表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

フライターグのピラミッド──物語の“波形”で読者を引き込む

物語に“重力”はあるか?

読者の感情を上へ、さらに上へと引き上げ、

やがて一気に崖から落とすように展開する──

そんな構造を、古代ギリシャ以来もっともシンプルに言語化したものがある。


それが今回のテーマ、「フライターグのピラミッド」。


ドイツの劇作家・グスタフ・フライターグが19世紀に提唱した、

物語の流れと感情の起伏を可視化した五段階の構造だ。


構成は以下の通り。


【1. 導入】

まず、舞台や人物関係などの前提情報を提示する。

読者にとっての“地面”をつくるパート。主人公の目的や日常、世界観をわかりやすく置く。


【2. 展開】

事件が起き、物語が動き始める。

主人公は問題に直面し、選択や試練を迫られていく。

小さな出来事が積み重なり、次第に緊張が高まっていく“上昇区間”。


【3. クライマックス】

もっとも感情が高まり、物語の核心が爆発する場面。

主人公の決断、対決、告白、崩壊──あらゆる意味で“物語が頂点を迎える”瞬間。


【4. 下降】

クライマックスの結果が、波紋のように世界へ広がっていく時間。

敵が倒れる、問題が解決へ向かう、余韻が始まる。

いわば“山を下る”工程であり、感情は少しずつ沈静化していく。


【5. 解決】

物語が静かに終わりへと着地する。

全体の変化を確認し、読者が余韻を味わう時間でもある。

最終的に何が変わり、何が残されたのか──その“意味”を提示するフェーズだ。


この構造の特長は、物語の“感情の起伏”を図式化できる点にある。

起承転結よりも、より具体的に「山をどう登り、どう降りるか」に焦点を当てている。


読者は、登っている間に期待をふくらませ、頂点で最も揺さぶられ、

下降と解決で静かに浸る──。

この自然な流れが、物語への没入感を生むのだ。


■ なぜ効果があるのか?


理由はシンプルだ。


「物語が感情と並走している」からである。


人間は本能的に、緊張と解放、起伏と安定のリズムに反応する。

フライターグの構造は、それを物語にそのまま落とし込んでいる。

だからこそ、読者は無意識のうちに引き込まれ、

物語が終わるころには「満たされた」と感じる。


また、この構造は短編にも中編にも使える。

とくに尺が限られた物語では、「どこで山を作るか」を意識するだけで、

作品のテンポと読後感が劇的に変わる。


■ 代表的な作品例


・『マッチ売りの少女』(アンデルセン)

導入:寒さの中で街を歩く少女。

展開:マッチを擦り、幻想が次々と現れる。

クライマックス:亡き祖母の幻と再会し、手を取って昇天。

下降:少女が死んだことが明かされる。

解決:翌朝、通行人が少女の死体を見つける。


・『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)

導入:孤独なジョバンニと星祭り。

展開:銀河鉄道での旅と仲間との出会い。

クライマックス:カンパネルラが“消える”という喪失。

下降:現実世界へ帰還。

解決:ジョバンニの心に芽生えた決意と静かな祈り。


・『耳をすませば』(柊あおい)

導入:本好きの雫と退屈な日常。

展開:天沢聖司との出会いと衝突。

クライマックス:夢に向かう覚悟と想いの共有。

下降:夜明けの坂道。

解決:未来に向かう二人の静かな出発。


■ こんなふうに応用できる


もちろん、すべての物語がキレイなピラミッドになるわけではない。

だがこの構造は、以下のように“変形”して応用できる。


・ダブルクライマックス型

前半で感情的な山場、後半で決着。長編によくある構造。


・逆ピラミッド型

冒頭で最も強い出来事を配置し、あとは下降と解決だけで余韻を描く。倒叙ミステリなどに有効。


・クライマックス省略型

“静かに始まり、静かに終わる”。詩的・情緒的な作品に適している。


重要なのは「クライマックスに向かって感情が上がっていく」流れと、

「そこから読者を着地させる」意識だ。


■ 設計ステップ(初心者向け)


物語で最も“熱い場面”(山頂)を最初に決める


そこに至るまでに、何を積み上げればいいか逆算する


盛り上がりは「障害が増える」「関係が変化する」など、段階的に


クライマックスのあと、静かに余韻へ導く


最後に、物語が“何を伝えたか”を読者に委ねる


■ 書き手への問いかけ


・あなたの物語には、“感情の高まり”があるか?

・そのクライマックスは、読者にとって“意味のある頂点”になっているか?

・ラストで、読者は“登りきった”実感を得られるだろうか?


フライターグのピラミッドは、

あらゆる物語に通底する「感情のリズム」を構造として示したものだ。

だからこそ、ジャンルや形式を問わず、多くの物語に使われている。


登って、登って、登りきった先にある“何か”──

それを描ききるために、このピラミッドはきっと役に立つ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ