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2話

「こすい手使いやがって、そんなに穢れた女が好きかよ」


 馴染みを何人か外した、という話をどこからか聞きつけたらしいその男は、確実に私と会うために、婆に金を積んだらしい。多少の金では見向きもしない婆が、気持ち悪いくらいに愛想良かったから、相当な額を積んだのだろう。


「ワシはお前のこと気に入っているんだけどな、一目惚れよ」

「キモいおっさんだな、娘より若いくらいの女に一目惚れかよ」


 年は40くらいだろうか、おっさんとは言え、私の客の中では、まだ若いくらいだが。どう見ても裕福そうなこの男、酔狂で花街通いをしているんだろうと思っていたが、そう来たか。

 私が毒づくと、男はニヤリと笑みを浮かべた。


「残念ながらワシはまだ独身でな、嫁も子もおらんのよ」


 嫁も子もいて花街通いもどうかと思うが、独身貴族か、そうか。


「…そうかよ、別にあんたの家庭事情なんぞ、知りたくもないけどさ」


 家庭事情どころか、名前も知らないが。


「デービスのこと、気になってるだろう?」


 唐突にその名前を出されて、私は動揺した。あれ以来、デービスとは会っていない。


「き、気になってないし」


 なんでこのおっさんがそんなことを。


「惚れた相手のことだからな、ワシは気になっての」

「…あんた、そっちの気もあるの?」

「ふふっ、どうだろうな」


 分かってて聞いたのだが、機嫌を悪くすることもなく、笑って流されてしまった。くそう、余裕だなこのオヤジ。


「…で、聞いてあげるわ、仕事だし」

「そうそう、客の話を聞くのも女将の仕事だからな」

「また女将って言う」


 女将とは、女主人のことだ。この男は、何故か私を女将という。どうせ一商品に過ぎないのに。


「まあ良い、あいつな、婚約したぞ」

「え?婚約したの?」


 デービスと会わなくなってから、たったのひと月だ。流石の私も、少し衝撃を受けた。


「そうそう、しかも相手はな、女将を売女呼ばわりしたローバーの妹、傑作じゃろ」


 ローバーって、確か、デービスの古い友人、商売仲間で、私に股開けって言いやがったクズじゃないか。私の中で、何かが崩れた。夢を売る楼閣の女が見てはいけない綺麗な夢、初めて連れていかれた煌びやかな場所は私の居場所ではなかったが、それでも。


 僅かながら抱いていた淡い想いが、見事に砕け散った。


「は、ははっ、そりゃ傑作だ」


 必死に取り繕う私の前で、にこやかに笑いながらおっさんが続けた。


「で、ワシは裏切りと失恋で傷心の女将を身請けするのよ、最高じゃな。ワシに惚れてもええんやで」

「ははっ、は…は?」

「いやー、何時取るの、今でしょう、とか言われてな、某公爵夫人に。ティアナをよろしく、とも言われたなぁ」


 まさかロゼッタ!あんた何言ってくれてんのよ!というかこのおっさん、公爵家に出入りしてるってこと?お抱えの商会長か何か?


「ワシならお前を守ってやれる、というか、お前なら別に守らんでも好き勝手にやるだろ」


 急に佇まいを変えたおっさんが、私を優しい目で見ながら言った。


「ワシは付き合いの社交には出ない。出る必要も無ければ出るつもりもない。お前が出たければ一緒に出るがな、出たいか?」

「いや、要らん」

「ははっ、そうじやろう、上流階級の娘は社交が命だからな、ワシにとっては面倒極まりない。宝石やドレス、絵画に興味はあるか?」

「特に無いな、そんなものより美味い飯の方が良い」

「ワシもじゃ、審美眼などクソ食らえじゃ」


 その審美眼がどうたらと言うのが、上流階級のステータス、とか聞いたんだが。そんなだから、嫁が来ないんじゃないのか?

 …でも、今の私には心地良い。


「ははっ、なかなか言うじゃないか」

「あとは、そうさな、ワシは性欲は旺盛じゃが、無理にやろうとは思わん。どうじゃ、紳士じゃろ?」

「女相手にそんな話してる時点で紳士じゃないな」

「そうか!それは一本取られたな」


 この男なりに、励ましてくれてるんだろうか。涙ぐましい努力だ、ハゲだけに。

オヤジギャグはお前だ!

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