表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/59

《15》本格的なリハビリ始まる

 リハビリテーション病院へ到着するとまず入院の手続きを行って、その後病室へ案内された。

 からすの病室は確か3階ぐらいで、病室は主に病気の種類等により分けられていた。同種の病気で似たような後遺症のある患者同士等なら、理解したり励ましあったりしやすいという理由からだったようだ。

 からすの病室は主に脳梗塞やクモ膜下出血など、脳血管障害による後遺症の患者が多かった。その病室は4人部屋で既に3人が入院していて、からすが加わると満室になった。

 病室に入ると始めに看護士さんから入院中の様々な事についての説明や、からすの体調や現在の様子、介護保険の申請についての話を聞いた。

 その後暫くして担当医の先生の診察があり、からすと一緒にかもめも呼ばれた。

 先生は30代前半ぐらいのわりと若かった。初めにからすが自分の病状や現在の後遺症について簡単に説明をし、その後からすの嚥下えんげの状態を確認する為の簡単な検査が行われた。

 はっきりとは覚えていないが、1分間に何回ごくんとつばを飲み込めるか、また同じくコップに水を入れてやはり1分間に何回飲み込めるかという嚥下反射(水や唾をを飲み込む動作)の検査だったと思う。

『水を飲むのは難しくてまだ殆ど飲めないですけど』

とからすが悲しそうに先生に伝えた。

「無理はしなくていいですよ。現在の状態をみたいだけなので」

そう先生はおっしゃった。

 この時は脳梗塞を発症から約1ヶ月経過していたが、からすは食べることはおろか普通の水さえも飲めない状態が続いていた。

 食べ物を食べるより水や液体のほうが、飲み込むのが簡単なように普通思ってしまうが、実は嚥下障害の患者にとっては食べ物と同じかそれ以上に難しいのである。

 食べ物よりも液体が喉を通過するスピードのほうが速いのが原因で、嚥下障害だとすぐに気管に入ってむせてしまうのだ。

『バルーンを使うリハビリの方法があるみたいなので、それをやってみたいのですが』

と、検査の後からすが担当医に頼んだ。

 とにかくこの頃のからすは少しでも速く食べれるようにしなければ、永久に食べられなくなるという不安な気持ちが強く、焦燥感に駆られていたので一刻も早く回復できる有効なリハビリの方法を、と考えていた。

しかし、先生からの返事は

『それは私がこれから決める事です!』

という一方的なもので、こちらから何か言う余地はなさそうな返事だった。

 決めるのは医者、確かにそうかも知れない。別にからすの担当医を非難する訳ではないのだが、患者の状況や焦っている心境を少し考えてくれるのなら、もう少し別の言い方をしてくれるのではないか、とかもめは思った。

『そういう方法もありますが、それは相談しながら決めましょう』

とかそんな風な言い方をして下さったとしたら、先生に対する信頼感が更に増すような気がしたのである。

 丁寧に説明し、なおかつ一応患者の意見も尊重してくれるのが良い医者である、と何かの本で読んだ事があったので、その時は本当に同感だな~と思った。

 そのことはさておきお昼の時間になって、早速からすが食事をする事になった。

 からすはそれまで入院していた病院では、食事の時は自分の部屋で一人もくもくと食べていただけだったが、リハビリ病院ではちょっと違った。

 案内れて大食堂へ行くとまず看護師長さんに挨拶し、食事の際に必要な物や席、システムについて簡単な説明を受けた。

「食べる具合や食事の種類(刻み食)が同じような方たちで一緒に食べます」

「それから小さめと大きめのスプーンとカップが必要なので用意して下さい。」

 そしてからすが食事をし始めた後看護師長さんから、からすの今後のリハビリと障害の回復について話を伺った。病院が後遺症のある患者さんに対して何が出来るのか、という話しの中には特に気になる話しがあった。

『私達やリハビリテーション病院の役割は、患者さんを治す事ではなくて、患者さんの残された機能を使ってかに生活の質を向上させるかという事です』

そう看護師長さんは言った。

 その言葉を麻聞いた時、漠然とながらこれはからすの障害について言っているのだな、とかもめ思った。

 からすの嚥下障害の状態がかなり重度なことを看護師長さんは知っていた筈だから、多分からすが病気以前のように普通に食事が出来るまでに回復するのは難しいという事を言っているのだと思った。

(そんなふうに言わないないで)

 かもめは、嘘でもいいから看護師長さんに「大丈夫です。きっと食べられるようになりますよ」と言ってもらいたかった。

 とにかくリハビリは始まった。ここでの嚥下障害のリハビリは今までの病院でのリハビリと違って、食事の時間は訓練の為に入院患者は皆、大食堂に集まって一緒に食べる。

 嚥下障害では特に食べ方が大切で、看護師さん達が近くにいて患者の食べる様子を注意深く見守り、食べ方のアドバイスや指導をしてくれるのである。また誤嚥が無いかなど、危険が伴わないように配慮もしてくれる。

「横向いて食べてるのが食べやすいの?」

指導を受けた後からすが食べる向きを変えたので聞いてみた。

「そうみたい。始めは麻痺してないほうで食べるのがいいって」

 食べ方のこつとしては、からすのように喉の片側が麻痺している患者の場合、始めは麻痺していない側の筋肉だけを使用して、少し横向きの姿勢で食べるのが良いらしい。

 そして少しずつでも食べられるようになって来たら、それからは通常通り正面に向いて食べるようにする。つまり初めは麻痺していない側を使って食べるが、少しずつでも食べられるようになってきたら、麻痺側も使って食べるのである。

 食べ方の段階によって方法が変わってくるのだ。麻痺しているからといってその側を全く使わないようにしてしまうと、半永久的に使えなくなってしまうので、そちら側も使わなければいけないのである。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ