5話
私は今日も公爵家庭園のガゼポで、ロゼッタと茶を飲んでいた。
娘は、付き添いの侍女さんの腕の中で寝ている。私も大層な身分になったもんだ。
「まだやるの?あれ」
「王妃様というか陛下が気に入っちゃったみたいで、王妃様が私に催促してくるのよう」
若干涙目で話すロゼッタの言葉に、私は耳を疑った。
「は?」
「国の安寧のためにも、是非やってくれって、なんならティアナに褒美も出したいって」
いやいやいや、男転がす手管教えたからって褒美取らせる王様なんて、聞いたことないよ?しかもなんかスケールでかくなってるし!
「でも、確かに夜会だと、あの茶会に参加してるご夫人方のドレスとかアクセサリーとか、以前と違うのよね」
「なんか違うの?」
私は相変わらず夜会には出ていない。夜は色々と忙しいし、たまの忙しくない夜は休みたいので。
「ん一、前は貴族の義務的な感じで流行りに合わせて、無難に着飾ってる夫人が多かったんだけど、今は明らかに旦那様の趣味が入ってる部分が多くなってるのよね」
「それって」
「そうそう、夫婦仲が良くなってるんじゃないか、って王妃様もおっしゃってたわ」
そういう王妃様は、以前にも増して陛下からの執着が酷くなっているようで、最早ストーカーである。
「『愛され過ぎるのも大変ね、貴女の気持ちが分かった気がするわ』って王妃様に言われたんだけど、私の旦那様はそこまで酷くないんだけどなあ」
いやロゼッタ、貴女が何故かそこだけ鈍感だから気付いてないだけで、貴女の旦那も相当ヤバいレベルで執着してると思うけど。そうでもなければあんな騒動起こすわけないだろう。
というわけで、また再開した茶会『夫婦の営み勉強会』であった。場所は公爵家別邸から、王家保養別邸ヘランクアップ?したけど。しかも参加者が更にグレードアップしてるけど。隣国の王妃様に加えて今度は王太子妃様もやってきた。しかも南方の帝国からは皇妃様が直々にやってくるという。
表向きは親善外交のためらしいが、皇妃様は結婚して3年、不妊で悩まれているらしく、この国のベビーブームの情報を入手すると、是非とも、ということで王妃様のところに打診があったらしい。初めは私を派遣してくれ、と依頼があったらしいが、取り込まれたら困る、と王妃様がお断りしたら、本人が来ることになったとか。
突っ込みどころが多すぎる。
「ああ、貴女にお会いしたかったの、先生」
「は、はあ」
「はしたないとは分かっているんですけど、恥ずかしいのを我慢して誘っても夫がその気になってくれないのです。どうしたら抱いてもらえるんでしようか」
引きつる女性通訳が、息も絶え絶えに伝えてくれる。これって、完全に国家機密よね。皇妃様は本当に困っているらしく、自分で聞きたいがために、わざわざこの国のスラングまで勉強したとか。でもやっぱり細かいニュアンスまでは分からないから、通訳をと思ったら皇城には男性通訳しかいなくて、国中探しまくって女性通訳を何とか見つけて連れてきたそうである。
聞いた話では、実質拉致された通訳さんは趣味で語学をやっていた下位貴族の令嬢で、本来なら皇妃様と会話どころか、お目通りすることも叶わない身分なんだとか。大抜擢、とか喜んでる雰囲気には見えないわ。
か、可哀そうに。
「結婚して3年、世継ぎはまだかと実家や元老院からは矢の催促ですし、かといって夫は私を抱きもしなければ、側妃を取るわけでもないですし、私心労でどうにかなってしまいそうで」
あああああ、こんな重大事項を場末の娼婦に持ってくるなや。あ、今は娼婦じゃないか。
「国内で下手に露見すると、即座に政争の種にされてしまう案件ですから、相談も出来なくて」
それで一人矢面に立ち続ける羽目になったと。つ、辛すぎる。私が初めての会合でされたことなんて、屁みたいなもんだな。その後の茶会や会合でも、私の受けた嫌がらせの内容ってロゼッタやエドガーは何故か知っていたし。その点、この勉強会の具体的な会話内容は、帝国の誇る諜報機関でもってしても暴くことができなかったという。
「正直に申し上げて、私も必死でしたから人数も相当入れましたのよ。でも、全く分からなかったのですわ」
おおう、もう聞きたくない、聞きたくないです。
「でも、それで逆に確信しました、この会の内容は、そこまでするほどの価値があるものだと」
か、過大評価過ぎます皇妃様。しかし、私の話の価値はともかく、交わされる会話の内容は確かに国家機密というか、国家の醜聞というか、恥部になりかねないような話ばかりなので、ひとりでも漏らせば大惨事になることはあるかもしれない。そういう意味では価値はあるのかも。ある意味血の盟約を交わしているのか、この会。まるでマフィアのファミリーじゃないか。
…ロゼッタ、もう止めていいかしら。




