3. 学院
再開ですー
陽翔13歳の時、帝都ログリーナ学院の
入学試験を受ける事となった。
そこは親の権威など全く無意味の
実力主義の学院だった。
幼少の頃からの陽翔の努力を身近で見続けていた
この地の代官の推薦を陽翔の父が認めたためだった。
帝都への出立の日、代官を始めとした
館の使用人全てが陽翔を見送った。
「坊ちゃま。いえ、フィン・エラザス様、
ここにいる皆一同、日々の努力を目の当りにしております。
フィン様の努力が実ることを一同、心から願っております」
「ありがとう。
入学試験に落ちて、直ぐに戻って来なくて
済むように頑張ってみるよ」
陽翔から自然と笑みが零れた。
あまり深く彼等と交わることはなかった。
それでも彼らの見送りは気持ちいいもであった。
学院への実技の入学試験に関して、
陽翔は違和感を覚えた。
館での生活に用いられていた魔術や
魔道具の進化には目を見張るものがあった。
しかし、様々な地域から集まる俊英の攻撃魔術や
剣術等の実力には目を疑ってしまった。
陽翔が見たこともないような魔術の構築と
長ったらしい詠唱、剣を振る前の珍妙な構え、
魔術にしても剣術にしても陽翔が以前に
生きた時代より遥かに劣化しているようだった。
陽翔はあまり目立たないように威力を
調整して、試験に臨んだ。
「おいおい、おまえ、何者だよ。すげーな」
「魔術も剣術もすげーな。
剣術はブラッド流の流れを汲む地方剣術なのか」
「田舎の野人が調子乗り過ぎだろ。何か臭いし」
会場には称賛の歓声と僅かなやっかみの声が上がった。
それらの声に当の本人は困惑気味だった。
「フィン・エラザス、君の試験は終わっています。
場所を開けなさい。それと、君の魔術は素晴らしかった」
エルフの試験官に促されて、陽翔は待機席の方へ移動した。
それから陽翔は他の受験者を注意深く観察した。
どの受験者も基礎能力・耐力はそれなりに高かった。
そこには、才能だけでは片付けられない努力の跡がみられた。
しかし、それを上手く扱うための技術が魔術にしても
剣術にしてもあまりにも稚拙であった。
揃いも揃って珍妙にしか陽翔の眼には映らなかった。
試験の終わった後、陽翔はエラザス家の
館の一室でベッドに寝転がっていた。
「あまりにも平和過ぎて、おかしな方向に
技術が進化しのだろうか。うーん、わからん」
親によって選ばれた学院が間違っていたのかなと
思いながら、陽翔はいつの間にか眠りに落ちた。
陽翔の学院生活が始まった。
座学一般に関しては、陽翔の興味を惹くものばかりだった。
しかし、実技、特に戦闘に関しては
あまりにも周囲の学生の技術が拙く、それとなくレベルを
合わせるのが大変だった。
「フィン君、随分と余裕がありそうだね。
私が君の相手をしよう。本気で打ち込んでみなさい。
魔術でも剣術でもどちらでも構わない」
入学試験の時から時節、このエルフからの視線を
陽翔は感じていた。
観察されているかもしれないとうまく力を
隠していたつもりだが、ある程度見抜かれていたようだった。
何とかその誘いをかわしていたが、
遂には断り切れずにその誘いを受けた。
「剣、魔術、その他諸々、殺す気できなさい」
何て物騒なことを言うんだこの教師はと思いながら、
相手の発する圧力が本気であることを肌で陽翔は感じていた。
「では、お願いいたします」
一礼して、陽翔は剣を構えた。
陽翔の剣技の師は、ブラッドであった。
基礎となる型は徹底的に教え込まれていた。
それは現代のブラッド流といわれている珍奇な剣技とは
似ても似つかなかった。
一瞬、エルフの表情が笑ったように
陽翔には見えた。
「ふむ、見たこともない型ですね。
奇を衒った田舎剣術でしょう」
エフルの言葉に周りの生徒たちは笑いを堪えていた。
陽翔の顔は真っ赤になっていた。
それは、恥ずかしさより怒りによってだった。
この平和をもたらした男の型を笑われ、
友を侮辱されてと陽翔は思った。
「その言葉を後悔するなよ」
陽翔は最速最短でエルフの右鎖骨部に剣を打ち込んだ。
ブラッド流の珍奇な構えのエルフは事も無げにその一撃を躱した。
それらの一連の動きは、陽翔にしてもエルフにしても
あまりにも自然であった。
それに周囲の生徒たちは息を呑んだ。
躱したエフルの横なぎの一撃を難なく躱す陽翔だった。
そこから距離を取り、陽翔は魔術によって大地を隆起させ、
エルフの構えが崩れた所へ火球を放った。
しまった、やり過ぎたと陽翔が思った瞬間、
陽翔は目に映るものを信じることができなかった。
火球は真っ二つにされ、エフルが自分に向かって
突っ込んできた。
陽翔は反射的にスキルを発動させてしまった。
黒い煙が広範囲に広がり陽翔の姿を覆い隠した。
それも一瞬だった。
黒煙は青空に向かって舞い上げられて
雲散霧消してしまった。青空の下に陽翔の姿は晒されていた。
呆然と立ち尽くす陽翔の頭を軽くコツンとエルフが拳で叩いた。
「えっソフィア?」
それは陽翔が幾度となく前世の訓練の中で受けてきた
一撃と全く遜色のなかった。
陽翔はまじまじと目の前のエルフを見つめた。
目の前のエルフは男性であり、確か名を『チェザリーノ』といい、
チェザ先生と呼ばれていたはずだった。チェザは笑っていた。
「誰と勘違いしたのかわかりませんが、
その歳にしては優秀ですね。だがまるで基礎が出来ていません。
改めてここの学院で学び直しなさい」
「はっはい」
陽翔はそう言うだけで精一杯だった。
まだまだ序盤ですが、よろしくお願いいたします。