《26》友達も先生も敵に
からすは何とか会社への復帰を果たしたが、これから先いつどうなるかは全く解らない、綱渡りのような状態だった。
一方むくは、二学期末に自分が起こしてしまった、携帯電話メール事件から心機一転、三学期も何とか中学へ登校していた。
あとは相手方の要求に応じて謝罪をすれば、何とか事が穏便に収まりそうな状況になっていた。しかし謝罪するより前に、担任からむくは、別のクラスメート二人と別室へ呼ばれた。
その二人はむくが携帯電話でメールを送ってしまった相手や、他の生徒への悪口、陰口を常日頃から言っていた、ちょっと問題ありの二人組だった。
むくはその二人組が大嫌いだったので、メールを送っていたクラスメートに、その二人の名前を明記して、彼女について悪口を言っていたことをメールで送ってしまっていた。むくとしてはその二人の嫌な性格に腹を立て、本人に知らせたかっただけなのだが、実名を記載した事が更なる問題となった。
「なぜこの二人の名前を載せたりしたのですか?」
担任はむくに質問した。
「この二人はいつも彼女(メール相手)の悪口ばかり言ってたから、あの人が可哀想になって、教えてあげようと思ったんです」
そう、むくは答えた。
「だからといって、メール上に人の名前を載せるのはいけないことです。この二人に誤って下さい」
担任はむくに謝罪するように言った。
「名前を載せたのことは悪かったと思います。でもこの二人がいつも人の悪口ばかり言っているのが悪いんです」
と、むくは謝罪とは受け取れないような謝り方をした。 そして、その二人の態度が許せないむくは、さらに余計な事まで言ってしまった。
「私のやった事はよくないかもしれないけど、いつも人の悪口や陰口ばかり言っている、この人達よりはましだと思います。悪口ばかりで煩いから、いつもクラスの人が迷惑してたんだから」
それが本当だったとしても、むくのやった事が正当化される理由にはならない。
「あなたがちゃんと反省して謝らないと、クラスの雰囲気が悪くなってしまいます」
自分が悪いのに反省していない、とばかりに担任は怒りを顕にしてそう言った。
「こういう人達がいて、このクラスは前から雰囲気が悪かったから、これ以上悪くなる事はないと思います。先生もあなたみたいな人だし」
とむくはとんでもない暴言を、先生に向かって吐いてしまったのである。ここまで言ってしまったら、きっと収集の着かない事態に陥ってしまうだろう。結局、二人組と担任を怒らせただけで、その日は終わった。
むくは正直に馬鹿がつく、場の雰囲気が読めない人間だ、とかもめは呆れた。
以前からむくには、自分が怒っている時やパニくっている時には感情をコントロールできなくなり、他人に対して酷い暴言を吐いてしまう事があって、友人とのトラブルを招く事が度々あった。
携帯電話事件でも、むくの考えのない言動によって、先生には反抗的な人間と受け取られ、友人からも反感をかっただけだった。
そしてこの事件がまた新たな、むくの波瀾の幕開けへのきっかけとなったのである。