1.最終戦
始まり始まり!
主人公は陽翔さんですが、いきなり大ピンチな状況
蘇生魔術、転生魔術。
それは、術者の命と引き換えに死体に魂を引き戻す禁呪。
それは、生ある肉体の魂を滅却させた後に
死した者の魂を代わりに定着させる禁呪。
ともに輪廻の因果より外れ、魂は永遠を彷徨う存在となる。
魔が人の地を望まんと地獄の底より這いだし、
人の世へ襲いかかり早10年。
魔の吐き出す瘴気に覆われた大地は、
作物どころか自然の草木すら芽吹くことはなかった。
地上に住まう人、亜人、そして動物は瘴気に中てられ、
まともに動くことすらままならなかった。
地上に住まう者たちは、天上の神々に祈り助けを
求めるも現状を打破するような奇跡は何も起こらなかった。
人類の都合の良い願いに神々が応じることはなかった。
そうこうしている間に世界の片隅に人類は追いやられ、
滅亡寸前まで追い込まれていた。
そして天上の神々への祈りは、失望から次第に怨嗟へと
移り変わっていった。
人類は持ちうる全ての技術と知識、
そして資源を投入して、5名の強き者と
1人の異界からの召喚者に将来を託して、
魔の根源の討伐を託した。
6名の強者たちが旅立ち5年の歳月が過ぎていた。
彼らは魔の這い出てくる根源の巣、いわゆる魔王城と
呼ばれている城の一角に到達していた。
5名の仲間を導き、剣と魔術の扱いに長けた
銀髪の勇者、ブレッド。
5名の仲間を守り、強大な盾と戦斧で
常に戦場の前線に立つドワーフ、ガイグリフォン。
5名の仲間を癒し、神々の神秘の力を降臨させ、
如何なる傷を癒す聖女、リーリア。
5名の仲間に先立ち、正鵠無比な矢と精霊の使役で
魔を討ち倒すエルフ、ソフィア。
5名の仲間に知恵を授け、内包する巨大な魔力で
様々な魔術を行使する賢者、オリヴェル
5名の仲間の誰よりも早く危機を察知し、
有利な状況を作り上げ、時には魔を闇に葬る召喚者、陽翔。
魔王の鎮座する大広間に通ずる途には、
強大な力を有する魔将たちが6名の仲間の往く手を阻んだ。
幸いなことに魔将たちは協力することなく彼らに
襲いかかった。
そして6名は魔将を各個撃破し、地獄に追い返した。
最後の魔将を倒した時、ブレッドを庇い、
陽翔は深い傷を負った。
陽翔の横っ腹に大きな穴を開けたその傷は致命傷だった。
如何なる回復魔術、回復薬をもってしても治すことが
出来ぬ負傷であった。
陽翔は既に言葉を残すことすらできず、瞳の焦点は定まらず、
呼吸の音は次第に小さくなっていった。
ブレッドは必死に陽翔に語り掛け、
その魂を繋ぎ留めよう務めたが、陽翔の魂は肉体を離れて
天に召された。
「うおおおっーこんなことあってたまるか!
陽翔は!陽翔はこの世界に何の責任もなく、
巻き込まれただけなんだぞ。
あれだけの努力をみんなも見てただろ。
それがこんな結末を迎えるなんて納得できない」
ブレッドは叫び、仲間を見つめた。
この状況をどうにかするための知恵を仲間に求めた。
無論、真っ当な手段で死した者を呼び戻す様な奇跡など
世に存在しなかった。
あるとしてもそれは禁呪の類であった。
ブレッドの錯乱振りに仲間は辟易した。
未だ世に平和をもたらしている訳でもなく、
諸悪の根源たる魔王は存在していた。
気持ちを切り替えるべきだと誰しもが思ったが、
ブレッドを落ち着かせることは叶わなかった。
「一つ案があります」
オリヴェルが呟いた。
ブレッドは、頭を持ち上げてオリヴェルを見つけた。
「陽翔についての思いは皆、ブレッドと同じですよ。
ですが蘇生の法は禁呪。
そして、ここでそれを行使してしまえば、
魔王を倒すことは、非常に難しくなります」
ブレッドは無言であった。オリヴェルの常であった。
まずは現状を分析して悲観的な事柄を上げる。
しかし、その後にそれを打破する案を出す。
「転生の法。禁術ですが、やりかすかブレッド。
我々ならば、この禁呪の行使は可能です。
全員の魔力は空になりますが、
各自が一つ持たされた万物の霊薬を使えば魔力は回復し、
おそらく魔王を倒すことは可能でしょうね」
ブレッドは深く頷いた。
そして誰もそれを否定することはなかった。
「分かりました。この場において、転生の法を行います。
これは人の生み出し秘術にして禁術。
神の奇跡を願うものではありませんので、私が施行します」
オリヴェルは杖で床に魔法陣を描き始めた。
他の仲間は魔物の邪魔が入らないように
様々な護符や妨害術を構築した。
「では始めます」
オリヴェルは宣誓すると、転生の法を唱え始めた。
それと同時に他の仲間はオリヴェルを見守りながら、
魔力をオリヴェルに移し始めた。
短編~中編。長編にはならない予定です。