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《16》とにかく食べた~い!

 リハビリテーション病院へ入院した当日の診察結果、主治医は退院までのリハビリ期間を「約2ヶ月を目安にしましょう」とからすに言った。

「かなり長く入院しなければいけないみたいじゃない?」

「そんなに長く会社を休む事が出来るのかな~?」

かもめはちょっと心配になってからすに言った。

「一応の目安じゃない?」

 リハビリを始めて直ぐに効果が得られるかそうでないかは人によって様々だろうし、からすの場合はかなり重度の嚥下障だったので、回復まで2ヶ月ぐらいかかるのは仕方がないのかもしれない?とかもめは思った。しかしもう既に1ヶ月も会社を安んでいるのに更に2ヶ月も会社を休んだら【くび】のなるのじゃ?そうも思った。

 もしその2ヶ月で効果が現れない場合は、恐らくそれ以上入院してリハビリを続けても、効果はあまり得られないということだろうとかもめは思った。

「頑張ってリハビリして早く良くなるよ」

相変わらず、前向きなからすはそう言った。

 リハビリテーション病院は一般的な病院と違ってリハビリが目的。だから入院してすぐにからすは、1週間分のリハビリの詳しいスケジュール表を渡された。

「随分毎日忙しいんだね。まるで時間割みたい」

「朝から夕方まで結構忙しくて殆ど暇な時間はないよ」

そういうからすの表情はとても明るかった。やっとリハビリができるようになった事をとても喜いるようだった。

 リハビリのスケジュールでは1日を時間割のように区切って、違う種類のリハビリを行うようになっていた。そして時間ごとに理学療法士による身体リハビリ、次は言語聴覚士の先生による嚥下障害や言語のリハビリ等、専門分野の先生が担当して下さるという事だった。

 からすの最も重度な後遺症である嚥下障害の検査やリハビリや、顔の麻痺から来る言語障害の指導も言語療法士の先生から指導を受けた。その先生は50代ぐらいのベテランの、優しそうな感じの先生だった。 こういうリハビリをして下さる先生方は、ただリハビリをするだけではなく、メンタル面もケアしながら指導していかなければいけない。何故ならからすのように、病気や事故で障害を持つようになった患者は、精神的なショックや不安、また精神的負担を抱えている場合も多いからである。

 やはり患者の立場を思いやって関われるような人間でないと、こういった仕事は難しいのではないかとかもめは感じた。

 からすは毎日リハビリのスケジュールでいっぱいだったので、かもめはその日のリハビリの終わる夕方頃に病院へ面会に出かけていった。

 からすがリハビリ病院へ入院してからも回復については半信半疑だったのだが、入院後約1週間経った頃先生方の指導のおかげか若干食べられるようになってきた。

 そして食事もそれまでは全てペースト状だったからすのに、細かく刻んでとろみをつけた《刻み食》へと変わっていたのである。

「すごいじゃん!いつの間に刻んだのが食べられるようになったの?」

 かもめは直ぐにリハビリの効果が表れたのでちょっとびっくりしたが嬉しかった。しかし内心ではからすの回復を信じながらも頭の片隅では、本当はもう食べられるようにはならないのでは?という否定的な考えもずっと拭い去れずにあったからだ。

「食べ方のこつを教えてもらったし、先生が親切に指導をしてくれるからね」

からすは嬉しそうだった。

 しかし病院で出される食事の量は、からすにとってはいつも少なかったようで「食事は高齢の人に合わせているから量が少なくて、夜お腹がすいて仕方がないんだよ」といつも言っていた。それでからすの所へ行くとその度に食べ物を買いたがった。

「先生からお豆腐とかゼリーとかなら買ってもいいっていう許可が出たよ」

「駅の近くにスーパーがあるから一緒に買いに行って選んで」

とからすが言うので外出許可を取って、病院の近くのスーパーやドラッグストアへ食べられそうな物を買いに出かけた。

 スーパーは駅の側に1軒ぐらいしかない上、小さくてとても古びていたので入院していない時だったら多分買いたいとは言わないであろうお店だった。しかしその頃のからすはそんなスーパーでも、まるで素晴らしい夢の国へでも来たかのように感じていたようだった。

 それ以外にも自宅近くで食べ物を購入して、病院へ行く度にからすに届けたりもした。

 お豆腐やゼリーは先生から許可が出ていたので問題はなかったのだが、からすが欲しがった赤ちゃん煎餅のような、噛むと粉がでるものは大量に買いこんでいた為に後で厄介な事になった。

 実はこれは本当は許可されていなかったのに、からすの独断で買ってしまい病室のロッカーへしまい込んでおき、暇さえあれば食べていたらしい。

 とにかくからすは入院中は「買いたい、買いたい」、「食べたい、もっと何か食べた~い!」と食べ物に対する異常なまでの執着を見せ続けていたのである。




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