モンタージュ型プロット──時系列をずらして、読者の脳と心を揺さぶる構成技法
「これ、時系列どうなってるの?」
「あとから繋がっていく感覚が気持ちいい」
「最初は意味が分からなかったのに、最後で一気に腑に落ちた」
こんな感想がもらえる物語がある。
そして、その構造は“モンタージュ型プロット”に通じている。
映画でも小説でも、あえて時系列をズラしながら、バラバラの場面を組み立てていく手法──
それが今回のテーマ、「モンタージュ構造(Montage Structure)」だ。
■ モンタージュとは何か?
もともとは映画用語だ。
複数のカットを編集でつなぎ合わせて、新しい意味や印象を生み出す手法。
言い換えれば、「連続していないものを連続させる」ことで、“文脈”そのものを操作する技術である。
物語におけるモンタージュ構造は、この編集感覚をプロット全体に応用したものだ。
時間、視点、出来事をバラバラに配置し、読者の認知を操作することで、構造そのものが感情に働きかける。
■ こんな物語、見たことないか?
・最初の場面の意味が、後になって分かる
・ラスト近くで「これはあのときの出来事だったのか」と繋がる
・同じ出来事を別の人物の視点で見ることで、印象が変わる
・語られなかった空白が、断片を通して読者の中で立ち上がる
これらはすべて、モンタージュ型構造がもたらす読書体験だ。
■ なぜ「バラバラに語る」のか?
構造をズラすことで、読者の注意を引きつけ続けることができる。
あえて“わからない状態”を維持することで、
・情報を集めようとする集中力
・意味を読み解こうとする推理力
・予想を裏切られたときの驚き
が発生する。
これらはすべて、物語にのめり込ませる力となる。
■ モンタージュ型の基本パターン
● 回想型(現在と過去を交互に)
物語の現在と、過去の出来事が交互に語られる構造。
現在の行動に対し、「なぜそうするのか?」の答えが、少しずつ過去から浮かび上がる。
例:
・現在の主人公は無口だが、過去の傷が段階的に明かされていく
・恋人と別れる場面から始まり、出会いが後から語られる
「原因より結果を先に見せる」ことで、読者の関心を引きつけることができる。
● 群像モンタージュ(多視点で断片をつなぐ)
複数の登場人物の視点から、バラバラの出来事を描き、
最後にそれらが一つの事件や真相に繋がっていく構成。
例:
・A視点では「事故」だと思っていたことが、B視点では「仕組まれた罠」だと判明
・登場人物それぞれが別の悩みを抱えていたが、ある一点で交差し、テーマが浮き彫りになる
読者の側で「何がどう繋がるのか」を考えさせるため、能動的に物語へ関与させる構造でもある。
● 時系列シャッフル型(意図的に前後を混乱させる)
あえて“どこがいつの話か分からない”ように語り、
断片の配置で読者の感情や印象を操作する構成。
例:
・ラストの真実を冒頭で見せてしまい、「どうしてそうなったのか?」を描く
・過去・現在・未来が入り乱れ、読者の中で時間が組み立て直される
非常に高度だが、使い方次第で「驚き」や「深い理解」を生み出せる。
■ 構造自体が「演出」になる
モンタージュ型の最大の特徴は、「構造が語りそのものになる」という点だ。
順を追って語れば、説明できることも多い。
だが、バラバラの断片を“並べる順”や“切り取り方”によって、
読者に届ける印象はまったく変わってくる。
たとえば──
・主人公の涙を最初に見せるか、最後に見せるか
・“事故”を最初に描いてしまうか、後半で明かすか
・読者が「真実だと思っていたこと」が実は間違いだった、と逆転する構造にするか
物語の順序が、感情の順序を決めるのだ。
■ 代表的な作品例
◎『時をかける少女』(原作:筒井康隆)
時間を行き来する構造そのものが物語の根幹。未来の出来事が現在を揺さぶり、断片的な情報がつながったときに「意味」が生まれる。
◎『バベル』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)
異なる国・時間・人物の断片が、徐々に一つの悲劇に向かって交錯していく群像型モンタージュ。視点と視点の“すれ違い”が、テーマそのものを表現している。
◎『パルプ・フィクション』(クエンティン・タランティーノ)
時系列をシャッフルし、ジャンルすら飛び越える編集型プロットの代表例。断片をつなげることで、むしろ登場人物たちの生きざまが鮮やかに際立つ。
◎『火花』(又吉直樹)
過去と現在の交錯を、主人公の語りで進行させる構成。回想型のモンタージュが、芸人としての人生と、それを振り返る“物語る行為”そのものを重ね合わせている。
■ 初心者向け・モンタージュ構造の設計ステップ
「全体の軸」と「断片の配置目的」を決める
→テーマに関係する場面だけを抜き出す意識で。
断片ごとに「感情」や「印象」を意識して設計する
→順序よりも“どの感情からスタートさせたいか”が重要。
「読者に解釈させる余地」を用意する
→すべてを説明しない。つなげるのは読者。
構造と意味が直結するように整える
→シャッフルや視点交差が、テーマを際立たせるように配置する。
■ 書き手への問いかけ
・あなたの物語は「順番どおりに」語られる必要があるか?
・一番見せたい場面は、どこに置くといちばん響くだろう?
・情報よりも「感情の順番」を意識して構成できないか?
物語は、内容だけでなく「どう語るか」で印象が変わる。
モンタージュ構造は、構成そのものが感情の導線となる、“見せ方の芸術”でもある。
■ まとめ
モンタージュ型プロットは、
“並べ方”そのものが読者の理解と感情をコントロールする、構造的な語りの技法だ。
断片をただ繋げるのではなく、
順序の妙によって「意味」が変わる瞬間を生み出す。
それは、読者の頭の中で“物語が再編集される快感”をもたらす。
物語の手綱を握りながら、あえて読者に託す。
そんな語りの技術が、ここにはある。