6話
「というわけで、ここには跡継ぎの為に夫に抱かれたい妻がいます。いつものとおり、先生は具体的な助言のため状況を聞き取ることになるでしようが、皆さんもここだけの話として聞くようにしてください」
「分かりましたわ、王妃様」
「いつもどおり、ここでは私も夫との関係に悩む妻のひとりとして、共に考えますわ」
なんか、秘密のサロン、秘密結社みたいだな。王妃様、悩んでるように見えないんだけど。ノリノリだし、なんか楽しそうにも見える。
いや、分かってますとも、言葉の綾、ってやつですね。
「み、皆さま、ありがとうございます。そのお言葉だけでも、元老院の反対を押し切ってここまで来た甲斐がございましたわ」
涙ぐむ皇妃様には悪いが、もうやだ、帰りたい。出てくる言葉の一つ一つが重いよ。通訳さんなんて、もう白目剥いてるし。
で、いざ聞き取り。普段は私がひとつふたつネタを提供した後、参加者の皆様でお茶をいただきながら好き勝手論評したりして時間になったら次回開催日を確認して解散、という感じの茶会ですが、こういう真剣に悩んでいる方が来られた場合は、口外無用の断りを入れたうえで、皆で話を聞き、対策を練る、という形になります。あまりの機密と濃密っぶりに何度も気絶しそうになる未婚の通訳さんを支えながら、皇妃様から聞き取りを終えた私は、皇家の間に慄いていた。
「まあ、古い家になるとそのような話も割と聞きますよ、先生」
「そ、そうなんですか、王妃様」
「まあ、私はそこまで掘り下げるほど追い込まれませんでしたからここではお話してないですけども、我が王家でも色々ありますよ。またお話しましょうか?」
聞きたくないです、金然聞きたくないです。
皇妃様お目付け役?の侍女さん、皇妃様があまりに赤裸々に話すものだから、初めのうちは止めに入っていたけど、そのうち知らない話も出てきて諦めたっぽい。苦労人な彼女にも話を聞き、裏を取った。通訳さんには、下位貴族に流れている噂みたいなものを確認した。苦労人な侍女さんはともかく、青ざめた通訳さん、ここまで話を聞いてしまったら、もう元の生活には戻れないだろうな。流石に可哀そうだから、元娼婦で良ければ後で少し話を聞きますよ、とこっそり言ったら号泣された。うん、気持ちは分かるけど、ちょっと泣き止もうか。
で、総合的に判断した結果。全会一致で、皇帝陛下がヘタレ、という話になった。
皇妃様の話がノロケにしか聞こえないこととか、皇帝陛下が初夜すらぶっ倒れて出来なかったとか、皇妃様の前だけ挙動不審になるとか、もう面倒臭いから誰か背中押してやれよ、と言いたくなる。皇帝陛下に妙に避けられまくった結果、完全に自信喪失している皇妃様には悪いが、あんたらただのすれ違い婚だから!一発ヤれば解決だから!というのを包みまくって、でもないか、まあ伝えたところ、皇妃様は何故か喜んでしまった。好き過ぎて手が出せないだけだろ、というくだりで、顔が紅潮していたのを私は見逃していないぞ。
というか、それ以外の話が長かった。大分ため込んでいたのだろう、愚痴る愚痴る。王妃様以下、王国勢も共感を示して煽るもんだから、止まらなくなって、結局2日連続で勉強会となった。
流石に中途半端に解散するわけにもいかず、その日は王室保養別邸に皆さんで宿泊しました。もうね、凄かったよ、流石王室。何故かロゼッタに公爵別邸でのお泊り会も約束させられた。その夜の浴場では実技講習と題して色々と盛り上がったが、うん、御婦人方の名誉のためにも、あまり言わない方がいいな。
さて、皇帝陛下がヘタレなのは分かった。その後はすぐに、筋金入りのヘタレをどうすれば攻略できるか、というところに話題は移った。
私なら、好きな女が据え膳状態で、3分どころか3年近くも手を出せないようなヘタレなど、別れてしまえ、と言いたいところだが。私の旦那なら3秒も我慢できないぞ。
まあ、皇妃様が未練タラタラであるし、状況的に離縁できるわけでもないので、要は皇帝陛下の理性を飛ばしてしまえば良い、というあられもない話になった。うーん、手管としては有効かもしれないが、皇妃様は処女、つまり経験が無いので、いきなリハードに攻められると苦痛しかないかもしれない。侍従や張型で練習するわけにもいかないしなあ。え?このまま抱いてもらえないよりは多少苦痛があっても全然良いって?確かに、一回ヤれば、次からは紳士的にしてくれるだろう、恐らく。初回だけだな、初回だけ。でもなぁ、なんか惚れた女にそこまでさせるって、なんか男としてはどうなのよ、とは思ったが、勿論そんなことは言ってませんよ?
ということで、身もふたもない結論になったわけだが、皇妃様は手管の数々をどん欲に学んで、10日後に帰っていった。半年後に再訪すると約束をして。
いや、もうお腹一杯なんだけどなぁ。




