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フランシーヌを部屋に引き込んだのは敵ではなかった。前もって公爵家の影からミランダの計画を聞いていたブラッドは、夜会に参加していないライアンにその役目を頼んでいた。
以前から可愛い弟に異常に執着してくる王女が嫌いだったライアンは、二つ返事で引き受けた。
ミランダの命令通り動く予定だった者は、鳩尾を殴って気絶させ、縛り上げておいた。
本人に知られないように軽い睡眠薬を嗅がせた上で、父が王子の時に使っていた部屋にフランシーヌを寝かせマクレーン侯爵に連絡をした。
ブラッドがミランダを威嚇しまくっている間に小者を片付け、王と王妃を椅子に縛り付けガミガミと説教をしたのは王太子だった。
自分と直ぐ下の妹を厳しく躾けた両親が末の妹の教育に何故あそこまで失敗したのか、言い聞かせていたのだった。
フランシーヌが目覚めたのは翌朝だった。
寝巻きに着替えているし、起きたのは侯爵家の自分たちの寝室だった。
どうなっているのか聞こうとベルを鳴らすと、やって来たのはいつものメイドではなく愛しの旦那様だったので余計にびっくりしてしまった。
抱き合い額にキスをすると
「大丈夫かい?朝食の後で昨夜のことを話すよ」
と言って愛しそうに笑ったブラッドにキスを返したのは言うまでもない。
どうやら自分は眠らされていたらしいと予想したフランシーヌは
「分かったわ、着替えたら食堂に行くから待っていてね」
と答えた。
両親もノエルもブラッドも揃ってフランシーヌが来るのを待っていた。
「おはようございます。お待たせしてごめんなさい」
「良いんだよ、よく眠れたかい?」
父が優しく聞いてくれた。
「はいお父様、おかげさまでぐっすりでしたわ」
「では頂こうか。女神ソランの祝福に感謝を」
父の祈りの言葉で食事が始まった。
柔らかなパン、ジャムにバター、野菜たっぷりのスープと果物の盛り合わせと紅茶がそれぞれにサーブされた。それを美味しく食べるとサロンに移動して昨夜のことを聞くことになった。
「王太子殿下がまともな方で良かったよ。もう少しであれを手に掛ける所だった」
ブラッドが苦々しそうに吐き出した。
「仮にも王族なのよ、手を出したら唯では済まないわ」
フランシーヌが心配そうに言った。
「そうなっても王太子殿下と父上がもみ消してくれるよ。
国際問題になっていたんだよ。
留学先で勉強もせず、護衛騎士の裸を描くのが趣味になっていたんだ。
嫌と言えない騎士をモデルにしてた。変態だよ。
隣国で筋肉好きになったらしい。
騎士団から苦情が凄かったそうだ。
証拠の絵が残っていたので、言い逃れは出来ないから厳罰に処せられる」
「裸って、まさかそのモデルにブラッドを?冗談じゃないわ。殺るなら私が刺し違えたのに、悔しい。
ブラッドに手は出させないわ。
騎士様のような筋肉が付いているわけでもないのにブラッドに迫ったの?
下心が満載じゃない。益々許せないわ。絶対にブラッドは渡さないわ。
でも知っていたら何かやらかして私の首だけではすまなかったわね。
心配して守ってくださってありがとうございます。
胸がざわついたので、サミー様に呪いの石をお願いしようと思っていましたの」
「王族に手をかけるなと言ったその口で刺し違えるなんて、心臓に悪いことを言う。過激なんだから。
フランに何かあったら生きていけないよ。
だから一番怒ると思ったフランには内緒にしていたんだ。元凶は責任を取らせたから大丈夫だよ。それにしてもサミー様に呪いの石をお願いするなんてやめてね。多分引き受けてはくださらないだろうけど」
「何をするかわからないから言っておくが、サミー様はさる国の高貴なお方だ。失礼なことはお願いしないようにしなさい」
父が言った。
「遠縁ではないの?高位の貴族だとは思っていたけど」
「遠縁は遠縁だ。何代か前に我が家に嫁いで来られた王女様がいらっしゃるのだが、その方の血筋にあたられる。今は大学で研究をされているのは知っているだろう。言葉に気をつけるのだよ」
「やはり高貴な方だったのね」
「お願いだから一人で突っ走らないでね。今回だって君が危ないことをしないように、皆で頑張ったんだよ」
手を握りながらブラッドが顔を覗き込んで言った。
「分かったわ、大人しくするわ。何かするときはブラッドに相談する」
目を見つめ合いながらフランシーヌが答えた。
甘いムードになりかけたところを咳払いで拡散させたのは父だった。
「そういうのは部屋でやってくれ」と。
結婚式の日になった。空が透き通るように真っ青に晴れていた。
フランシーヌの衣装は最高級のシルクで作られていた。
マーメイド型でトレーンが長い。豪華で大聖堂の挙式にふさわしかった。
ダイヤモンドのティアラとネックレス、イヤリングが眩しい輝きを放っていた。
ブラッドも白いシルクの正装だ。マクレーン家の家紋が金色で刺繍してあった。前髪を上げいつもより大きめのダイヤモンドのピアスを着けていた。
「女神様が舞い降りたみたいだ。とても綺麗だ。一生君だけを愛するよ」
「ブラッドも素敵だわ」
司祭様が「コホン」と合図をした。
「汝ブラッド・アレクサンドルは、この女フランシーヌ・マクレーンを妻とし、富める時も貧しき時も、健やかなる時も、病める時も、死が二人を分かつまで、愛を神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」
「誓います」
「汝、フランシーヌ・マクレーンはこの男ブラッド・アレクサンドルを夫とし、富める時も、貧しき時も、健やかなる時も、病める時も、死が二人を分かつまで、愛を神聖なる婚姻の契約のもとに誓いますか?」
「誓います」
「では誓いのキスを」
ブラッドはフランシーヌのベールを持ち上げて唇にキスをした。
幸せに輝くフランシーヌは、この時世界で一番綺麗な花嫁だった。
そこへ大聖堂の天井から花びらが舞い落ちてきた。出席者から「まあ、神様の祝福だわ」という声がした。
大聖堂の入り口で立っていたサミー様ことサミュエル様がちょっとした魔術を使って二人への餞としたのだった。
お祝いは魔よけの赤い石に魔力を注ぐランプだった。光の届く所に石を置くと魔法が持続するように出来る物だった。貴重な物に喜んだフランシーヌとブラッドは家宝にすることにした。
その後の二人には男の子が二人と女の子が二人の四人の子供に恵まれ、賑やかで穏やかな暮らしを送った。
ノエルは伯爵になり姉と力を合わせマクレーン家を発展させていった。
時々サミー様が訪れ、子供達に魔術もどきを見せて懐かれ笑顔になることを、この時の二人はまだ知らない。
これで最終回です。お付きあいくださってありがとうございます。
フランシーヌは出来る子ですが、ブラッドが絡むと無鉄砲になり皆をハラハラさせます。そこが可愛いと思っているブラッドも大概です(笑)
フランシーヌを軽い睡眠剤で眠らせたのは、説明すると何かやらかす可能性が大きかったせいです。
皆様ではまたお会い出来ますように。