《29》保健室登校っていったい?
むくは3学期の残り1ヶ月は保健室へ登校する事になった。といっても私立中学なので保健室登校というのが公に存在している訳ではない。むしろその逆で、他の生徒や保護者には知られないように(知られていない)陰の存在だった。
むくは実際に保健室へ登校し始めたが、授業を聞いたり、友人と話したり、またお弁当を一緒に食べたる訳ではない。ただ机の前に座って読書するか、絵を描くか、或いは勉強したければ自分でするだけの毎日だった。
「今日はこのプリントをやりましょう」
学校からそんな指示される事は滅多になかった。 それでも始めの頃むくは、何とか保健室登校でも勉強をしようと思っていたが、数回保健室へ登校してからむくは言った。
「学校へ行ってるもする事がないし勉強なんか出来ないよ」
「する事がないって、自分で好きな本読んだり、勉強していいんでしょ?」
「保険室の人達、誰も勉強なんかしないで、漫画読んだりゲームしてるだけだよ」
保健室へ登校していた他の2、3人はそんな感じだったので、自分だけが勉強をする雰囲気ではなかったようだ。
「でもさー、人の事気にしてもしょうがないんじゃない?保健室は何の為に行ってるの?」
かもめは疑問に感じた。
「知らないよ。保健室は、いつも病気の人が誰かしら出入りするから見られて、なんか落ち着かないよ」
「それに登校した時が体育の授業だったりすると、みんながじろじろ見るから、それも嫌だよ」
むくはやたらと他人が気になり、様々な事にもこだわる傾向があったし、保健室登校の意味も見出だせなかったので、次第に登校を嫌がるようになった。
「保健室でやる事が無くても、一応登校だけはしたほうがいいよ。出席にはなるし、登校をしてないと高校へ上がれなくなるから」
とかもめはむくに言った。最も私立中学の場合、出席というのは教室へ登校しなければあまり意味が無いのだが…
長期に渡って保健室登校をして授業に出ないでいると、高校への内部進学の際、認定基準に満たなくなってしまうからだ。
「授業のプリントとをくれる訳でもないし、勉強も出来ないから、保健室に行く意味がないよ。勉強なら家のほうが落ち着いてできるし」
それからむくは、週に2回ぐらいしか、保健室へも登校しなくなってしまった。
かもめにはむくの気持ちが解らないくもなかった。しかし実際にそういう生活になると、やはりむくの今後が心配で仕方がなかった。
苦労して受験して、中高一貫の学校へ入ったのに、もし高校へ上がれなくなったら、むくは再度受験で苦労しなければならない。今までの苦労が水の泡だ!
おまけにむくは友人を作るのがとても苦手なので、新しい環境に行けばまた不安と緊張の日々を送らなければいけないのだ。そう考えるとかもめは、余計何とかしなければいけない、とそればかりを考えるようになった。
だからむくが学校へ行く行かないに関わらず、とにかく毎朝、登校時間に合わせて起こし続けていた。
そんな生活を続けていたが始めの頃むくは、3学期中でもほとぼりが冷めたら教室へ戻ろうと考えていたようだ。
しかし2週間ぐらい経った頃むくは、保健室に度々訪問してくれたクラスで仲の良かった友人から、ある衝撃の事実を聞いてしまった。
それは掃除の事件の起きる以前から仲良くしていた、クラスの他の友人達の、むくに対する態度が何かと可笑しくなっていた事に関してだった。その事実によって、むくが教室へ行くのが決定的に難しくなってしまったのである。