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2. 転生

まったり冒険譚です。

死して、肉体より切り離された陽翔の魂は、

イメージするならば漆黒の闇の中にあった。

それが死後の世界かどうか彼に

判断することはできなかった。

ただ意識は明確にあり、自分の生き様を

思い返していた。

しかし、それは今際の際の走馬灯のような記憶の濁流とは

違っていた。

 惰性で過ごしていた高校生活。

誰に期待されるでもなく、打ち込むものもなく、

何事にも努力を怠り、卒業後に働く気もなかった。

専門学校か適当な大学に進学するしか

将来のビジョンが陽翔には無かった。

そんな陽翔が何の因果か分からないが、

この世界に突然、召還された。

そして、人類からの理不尽な期待を負わされた。

最初は、死にたくないという思いと

理不尽な期待に反発するだけだった。

しかし、いつしか世界の救済という思いが

心の大半を占めるようになっていた。

5名の仲間の辛抱強い助けや指導も

陽翔の気持ちに多大な影響を与えていた。

いつしか彼の実力と能力は

他の仲間と遜色ないものまでに成長した。


『まあ、あいつらならやり遂げるだろう』

無味乾燥な人生を歩んでいた陽翔にとって

異世界での数年は、何人にも代えがたい経験だった。

死後の意思がどこに流されていくのか

一抹の不安があったが、己の人生に概ね満足していた。


どろりどろりどりと突然、陽翔は、

自分の意思が零れるような錯覚に捕らわれた。

それは、何かに陽翔の意思がゆっくりと握り潰され、

そこから漏れ出るような感覚であった。

それはまるで腐った蜜柑を拳で

握り潰している様であった。


 少しづつ失われていく意識と記憶の中で陽翔は、

異世界での様々な事を思い出していた。

消えゆく陽翔の心には、恋心を抱いていた女性の

容姿が占めていた。

くそっダメもとでも告白しておけば、良かった。

後悔の念がよぎったが、陽翔の心は、

どこかに全て零れ落ちていった。


不意に瞼が開いた。


瞳に映るのは青々とした雲一つない空だった。

陽は強く、一度開いた瞼を再び、閉じた。

再び瞼を開くと、一人の女性が映った。

視覚から他の情報を得ようとも

身体が思うように動かなかった。

脳裏に泣き叫ぶ声が聞こえている様な気がしたが、

暫くするとその声は弱々しくなり次第に聞こえなくなかった。

陽翔は、自分の置かれた状況を整理しようと、

可能な限りの情報を得ることに努めた。


人の話し声が聞こえる。


聴覚から聞き慣れた異世界の言葉と少し違うが、

理解することはできた。


臭かった。


嗅覚から臭いの下を辿り、それが後方から

漂ってくることを理解した。


じめじめしていた。


触覚から布地に包まれて、想像したくないものが

潰れてこびりついていると理解した。


口の中に水が溜まった。


味覚からそれがごく普通の涎であることを理解した。


両手、両足があり、それを動かそうとするが

いまいち思うように動かなかった。

ひとつひとつを掻い摘んで考察し、

一つの結論に陽翔は達した。


「ぎゃー」と元気よく陽翔は声を出した。

声はまだ、泣き声しか出せなかったが、

そこには陽翔の驚きが含まれていた。


『何故か赤子になっている』


 そう結論付けて、早や5年。

陽翔は、元の世界、前回の異世界での経験を活かして、

この世界で呆気なく死なないように努めた。

魂に刻まれた特殊技能やスキルは、

子供、基礎能力では発動させても

大したことはできなかった。

分からない文字もあったが、

概ね読むことができた。


 この世界は、名前の伝わる6名の英雄が

魔の王を打破した時代から400年の時が過ぎていた。

彼らの名は、ブレッド、ガイグリフォン、

リーリア、ソフィア、オリヴェル、陽翔であった。

その中でリーリアと陽翔が帰らぬ人であった。

彼らの物語を読み終えたとき、陽翔の瞳より

自然と涙が溢れ出た。


「あいつらやりやがったか」


陽翔は夜な夜な書物を読み漁った。

彼らの後の人生を知りたくもあったし、

彼らのもたらした平和の変遷も知りたかった。


「僕のいる国は、そうかブレッドが建国したのか。

うーん、エルフのソフィアは生きていても

おかしくないのに記述があいまいなんだよな」

人心地で書物を前に呟く陽翔だった。

時節、真っ暗な森から魔物の遠吠えが聞えてきた。


陽翔の住むこの地域は、

ブレッドが建国したログリーナ帝国の僻地だった。

陽翔は、子爵の6男だったが、母は、

正妻でなく側室だった。

父は正妻やお気に入りの側室と帝都に常駐しており、

僻地の領地は代官を置いていた。

陽翔の母も帝都にいた。陽翔に貴族としての教養を

教える者は皆無であった。

六男であることから、将来、子爵家を継ぐことも

一部の領地を受け継ぐことが可能性が限りなく低い陽翔に

積極的に関わろうとする使用人は皆無であった。

 それを良いことに陽翔は自由気ままに生活をした。

世界は平和であり、森を徘徊する魔物は弱く、

国家間での争いはほとんどなく小康を保っていた。


「ああいい天気だ。みんな、ありがとう。

もう一度、生きられることに感謝するよ」

この世界で生を受けて、10年がたったある日、

陽翔は青空に向かって、そう呟いた。

無論、青空がその感謝に応えることはなかった。

仲間が勝ち取ったこの平和を陽翔は享受し、

楽しむことにした。


まったり冒険物語です!楽しい物語を目指します。

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