱病が悪化したように見えた。

 また本宅へ移動して、スペースが広くなったにも関わらず、むくは1人になりたがったので、かもめはやはり外へ出て過ごすことが多かった。

 しかし前回のように、留守中に鬱病の薬を余計に飲まれて万が一の事があっては取り返しが着かないので、薬はかもめが持って出かけていた。

 夏休み中のからすは、といえば賃貸と本宅を行き来して会社へ通っていた。

 夏休みも終わりが近づいた頃、「お台場の海を見てみたい」、と急にむくが言い始めた。

 その言葉に、(そういえば夏休みなのに、恒例の海外旅行はおろか国内旅行へも行っていない事に改めて気が付いた。むくのが気晴らしになるなら、またかもめ自身もリフレッシュしたいという気持ちから、家族でお台場へ行くことに決めた。

 からす一家には、民族大移動の荷物があったので、一旦賃貸へ帰宅してそれを置いて、数日後に改めて泊まりがけで出かけた。

 お台場では以前から泊まってみたかった、〈ホテル日航東京〉に手頃な料金で宿泊できるプランを見つけたので、そこに決めた。

 日航東京に着いてから、まず海の見えるラウンジでアフタヌーン・ティー・セットを注文して、ランチにした。

「うわぁ、とっても美味しそう!」

 アフタヌーン・ティーセッむくは感激した。

 それは三段重ねになっていて、見た目が素敵なだけでなくどれも美味。特に三種類のフルーツ・ジュレは格別だった。

 ラウンジから見える海の景色が、ランチに彩りを添えていた。

 その後、むくのお待ちかねの客室にチェック・イン。

 日航東京の部屋は海外のリゾートホテルの客室のは海外のホテルのような造りで、豪華でリゾート感溢れる素敵な部屋だった。

「素敵なお部屋~!海は殆ど見えないけど、観覧車がよく見えるよママ。夜はきっと綺麗なんだろうな~!?」

「早く夜にならないかな~!」

 むくはとても気に入ったようだった。

「このお部屋気はどう?」

「うん、とっても素敵、気に入った~!」

 ホテルのスパには素敵なプールやジャグジーがあるので、このホテルに来たら、かもめは是非入ろうと思っていたが、生憎18歳未満の子供は利用不可。 それで、むくに 何かしたい事かあるか聞いてみた。

「メディアージュで映画観たい!」

 ホテルのすぐ隣には映画館の入ったメディアージュがあるので、映画好きのむくには日航ホテルはうってつけだった。

「ママはプール入っていいよ。楽しみにしてたんだから。私は一人で映画観るから」

「大丈夫?」

「ここの映画館、前に入った時にガラガラだったじゃん、だから危なくないし、映画館に入る時だけ来てくれればいいよ」

 むくがそう言ってくれたので、それぞれ自分のしたい事をして、充実した時間を過ごす事に決めた。

 先にむくを映画館へ送り届けてからかもめはスパへ行き、まずは念願のジャグジーへ入った。

 このジャグジーはリゾート地や、都心のシティーホテルのとはひと味違って、どちらへ向いても素晴らしい夜景が望めた。

 また屋外に位置していたので、解放感も格別だった。

 特にフジテレビの球体を眺めながらジャグジーに浸かるというのは、ちょっと信じられないぐらい非現実的で、感動的だった。

 この感動をむくと一緒に味わえないの、はとても残念だった。

 その日はメディアージュお台場の中の、海の見えるテラス席のあるレストラン、シズラーステーキハウスで食事した。

 お腹いっぱいになって部屋へ戻り、ベランダへ出ると、そこから海こそは見えなかったが、華やかにライトアップされた、美しい観覧車の姿が間近に見えた。

 三人共時間の経つのも忘れて、観覧車を眺め続けた。

「来て良かったよ」

 むくのその言葉でかもめは、それまでの闘病生活辛く苦しい気持ちから解放されて、報われたような気がした。

 そして、(これからは良い方向へ向かいそう)、そんな気がした。


















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