表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

象徴的プロット──“物語全体がメタファー”になる構造とは?

少年が旅に出る。

少女が空を飛ぶ。

街が崩壊する。

誰かが夢を見る。


それはひとつの出来事であると同時に、

「何か別のこと」を語っている。


今回のテーマは、象徴的プロット(Symbolic / Allegorical Plot)──

物語全体が、比喩・象徴・暗示として機能する構造について掘り下げていく。


■ 「象徴的プロット」とは何か?

物語の“事件”や“設定”が、そのまま現実や心理の隠喩/寓意/比喩になっている構造。

現実をそのまま描くのではなく、象徴化することで本質に迫る。


代表的な特徴:


ストーリーの中核に「暗喩・メタファー」が埋め込まれている


登場人物・舞台・出来事が“何か”を象徴している


読み手が“解釈する余地”を与えられている


作者の思想や問いが構造に滲む


つまりこれは、“何を描いたか”以上に“何を語ろうとしたか”に読者が触れるプロットである。


■ なぜ人は象徴に惹かれるのか?

● 現実を「距離」を持って見つめられる

たとえば──

死をそのまま描くのではなく、「時計が止まる話」に置き換える。

いじめを、「名前のない獣に追われる夢」として描く。

戦争を、「止まない嵐」として描く。


→ こうすることで、読者は直接的な拒否反応なしに、より深く問題に向き合える。


● 解釈が多層的になり、余韻が深くなる

象徴的プロットは、“読み解く構造”でもある。

つまり、読者が受け取った意味の数だけ正解がある。

それが、記憶に長く残る理由のひとつになる。


● 単なる物語を「作品」に昇華させる

象徴や寓意が織り込まれた物語は、時間を超えて読まれる力を持つ。

時代背景や国を問わず、“人間の普遍的な心”に語りかけるからだ。


■ 象徴的プロットにおける構造のパターン

● 寓話型(Allegorical)

→ 全体が比喩として設計されているタイプ。

例:『動物農場』(ジョージ・オーウェル)=革命と権力の寓話


● 心理象徴型

→ 登場人物の行動や舞台が、主人公の内面を象徴する。

例:『風の谷のナウシカ』=自然と人類の対話/破壊と再生のメタファー


● 抽象世界型

→ 現実には存在しない世界で、具体性より“概念”を動かす。

例:『アルジャーノンに花束を』=知性と人間性の対比構造


■ 代表的な作品例

◎『夜のくもざる』(村上春樹)

現実と夢、記憶と想像が交錯する短編集。

明示的な意味づけはされないが、すべてが“何か”の暗示として漂っている。

読者が象徴に意味を読み取ることで、作品世界そのものが“比喩”として機能する。


◎『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)

列車の旅という形を取りながら、死・愛・信仰・献身などが象徴のレイヤーとして重なり合う。

現実の悲しみを、“宇宙の物語”という幻想で包み込む構造が、永遠性を与えている。


◎『動物農場』(ジョージ・オーウェル)

農場で起きる動物たちの反乱が、実はロシア革命とスターリン体制の批判になっている。

キャラクターもストーリーも完全な寓話形式で書かれており、政治風刺の象徴的構造の代表。


◎『ライ麦畑でつかまえて』(J.D.サリンジャー)

一見ただの反抗期の少年の話だが、“ライ麦畑”という幻想は、純粋性・救済願望の象徴として語られる。

物語全体が“汚れた現実と純粋な理想”の葛藤を描く比喩的構造になっている。


◎『火の鳥』(手塚治虫)

それぞれの章が異なる時代・登場人物で構成されているが、

火の鳥=永遠・輪廻・命の象徴がすべての物語を貫いている。

象徴を通じて、「命とは何か」「文明とは何か」という哲学的問いが立ち上がる。


■ 初心者向け:象徴的構造を設計するステップ

1. まず「物語を通じて伝えたい問い/主題」を明確にする

→ たとえば:


生と死とは何か


幼さからどう脱却するか


社会の矛盾をどう見つめるか


この“主題”が象徴の核になる。


2. それを象徴する「舞台」「人物」「道具」を決める

→ 対象の“抽象化”がポイント。

例:


“絶えず鳴る時計” → 時間への焦り


“海に沈む街” → 忘却された記憶


“言葉を失った少年” → コミュニケーション不全の社会


3. 象徴を“あからさまにしない”ことが重要

→ 明示すると説教臭くなる。

「説明しないで伝わる」ことが、象徴構造の強さ。

それにより、読者の“気づき”として感情が立ち上がる。


4. 物語全体が“象徴の変容”をなぞる構成にする

→ 例:


最初は“閉じた部屋”が、最後に“開く窓”になる


“見えなかった星”が、最後に“見えるようになる”


“失われた名前”が、ラストで“取り戻される”


これにより、テーマと構造が融合し、象徴に命が宿る。


■ 書き手への問いかけ

あなたの物語は“目に見えること”だけを描いていないか?


キャラクターや舞台に、“もうひとつの意味”が込められているか?


読者に「自分で意味を見出させる余白」があるか?


その象徴は、物語の最後まで変化し続けているか?


象徴的プロットとは、“言葉にならない何か”を語ろうとする物語構造である。

それは説明では届かない深層──

つまり、“感覚”や“祈り”に近い感情を、物語で包む行為なのかもしれない。


読者は読み終えた後に、

「あれはこういうことだったのかもしれない」

「これは、自分自身の物語でもあるのでは」

──そんなふうに、静かに物語を抱きしめることになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ