《37》自殺願望
むくが始めてカウンセリングを受ける日は、かもめも病院へ付いて行った。
カウンセリングルームへ入って顔合わせした後、まずカウンセラーから提案があった。
「これからのカウンセリングの進め方ですが、1時間のうち40分ぐらいはあなたと二人でお話しして、残りの時間はお母様に入って頂いて、三人でお話ししようと思っているのですが、あなたは如何ですか?」
むくに尋ねた。
「それでいいです」
むくはそう返事した。
その日からのカウンセリングでむくは、通っている私立中学や、一年生の時の担任の先生に対する愚痴や文句、いや、むしろ呪いとでもいったほうがいいような言葉ばかりを羅列した。また、自分自身の自殺願望についても明らかにした。
2回ぐらいカウンセリングへ通ったところで、カウンセラーはかもめだけをカウンセリングルームへ呼んで言った。
「お嬢さんは鬱病の為に、今は学校へ通う事がとても苦しいようです。現在は御自分の事を価値のない人間、ととても評価を低くしてしまっていますし、自殺してしまいたい願望もあるようです。」「大人と違って子供は様々な事に耐える力が弱いですし、子供の自殺願望は大人に比べて危険です。、暫く学校をお休みして学校から離れたほうが良いと思いますよ。」
「まだ中学生ですし、義務教育なので、学校は休学できると思います。今病気をちゃんと治してしまわないと、高校へ行ってから学校をお休みすることになってしまうかもしれません」お むくが自殺願望を持っているのは知っていたが、カウンセラーから改めて伝えられるとやはりショックだった。
かもめは学校を休学する件については最もだと思ったが、もし学校を本当に休学してしまったら、その後のむくはどうなるんだろう?果たしてむくは高校へ上がれるのだろうかと心配になった。
また学期末試験も間近に迫っていたので、様々な事を考えるとすぐに休学は難しかった。
学期末試験を受験して少しでも成績を出して、高校へ進学できるようにと面倒を見てくれる、二年生の担任や学年主任の先生の手前もあり、休学の決心は着かず、受験させてしまった。 その後の夏休み前のカウンセリングで、期末試験を受験した事をむくが話したら、やはりかもめはカウンセラーから、学校を休学するように、強く薦められた。
夏休みに入る直前には、むくの精神状態は更に悪化し、ある日とても危険な出来事が起こった。
鬱病になってからのむくは、家族とも一緒に家にいるのを嫌がって、その日も「どっか行ってて」とむくが 言うので、仕方なく夕飯の支度をしてから夜まで外に出ていた。
そして夜、外で食事をしていたら、突如携帯が鳴った。
「貰ってあった鬱病の薬を、いつもの2倍飲んじゃった!今シャワーに入ろうと思ったら、目が回ってふらふらして、立てなくなった」
「なんで薬を倍飲んじゃったの?それに、何処から薬出したの?」
「とにかく死にたくて、死にたくて、いてもたってもいられなくなったんだよ。薬は探し出した」
「大丈夫?本当に2倍だけ?とにかくすぐ帰るから、絶対にそれ以上薬を飲んじゃ駄目よ!もし、具合が悪くなったらすぐ救急車よ呼びなさい」
そう言って、かもめは慌てて帰宅した。
家に入るとむくは少し朦朧とした感じだったが、無事だった。むく自身は薬の効き目に、びっくりしていたようだった。
後からむくに話しを聞くと、(自殺しようと思って薬を多めに飲んだけれど、実際には怖くなって大量には飲めなかった)といった。
もしむくが大量に飲んでいたら…そう考えると、かもめは寒気がしてくるのだった。
そして夏休みに入り、狭い賃貸マンションで数日生活したが、むくの学校が休みなのにその狭いマンションで生活することにかもめは耐えられなくなった。長い夏休みをそこで生活するのは地獄だった。
しかし、鬱病のむくの環境を変えるのは良くないことも解っていたのでかもめは悩んだが、自分自身の精神状態を考えると、夏休みの間だけ自宅へ一時帰宅することを選ばざるを得なかった。
結局、病院からむくの鬱病の薬を頂いてあったので今でです、それを持参して本宅へ帰宅した。