《10》回復率は50パーセント
かもめは暇を見つけてはインターネットカフェに入って、からすの嚥下障害について調べた。
脳梗塞の後遺症は時間の経過とともに発症時の症状が緩和されて、殆ど症状が残らないぐらいまで回復する場合もある、とインターネットで調べていたので始めの頃は大いに期待していた。しかし、からすの場合は通常なら回復してくるぐらいの時間が経過しても、改善の兆しは殆ど見られなかった。
脳梗塞のサイトで調べてみると、発症から2~3週間経過しても嚥下障害等の回復の兆しが見られない場合、そのまま何もしないで放置しておくと回復せず、食べられるようにはならいというので、かもめはちょっと心配になった。
またリハビリを行っても麻痺の程度によっては、半永久的に口から食べ物を摂取する事が出来るようにならない、若しくは回復しても多少だけという場合もあるという事が解った。
(からすの麻痺は本当に強い局所的な麻痺だから、いったいどうなるのだろうか?)
こういう強い麻痺の場合はリハビリを行っても回復する見込みは、脳梗塞の発症1回目で片側だけの麻痺の場合で、50パーセント程度という事だった。言い変えれば半分の患者さんは回復しないのだ。
また病気の発症年齢や患者さんが何とか治したいという意志によっても回復率は違ってくるだろう。裏を返せば、同じような患者さんの半数は回復していないという事でもある。
更に調べていくとリハビリを行っても嚥下障害が改善しない場合は、鼻からチューブを入れて経管栄養を施すか、または胃に穴を開けて直接流動食を注入する方法のどちらかしかないということもわかった。
(ガガーン!)
(もし、そのどちらかの方法で栄養を摂取しなければならなくなったとしたら、いったいどんな生活になるのだろう?)
(経管栄養になってしまった場合も会社に復帰できるのか?また経管栄養の為の場所や時間を会社で確保してもらえるのだろうか?
(かりにそれが可能になったとしても食事が全く出来ないからすが、人とのコミュニケーションが欠かせない、会社という社会で病気以前人のようにやっていけるのだろうか?)
(本当に回復して社会復帰ができるようになるのか?)
考えれば考えれるほどかもめの頭には次々に疑問が浮かんできて、不安で一杯になった。
(もう、どうしようもないのではないか? からすが働けなくなってしまったら、むくもいる事だしこれからの生活を考えなくては)と更にはそういうところにまで考えは発展した。
からすの現状を把握してからの数日間、かもめは不安や絶望感で何をする気にもならず、無気力状態だった。しかし本来前向きな性格なので何時までもそのままでいるかもめではなかった。
(からすが回復しないと決まったわけでないのだから、とにかく今はできるだけのことをしよう)、とかもめは気持ちを新たにした。
そして手始めに、インターネットで調べた嚥下障害の専門書を入手することにした。それを読んで、からすには病室でできるリハビリをしてもらえば、少しは回復の足がかりになるのではと考えたのである。
早速かもめは嚥下障害の専門書の購入できる大型書店、池袋のジュンク堂へ走って、1冊4、5千円はする本を2冊購入。
早速その日のうちに、病院で待つからすのもとへ届けたのだった。
ますます社会復帰についての不安が増大してしまったからす。
いったいからすがよくなる日はくるのだろうか?からすの生命力と治そうとする意志に望みをかけるかもめだったが…