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《12》鼻からチューブで流動食

「そろそろリハビリの出来る病院へ転院してリハビリを始められたほうがよいようです」

との主治医の勧めで、からすの転院先を探し始めた。

 しかしそれと同時に転院先が決まるまでに、点滴を外せるように回復していなければいけない。あまり時間がなかったので、すぐにからすは鼻からチューブを入れて経管で流動食を摂取する練習を始めた。

 それもリハビリの一貫だったのかもしれないが経管栄養を行って、1日2回受けていた点滴を、転院するまでに外せるようにするが転院の為の必須条件だった。

 また転院先といっても普通の病院ではなく、リハビリ専門の病院、しかも嚥下障害のリハビリも専門的に行える病院となると都内でも数えるほどしかなく、近県まで含めて探してもそんなにはなかった。

 転院先の相談については病院で、様々な相談や手助けをしてくるソーシャルワーカーの女性を紹介してくれた。その女性はとても親切で転院先について調べたり、連絡を取ってくれたりした。しかし病室に空きがあってすぐに転院できる病院はなかなかみつからなかった。

 勿論彼女一人に頼っていたわけではなく、かもめも一生懸命パソコンで病院を探したし、からすはからすで病室内から電話をかけて転院を受け入れてくれる病院を探した。

 けれども空室があってすぐに転院出来る病院はほとんど無かった。もしまれにあったとしても、それは個室で差額ベット代が3万円からという高額な病室だったりした。

 からすの場合、この先いったいどのくらいの期間入院しなければいけないのか不明だったので、いくら入院保険に加入しているとはいえ、あまり高額な病室に入るわけにはいかなかった。

 転院先探しは難航していたが、からすの鼻からチューブ生活は順調に?始まった。 始めは看護師さんから指導を受けて、恐る恐る鼻からチューブを入れる練習をした。「チューブを入れるのすごく痛いんだよ」そうからすは辛そうに言った。

 本当にこれは痛いらしい。このチューブ鼻から入れる内視鏡検査の管をもう少し細くしたような管で、長さは50~60センチぐらいはありそうなものだった。

 この管を何とか自分で鼻から胃の方にゆっくりと差し込んだ後、上手くチューブが差せているかを看護師さんが腸の音を聴いて確認してくれた。

 からすは2回ぐらいこの作業を自分で行って、看護師さんに腸の音を確かめてもらった。

「可笑しいですね、腸の音が聞こえませんね」

と2度とも看護士さんは妙な事を言った。その言葉を聞いて、からすは少し不安になっていたようだ。気を取り直して再度チューブを取り出して挑戦。

(もしかして、からすの体は麻痺が起きた時に、腸や内臓まで麻痺して、内臓機能が停止してしまったのかしら?)

そんな恐ろしい考えが、ふとかもめの頭をかすめた。

 看護師さんはからすの腸の音をよく確認出来なかったので、「先生に来ていただきますので、ちょっとそのまま待っていて下さい」

そう言ってさり、チューブを入れたままからすは主治医の先生が確認に現れるのを待った。しばらく待つと先生が来て、再度腸の音が確認すると調べてくれた。

「大丈夫です。腸の音が聞こえますよ」不安そうにしていたからすの顔がほころんだ。

やっと腸の音が確認されたので、一応はかもめも安心した。しかし内心では、(先生がやっと確認出来る位の音だから、やはりからすの内臓機能の働きは相当に弱ってしまったにちがいない)とかもめは思ったが、からすにはな言わずに心の中に留めておいた。

 流動食を始めるだけでもそんな風に苦労したが、からすは文句ひとつ言わずに頑張った。

「このチューブは当分は鼻から差したままにして、寝る時も外さないで下さい」

と主治医に言われた時は、普段から我慢強いからすでもさすがに嫌がっていた。やはり管を差しているという事は苦しいのだろう。

 チューブに通過させる流動食の名前は忘れてしまったが、200mlぐらいの小さめの缶に入っていた。これをチューブに付ける入れ物に移し替えて、自分で少しずつ胃に流し込むのである。確か一缶を15分から20分ぐらいの一定の時間を目安に終了させていたようだ。

 その様子を見ていたら、本当にからすが哀れなになった。食べ物を全く口から食べずに、匂いを嗅ぐ事も噛むことも無いままただ流し込むだけ。

 人間にとって欠かす事の出来ない食、その食べる喜びや楽しみがなく、もしかしたらそれが半永久的に奪われてしまうかも知れないという恐ろしい現実と、背中合わせの状態だったのだから。

 かもめはもし自分がその立場で、一生食べ物を口から摂取出来なるなら(死んだ方がましだ)と思い、多少でもよいからからすには食べ物を口から食べられるようになってほしいと願った。しかしその一方では、からすがきっと食べられるようになるとかもめは信じていたのである。


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