《28》もう学校へは行けない
掃除事件の翌週の月曜日の朝、かもめはいつもの時間にむくを起こしたが、「今日は学校へは行きたくい」と言って起きようとはしなかった。
(まあ土曜日の件は、本人にすればかなりショックだったのだろうから、1日ぐらい学校へ行かなくてもいいかも?それに多少時間が経てば忘れてしまうだろう)
とかもめは思った。
また幸い、同じクラスには仲の良い友人が1人いたので、彼女にはすぐ会いたくなるだうと考えた。その友人はとても心が広く、ちょっと変わった性質のむくの事を、良く理解してくれている人だったからだ。しかし予想に反してむくは、2、3日が経過しても学校へ行こうとはしなかった。
こういう時は無理強いしても駄目だと思ったので、とりあえず学校には「体調不良で欠席」と連絡して、登校する気になるのを気長に待った。しかし1週間が経過しても、やはりむくは学校へは登校しなかった。
(そろそろ学校へ登校しないと、本当に行かなくなってしまうのでは?!)
流石にかもめは不安に駆られるようになった。
こうなったらとにかくむくの気持ちをよく聞いて、学校と相談するしかないと考えた。
「1年生の間はもうあの教室には行きたくない。あんな人達や、先生の顔なんか見たくないよ。先生はいつも私ばっかりに怒って、馬鹿にするし、私の事が絶対に嫌いなんだから」
「それにあと3学期はあと1ヶ月も無いから何とかなるよ」
とむくは言った。
「でも3学期の学期末試験はこれからだし、学校へ行かないと勉強が解らなくなっちゃうよ。それに私立だから、登校しないって訳にはいかないよ、きっと」
「大丈夫だよ。3学期の間は保健室に登校して勉強するから」
「本当に保健室に登校するの?それに保健室登校なんていう登校が出来るの?」
「やっぱり毎日は無理でも、何とか教室に行ったほうがいいんじゃない?そうじゃないとこれから先、学校に行きにくくなるよ」
かもめはむくの今後が心配で、一生懸命説得しようと試みた。しかしむくの決心は変わらず、「とにかく3学期の間は教室には行きたくない」と言い張るので、仕方なくかもめは学校へ相談に出かけた。
学校へ行くと担任は、こんな生徒はどうでもいい、といった感じであからさまに嫌な態度をしたが、学年主任の先生はとても親身になって接して下さった。
「教室には行きたくないけれど、保健室には登校したい」
とむくが言っていると伝えると理解してくれて、とりあえず3学期は保健室へ登校する方向で、校長先生に話して下さる事になった。
それから数日後、校長先生から許可が下りた、と学年主任から連絡があり、むくは一時的に保健室へ登校する事となった。
この時はまさかこの事が、長期に渡ってむくが不登校に陥る幕明けであるとはむくは勿論、家族全員が全く想像していなかった。