《2》恐るべし中学受験
小学校の四年生からむくは某中学受験塾に通い始めたが、一年間、勉強どころか塾の宿題さえろくにやらず、ただ通っているだけだった。
あまりに勉強をしないので、五年生になる時にかもめはむくに言った。
「勉強をしたくないなら、塾をやめていいよ、お金がもったいないし」
かもめはむくに何度もそう言った。しかしむくは
「これからは勉強するから続けて通たい」
と言うので止めさせるわけにもいかず、もう少しだけ通わせて、様子を見ることにした。
だが五年生になっても、あまり勉強をする様子は見られなかった。
九月になり塾の授業が後期に入った時、それまで国、数の二教科だけを勉強していたのを、むくが自分の好きな社会も習いたいと言い始めた。そう言われても、それまでもあまり勉強しないのに、本当に勉強するのか半信半疑だった。
だがむくの「勉強するから」という言葉を信じることにした。
また、昨今の中学受験は四科受験が主流になりつつあり、二教科だと競争倍率が高いという事もあって、結局社会の他に理科もプラスして四教科を塾で勉強する事になった。
この時点で好きな社会が増えた事が幸いし勉強が楽しくなったのか、或いは多少現実に目を向けるようになったのか、以前よりは塾での勉強をするようになった。
通っていた塾では毎月一回テストがあって、その成績によってクラス替えや席替えをしていた。
また成績によっては塾のオリジナルグッズを塾生にくれる事もあったので、その事もむくにとっては励みになっていたようだ。
そしてむくも六年生になった。
この時の塾のクラス替え試験では、その直前に体育体会や運動会があって、そういう疲れる行事がある時は殆ど勉強が出来なくなってしまうむくはクラスが2つも下がってしまった。
むくは一旦は落ち込んだがその事によって返ってに闘志を燃やし、人が変わったように勉強をし初めた。そして2ヶ月後のテストではクラスを2つも這い上がった。
暫くは順調に成績が上がり、秋口には幾つかの学校の見学へも行って、大体志望校も固まって来たので一安心をしていた。そして11月に入り受験があと僅かに近づいてきたところで、突如むくが受験を止めたいと言い出したのだ。
(全く寝耳に水!こんな受験間近になってそんないい加減な事を言って、いったい何を考えているんだ?
)
とかもめはびっくりすると同時に腹も立てたが、一時的な気の迷いかと思い、あまり真面目には取り合わなかった。
本人いわく「小学校の友達と同じ中学に行きたくなったんだよ」という事だったが、かもめには、単にむくが我がままで言っているとしかその時には受け取れなかった。
後になって考えてみるとその時に中学受験を止めていたら、この後からす一家に訪れたような不幸は起こらなかったのかも知れない。しかしせっかく勉強して来たのにここで投げ出すのは、これからのむくにとっても良くないと思い、むくと話しあってとにかく受験して勉強をはそのまま進行し、受験日の早い埼玉県の私立中学に三校と都内の私立に三校の計六校に願書を提出した。
余談になるが、現在の中学受験は特に都内に限っては学校選び(第一志望と滑り止め)やそれらを組み合わせた受験日程の立てが複雑化していてとても大変だ。
試験当日のインターネットでの合否通知によってはその日のうちに受験候補の学校に願書を提出し、翌日また受験するという例もよくあるようだ。それから午前午後で2校受験することも今や珍しくないのである。