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十三歳になり二人は貴族学院に入学した。
貴族は入ることが義務付けられているのだ。
フランシーヌは綺麗になりお淑やかになった。ブラッドも足を引っ張られないように社交をするつもりだ。
チラチラとフランシーヌに視線をやる男達が許せない。僕に寄ってくる虫も面倒くさい。表情を変えないようにフラン以外は目に入れないように気を付けた。
朝迎えに行きランチを一緒に食べ帰りも送り届ける。時々寄り道をしてカフェに寄ってみたりした。
「学院の帰りにカフェに行くのが友達の間で流行っているの。羨ましかったから嬉しい。ありがとう、ブラッド。大人の仲間入りをした気持ちがするわね」
誰も周りのことは気にせずおしゃべりに夢中だ。
「フランが楽しいならまた来よう。今度芝居でも観に行く?」
「そうね、嬉しいわ。あとピクニックにも行きたいわ」
「調べておくよ、楽しみにしておいて」
僕たちは街歩きや美術館巡りにも良く出かけた。雑貨屋で見つけた硝子のような髪飾りでもフランには良く似合って可愛かった。
そんなものでも
「ブラッドが贈ってくれたのがとても嬉しいわ」と言って眩しいくらいの笑顔を見せてくれる。ハートを撃ち抜かれた。君って人はどこまで好きにさせたら気がすむの。
もうすぐ本物を贈るから待っていて。
今度の誕生日には僕の瞳のブルーのサファイアのピアスを贈りたい。僕は君の瞳の色の紫のアメジストをピアスにしてもらった。
♢♢♢
そうして僕たちは学院時代を仲良く過ごし、卒業後一年で結婚式を挙げることになった。
「ねえブラッド、今日ね書庫から古い本を見つけたの。どんな本か知りたい?」
「知りたいけど、結婚式の準備で色々と忙しいじゃないか、それどころじゃないでしょ」
「大げさね、ほんの息抜きよ。あのね魔術の本だったわ。大昔わが家には魔女と結婚した人がいたらしいの。私も魔力があるかもしれないわ。ロマンチックだと思わない?」
あちゃー、昔からフランは何でも面白いことを見つけると首を突っ込まずにはいられないんだ。
「簡単に使えるものじゃないと聞いてるし、大昔のことだろう。使える人もいなくなったんだ。危ないことはしないでね」
「髪の艶がなくなってボサボサになるとか、肌がかさかさになるとか、足の小指を毎日机の角にぶつけるとか、水を飲んだだけで太るとかなら良い?」
「僕のせいで嫌がらせをされたんだね。何をされたの?公爵家から抗議を送っておくから名前を教えて。こんなに仲良く一緒にいるのに、隙を突いて馬鹿なことをやるんだね」
「大したことじゃないわ、いつの間にかぼっちになっていたり、すれ違いざまに可哀想なブラッド様を解放してくださいとか、脚を引っ掛けられて転びそうになったりとかだけよ。まだ階段から突き落とされてはいないし、池にも落とされてはいないわ」
「結構されてるじゃないか。階段や池になると命にかかわるよ。僕は可哀想ではないよ。フランに首ったけなんだから。その発想はどこから出てきたの?
魔法の前に公爵家から護衛兼影をもっと付けるよ。影には報告だけでなく守れと言っておく。僕のフランに怪我をさせたら物理的に首が飛ぶと言い聞かせないとね」
見えない所でブルっと気配が揺れたような気がした。
「ありがとう。階段や池は恋愛小説よ。悪役と呼ばれる令嬢が出てきて、ヒーローの心を奪う可愛い平民の娘を嫉妬で虐める本が流行っているの。
でも虐められてるのは私だわ。今のところどうってことはないけど。
だから魔法の練習がしてみたくなったの。
才能があるかどうか調べて貰えるところはないかしら」
「何がだからなのかわからないけど、一人で突っ走るのは駄目だからね。先生は必要だよ。探すから待っているんだよ」
「分かったわ、本を読むだけにしておくわ。今のところだけど」
「怖いから本当にやってみないでね。もし魔力があって暴走でもして、フランに何かあったら生きていられない。結婚式の準備に全力を注いで。勿論僕もするけど。良い?変なことは考えては駄目だよ。何かやりたくなったら相談して」
フランシーヌの両親に聞いてみたら確かに三百年くらい前に魔女と結婚した人がいたそうだ。幸いにも遠い親戚に、変わり者の消えかけた魔法の研究をしている人がいるらしい。
取り敢えず連絡を取ってみると言われたので僕はほっとした。
一月後に王都のタウンハウスに来てくれることになった。
フランは本でしか知らない魔法の話が聞けるとあって瞳をキラキラさせていた。
ノエルも一緒に話が聞けるとあって二人ともはしゃいでいた。
やって来たのは髪と髭が伸び放題で、できるだけ清潔な服を着てきたのだろうと思われる三十代前半くらいの男性だった。
応接室に案内したフランシーヌが紅茶を勧めた。
「お忙しいのに無理を言って申し訳ありませんでした。遠いところをおいでくださりありがとうございます。
フランシーヌ・マクレーンと婚約者のブラッド・アレクサンドル公爵令息と弟のノエルです。
お疲れでしょうからお茶をお飲みになって、ゆっくりなさってくださいませ。着替えられる前にシャワーをどうぞ。それから夕食にいたしましょう」
「サミーと言います。珍しい本を見せていただけるというので、好奇心に負けてやって来てしまいました」
あまり表情の変わらない顔でボソボソと挨拶をした。
「お話を聞けるのが楽しみで仕方がありませんでしたの。夕食後にサロンにお持ちしますわ。まさか書庫に魔法の古書があるなんて思ってもいませんでしたので、とても驚いていますの」
そうしてシャワーをし髪を洗い、髭も剃ってこざっぱりとしたサミーは、フランシーヌ達より年齢が少し上の、渋い美貌の持ち主だった。
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