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サミー様は一ヶ月ほど滞在すると帰っていった。空間魔法について発見があったと、嬉しそうだった。本を写させて欲しいと言われたので、どうぞと父が許可を出したらとても喜んでいた。
身なりを整えると貴族令息のようだったので、高貴な身分の方ではないかとフランシーヌは思った。
好きな研究を続けていられる身分で、貴重な魔石が手に入るお方だ。
父に聞いても何も答えてくれないので、それ以上尋ねることは止めることにした。
サミー様に貰った赤い石は悪意を撥ね除けてくれていた。
夜会でブラッドに横恋慕する令嬢の口撃が減ったのだ。
ぴったりと一緒にいようと思っても、化粧室に行ったりする一瞬を突いて口撃されていたのに、ぐんと減ったのは石のおかげだと思う。
効果は抜群だった。ありがたい。
面倒くさかったのだもの。
「この石の効き目凄いわ。髪がバサバサの令嬢が増えていないかしら」
「元々フランしか見てないからよくわからない。また来られたらお礼をしなくてはね。フランを守るのが僕じゃなくて悔しいけど」
「私もブラッドしか見てないから一緒ね。そういえば末の王女様が留学から帰って来られるのよね。夜会の招待状が来ていたわ」
「少しは大人しくなってるといいけど。あの国で結婚すればよかったんだ。
ドレスを贈るよ、気に入ってくれると嬉しいな」
「ブラッドはセンスがとても良いのよ、自信を持って。今日だってブルーのグラデーションが素敵なドレスだわ」
「とても良く似合っている、僕の色に染めたかったんだ」
蕩けるような甘い声で言われた。
「ブラッドも黒の正装がとても素敵だわ」
「フラン、早く結婚してしまおう。ここでは話せないけど嫌な予感がするんだ。明日にでも正式に伺うよ。侯爵は在宅だろうか?」
「ええ、執務があるって仰っていたからいると思うわ」
「馬車に乗ってから詳しいことを話すよ」
「分かったわ。じゃあせっかくですものダンスを踊りましょう」
「踊っていただけますか、僕の愛しい人」
「喜んで」
それから三曲続けて楽しく踊った二人は、手早く飲み物を飲んで馬車に乗り込んだ。
「僕は今度帰ってくるミランダ王女の婚約者に、危うくなるところだったんだ。ちょっとやばい女性でね、血が濃いという理由で、王弟の父が断ってくれた。それでフランとの婚約を急いで決めてくださったんだ」
急にさっきまでの楽しい気分が急降下した気がした。
「身分が釣り合っていれば私でなくても良かったってことね」
「そうではないよ。父は僕がうんと言うまで付きあってくれたと思う。急いではいたけど。
最初に父が選んだ婚約者がフランで良かった。君は可愛くて面白くて目が離せない素敵な女の子で、僕は直ぐに好きになった。君と会う時間はキラキラしていてかけがえのないものだった。フランは違うの?」
甘い声で言われた。
「王子様みたいな素敵な人が、私の旦那様になるんだと思ったらとても嬉しかったわ。いろいろ冒険して気が合って、失敗しても優しくて一緒に叱られてくれて楽しかった」
「それを邪魔するかもしれないのが、今度帰ってくるミランダ王女なんだ。どうやら隣国で結婚相手を見つけられなかったらしい。僕はフランを愛している。そういう話が出てもしっかり断るから心配しないで」
「王命が出たらどうするの?逆らえないわ」
「だから籍を入れてしまおうと思っているんだ。侯爵には事後報告になるけど。父上にもだね。
成人してるからサインがあれば今夜でも結婚は認められる。サインしてくれる?侍従に用紙は取りに行かせてあるんだ。サインを王太子に出せば認めて貰えるように話はしてある。
ここに来てこんなことになるなんて思っていなかった。
送っていったら侯爵に話をするから心配しないで」
「王女様はブラッドが好きだったの?」
「顔が好みだって言われた。結構な粘着質だった。嫌いだって態度に出したり、言葉でも言ったんだけど、都合の良い言葉しか聞かないんだ。
危ないと父上が思うほどだった。
だから留学させられて頭を冷やすように距離を置いたのに。
あの時修道院でも入れたら良かったんだ」
「穏やかになられていたら良いけれど」
「きっと変わってないよ。
とにかく結婚してしまおう。フラン以外はいらない」
そう言うと指先に口付けた。
フランシーヌは真っ赤になってしまい頷いた。
「じゃあ明日から一緒に暮らせるわね。よろしくお願いします、旦那様」
漸くそう言葉にした。
「あっ、そうか。よろしくお願いします。決して裏切らないと誓うよ」
「私も一生貴方だけに愛を誓うわ」
馬車の中でブラッドがフランシーヌの隣に座り、唇が重ねられた。最初は触れるだけだったキスはだんだん深いものになり、気持ちの良さにいつの間にか、深く求めあっていた。
あれから婚姻が素早く両家に認められ、婚姻届けは王弟の力でねじ込まれ、ブラッドは侯爵家に住むことになった。
結婚式を待たずにフランシーヌはブラッドとの初夜を迎えた。
初めては怖かったがブラッドの優しさで蕩けるような気持ち良さで気を失うように朝を迎えた。
王女の帰国を祝う夜会の日になった。
朝早くからフランシーヌは戦闘服の着付けに忙しかった。お風呂に入れられ入念にマッサージをされた。髪も艶々になっていた。肌もプリプリだ。
出るところは出てウエストは細く手足が長く誰にも文句のつけどころがない美女だった。
ドレスはブラッドの色のブルーを基調にシフォンが何層も重なったプリンセス型だった。髪はハーフアップにして新妻の可憐さを打ち出した。イヤリングとネックレスはダイヤモンドがキラキラと輝いていた。
「僕のフランは妖精のようで美し過ぎる。誰にも見せたくないな。このまま寝室に籠もらない?」
「戦うの、ブラッドは誰にも渡さないわ」
「きっとあれがおかしなことを言ってくるけど大丈夫?」
「ブラッドが側にいてくれるでしょう?お守り石も身につけているもの、平気よ。それより今日のブラッドも素敵」
濃い紫色に金色の侯爵家の家紋の刺繍入りの正装のブラッドは溜息が出るほど格好が良かった。前髪を上げ、ダイヤモンドのピアスが色っぽい。
会場では義兄のロバートやアレクサンドル公爵にも会えるはずだ。味方は多い。
エスコートしてくれる夫の腕に掴まってフランシーヌは武者震いをした。
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